第11話

 トールが振り返って見ると、石塔の文字盤から【4】の灯が消えていた。


(フォルティス)

A○ 2○ 3○ 4● 5○ 6○ 7○ 8○ 9○ 10◯ X○ J○ Q○ K○


 陣地に戻ったトールは皆に言う。

「次の人、お願いします。これで向こうは【5】以上だと分かりました。しかも相手の様子から近い数……たぶん【5】【6】あたりでしょう」

「何で! 何でトールはそんなに冷静なのよ。リンはあなたの」「愛人の一人だよ。それ以上じゃない」

 声を荒げるユキにトールが抑揚のない声で返す。リンのことを恋人ではなく愛人だと口にする。

 その言葉にユキは驚きを隠せない。

「……嘘よね? リンは妊娠していたのよ? 私や先生とは違う、どれだけトールのことを!」

「今はそんなことを言ってる場合じゃない。生還しなくちゃならないんだ……邪魔をしないでくれ」

「トール! ……分かったわ。やっぱりあなたは【夜翁の孫】、期待した私が馬鹿ってことね。ガッカリだわ。もうやめる! 『チーム』も抜けるから!」

 一気にまくし立て、ユキがトールから離れてしゃがむ。泣いている彼女にアイコが近づいて話しかけている。

「さあ、どうします? 長期戦、短期決戦、どちらを選ぶかだけでも決めなくちゃ……」

「……じゃあ俺が行きます。今は細かく数字を刻んで数を減らそうって、コーチがコーセイさんに相談してました。だから、そうします」

「「シンヤ!」」「シンヤ……すまん」

「これもコーチに教わったチームプレイです。必要なことですから。じゃあ……行ってきます」

 無理に笑顔を作ってシンヤは一人で審判台に向かった。


「……長期戦、つまり消耗戦を選ぶんですね?」

 トールがコーセイに話しかけた。

「麻雀でも初盤は捨て牌から相手の手を読むしかないからな」

 相手の【K】【Q】を殺すにも、理詰めでいくなら何らかの情報が必要になる。ヤマ勘で突撃して自滅したら目も当てられない。

「トールもそのつもりなんだろう? 相手が自棄になったコンビニ強盗とかじゃなければ当然の選択だ。それと刻んでいくなら【相討ち】は重要な戦略だ。仕切り直しができるからな。だからそのこともサッカーの連中には言い含めてある。『チーム』で情報の共有はしているだろうしな」

 コーセイの言う通りならシンヤの数はトールの予想どおり【5】【6】あたりで、【相討ち】狙いだと分かる。


 シンヤが審判台に乗り、鐘とともに【天秤】がゆっくり動き出す。サッカー『チーム』はそれを陣地で横に並んでまばたきもせずに見ている。


 そして【天秤】は今度は水平・・になって止まり、【6】のシンヤと会社員が同時に奈落に落とされる。


 会社員の絶叫と対照的に、シンヤは仲間を思いやって口を押さえ、無言のまま落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る