第13話 (グレンツェン)
「チッ……もう少し粘れよ、根性無しが!」
そう言って飯野は吸いかけのタバコを投げ捨てた。シガーケースから新しいタバコを取り出し、側にいる部長に火を着けさせる。
「まったくで。やはり高卒は使えませんなぁ、社長」
「フン、まあいい。次は……お前だ」
整列させられていた社員のうち、指名された村市が一瞬体を強ばらせ石畳の上に土下座する。
「どうか勘弁して下さい! 5年もこの会社に貢献してきたじゃないですか!」
「貢献するのは当たり前だ。おい部長、こいつはどうなんだ?
「かなり頑張ってくれましたが、最近は成績が少し……」
「そ、それは後輩の指導で」「つまらん言い訳をするな!」
部長に縋ろうとした村市が蹴られて尻餅をつく。それを見て飯野が下卑た嗤いを浮かべる。典型的なワンマン社長の飯野は、権力を振るって社員を縛りつけ弱者を支配することに躊躇しない。
「おい、とっとと次を出せ! 約束は守ってもらうぞ」「は、はい!」
鬼柳が飯野を怒鳴る。しかしこの陣営を仕切っているのは飯野ではない。会社社長の飯野ではなく鬼吉組なのだ。飯野は自分の安全を担保してもらうかわりに、社員を率先して審判台に乗せることを鬼柳と約束していた。部長は社長の心変わりを期待して、いつも以上に腰巾着の役に徹しているというわけだ。
「そ、そうだ羽黒……お前が出ろ! お前のせいで俺の成績が下がったんだ。責任をとれ!」
村市が新入社員の羽黒を睨みつける。自分の命がかかれば面倒見のいい先輩などという仮面はあっさり剥がれる。
「どっちでもいい、早くしろ! 俺は『絵札』だぞ! お前らとは違う、生まれつき持ってる人間なんだ。黙って従え!」
「はぁ、もうどうでもいい……くだらねえ」
ため息をついて羽黒がつぶやく。
「何だとキサマ!」
「お前が先に死ねよ、『王族覚悟』」
羽黒の手に『銃』が握られ、銃声と共に飯野の頭が弾けた。
「……何だ、【J】かよ。『王族』ったって最弱じゃねえか。
石塔をちらりと見て確認した羽黒が飯野の口振りを真似て毒づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます