第17話
トールの問いかけに皆が動きを止める。場を沈黙が支配する。
「ど、どういうこっちゃ? 『王族』や無うて……【A】やと?」
トールがため息をついて、首肯する代わりに目をつぶって見せた。
「できれば最後まで騙せればと思ってたんですが……悪役を買って出たのが無駄になりましたよ」
「えっ? そんな、じゃあ……リンのことも!」
ユキがトールを見つめる。
「トール、やっぱりお前が【A】だったのか。ならオレがいま何を考えているかも分かるな?」
「ええ、この状況を打開するには、【A】の【相討ち】しかない。……お望み通り死んできますよ」
トールの宣言を受けてコーセイが構えを解く。
「それでまだ僕の質問には答えてもらってませんが?」
「ああ、コイツは
「えっ、じゃあ
ユキがその場にへたり込む。
「まあそういう訳だ。勘弁してくれ」
コーセイがニヤリと笑うと、クリハラが呆れたというふうに首を振る。
「ちゃっかり持って来よるとはのう。ホンマにお前っちゅう奴は!」
陣地を大きく迂回してコーセイとトールが断崖に近づいていく。向こうを目視できるところまでたどり着いて、身を低くして2人はグレンツェン側をうかがう。気付かれた様子はない。
コーセイがタバコに手を伸ばしかけたが途中でやめた。間が持たないことに苛立ってトールに話しかける。
「おい、あの二人に最後に何も言わないでよかったのか?」
「今さらですよ。こうなるならリンだって先に行かせるんじゃなかった。もう遅いですけどね」
「後悔を吞み込んで死んでいくってのもつらいだろう? 少しならオレが聞いてやるぜ」
「あなたが訊きたいだけでしょう? 以外とお節介なんですね……まあいいですよ」
中学卒業の年に、トールは両親を失って孤児になった。S高進学を不意にしたくなかったトールは、自分から【夜翁】に才能を売り込んで、後継者レースに参加することにしたのだという。
そしてトールはS高の裏の顔を知ることになる。後継者候補はそれぞれが【夜翁】の管理する奴隷牧場を与えられ、その実績がレースの評価に繋がるシステムになっていた。トール自身も何人もの生徒を奴隷として飼いならすことを課せられ強いられた。
「僕はいつか【夜翁】と対決して、システムを壊して生徒たちを開放するつもりでした。でも今の僕にできることは、せいぜいS高に君臨して【夜翁】の傲慢な横暴の受け皿、緩衝材になることぐらいで……」
「悪役は演じ慣れてたってわけか。奴隷というならリンもそうだったのか?」
「リンは幼なじみで、S校まで僕を追いかけてきたんです。でも立場上リンを特別扱いはできなかった。彼女を守るには、結局他の奴隷と同じように接するしかなかった。……だから彼女が妊娠したと先生から聞かされたときも、後継者レースでつけ込まれる隙を見せられないと……どうしようもないクズですよ」
トールははらはらと静かに涙をこぼした。
「この【ゲーム】に勝って願いが叶えられるのなら、【夜翁】を殺すつもりでした。まあそれも今となっては……」
「まだそう諦めるのは早いんじゃねえか?」
コーセイがトールを見ないまま頭に手を乗せる。
「えっ?」
「そういうことなら勝たなくちゃならんだろうよ。リンのためにもな」
「僕にそんな資格は……そんな未来はありませんよ」
「お前、勝っても生還しないで死ぬつもりだったな? それは格好つけすぎだろ。みっともなくても誰に恨まれても生きろ。そうオレと約束しろ。それが『チーム』を組む条件だ」
コーセイの手にトールが頷くのが伝わる。
「後のことは任せておけ。少しは大人を頼れ。まあオレが言っても頼りないかもしれんがな」
「……はい」「そこは否定しろよ、馬鹿」
立ち上がってトールがライフルを構える。『銃』は【A】が望んだ形で出現するようだ。
「すみません、手が震えて……外すことはないんでしょうが」
「いいさ、オレの肩を貸そう」
中腰になったコーセイの肩に銃身を乗せてトールが照準を定める。発射した弾は向こうの【A】の頭を見事に撃ち抜いた。
「じゃあ、後のことは……よろしくお願い……します……」
【相討ち】のルールには逆らえないのか、トールの身体が紫の炎に包まれる。
「ああ、任された。……すまんな、恩に着る」
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