第8話

 転移した決闘の場所は重苦しい曇天の荒野。石垣を組んだ一段高い『陣地』に13人が立った。

 眼下には裂けた断崖絶壁が果てしなく横に走っている。落ちればまさに奈落。3メートルほどの幅に口を開いたそれを隔てて、向かい合っている対岸に敵側の陣地が見て取れる。

 陣地からは断崖に向かって降りる階段があり、そこには直径2メートルほどの円形のステージが3つ用意されている。選ばれたギャンビットが乗せられる【天秤】の上皿、審判台なのだと雰囲気で分かる。

 陣地には時計台を思わせる四角い石塔が立っている。その文字盤にはトランプの文字が刻まれており、その横に小さな炎が灯っている。


A○ 2○ 3○ 4○ 5○ 6○ 7○ 8○ 9○ 10◯ X○ J○ Q○ K○


「これが出目表ってわけか。死んだやつは命の灯が消えるっちゅうことやな。凝った演出に涙がでてくるわ、クソッタレ!」

 クリハラが足元の石を蹴飛ばす。


 文字盤の上には飾り文字の古語で神の名前らしきものがある。

「フォルティス……おそらく軍神ね」

「読めるのか。さすがは先生だな」

 つぶやくアイコにコーセイがタバコを吸いながら近づく。

「なんとなくね。私にも1本ちょうだい。ラッキーストライク?」

「ギャンブラーのゲン担ぎだよ」

 アイコが咥えたタバコにコーセイがジッポーで火を着けてやる。ライターには弾痕の絵がプリントされていた。九死に一生、これもそんな意味の洒落ジョークだろう。

「ふー、本物はこの背徳感がたまらないのよね。普段は電子タバコだから」

「先生、むこうの神様はなんて名前なんだ?」

 敵側の陣地にも同じ石塔が立っている。アイコがそれを読む。

「グレンツェン……かしら。輝く勝利? 向こうも軍神みたいね」

「神様もヤクザも根っこは変わらんな……っと、くわばらくわばら」

 天罰の雷を道真になぞらえてコーセイが首を縮こませる。


 そうしているうちにグレンツェン側の人間も到着する。向こうは14人、欠けはない。

「子供はおらんようやのう。フリーターっぽいのが5人、会社員と社長で6人。しっかり『チーム』ができとるわ。……それと、向こうにも同業者が3人ばかしおるのようやのう」

「知り合いか?」

 敵を眺めていたクリハラにコーセイが声をかける。敵側のヤクザと組まれたら面倒なことになるという危惧もある。

「ああ、そんな心配はいらん。あいつらは娘のカタキやからな。神様も粋な計らいをしてくれよる。よっしゃ、これは気張って殺さんといかんのう!」

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