第7話 宗門試験
チアン商会に来てから一年が経過した。俺は十歳になり、ユウロンは十三歳になっている。その間に鍛煉は進み、冥閃剣術の縮地法が使えるようになり、気のレベルも第五階梯となった。第四階梯と第五階梯は、第三階梯のパワーアップというもので、第五階梯の気を使って筋力を強化すると、普段の三倍ほどのパワーを出せるようになる。
ユウロンの気のレベルはやっと第三階梯になり、今年宗門の入門試験を受けるらしい。それを聞いた俺も入門したくなった。だが、俺には仙道の基礎知識が足りない。
ユウロンなら仙道の基礎知識に関するテキストを持っているだろうが、見せてくれる訳がない。その点をクリアしないと宗門には入れないだろう。
神仙を目指す者は、いくつかある宗門のどれかに入るのが普通らしい。ユウロンが試験を受けるのは『
現在になっても名前に『洞』が付いている宗門が多いが、立派な屋敷を建てて住んでいる。そして、宗門がある場所には、もう一つの特徴があった。それは魔境と呼ばれる場所に隣接しているという点だ。
魔境というのは妖魔が棲む森などを指す言葉で、危険な場所だった。そこは元の世界で言うパワースポット的な場所で、地脈から星が持つ何らかのエネルギーが湧き出していると言われている。道士たちはそれを
これらの事は故郷の住職から聞いた事である。だが、住職はそれ以上の知識を持っていなかった。
季節は秋になり、ユウロンが宗門の試験を受ける日になった。俺はユウロンと一緒に虚礼洞へ向かった。着替えなどの荷物を持つ役目だ。
途中まで馬車で行き、山の麓から山道を歩いて登る。虚礼洞がある場所まで山道を三キロほど登った。山道の両脇は高い木に囲まれており、周りがよく見えない。その道をひたすら登ると、建物が見えてきた。宗門のある場所は、いくつか山が連なる一番高い山の中腹だった。
綺麗な建物が見えた時、ホッとした。山の斜面を削って建てられた建築物は、京都の清水寺を何倍も大きくしたような建物で一部は石造りとなっている。
大きな門があった。その前には二人の道士が立っており、試験の受付をしているようだ。
「試験を受けるために来たのか?」
「はい。チアン・ユウロンです」
「どちらの試験を受ける?」
その言葉を聞いて、俺は首を傾げた。大学の試験のように希望する学部とか学科が分かれているのだろうか?
「内弟子を希望します」
「ならば、金貨八枚だ」
ユウロンは金貨八枚を受付の道士に渡した。受験料が金貨八枚……金貨一枚が四万円相当とすると三十二万円、高い、滅茶苦茶高い。
「荷物を寄越せ」
俺は荷物をユウロンに渡した。すると、そのまま中に入ってしまった。俺はどうしたらいいんだ?
「お前も受験するのか?」
道士の一人が尋ねた。
「試験には、どんな種類があるのです?」
「内弟子試験と、外弟子試験の二つだ」
「外弟子試験も、金貨八枚なのですか?」
「そんな訳はないだろ。外弟子試験は銀貨五枚だ」
外弟子について尋ねると、雑用しながら仙道を学ぶ見習い弟子の事だと教えてくれた。内弟子は宗門の長老から学び、外弟子は内弟子から学ぶようだ。
俺は迷った。このままだとユウロンが宗門に入り、俺は店の仕事を手伝う事になるだろう。そうすると商人を目指して働く事になる。俺は商人を目指したいのか?
「外弟子の試験を受けます」
それが俺の答えだった。銀貨五枚を払って中に入り、試験会場だと言われた建物に向かう。内弟子と外弟子の試験会場は異なり、外弟子の試験会場は倉庫のような建物だった。
中に入ると六人の受験者が試験が始まるのを待っていた。年齢は俺のような十歳ほどから三十歳ほどの男性も居る。そして、男女比率は男性四人で女性二人だ。
「席に着け、そろそろ試験を始めるぞ。まずは仙道の知識を確認する」
試験官の道士は、ドン・イーミンという名前だそうだ。その試験官が試験用紙を配り、試験が始まった。筆記用具は江戸時代に使われていた携帯用筆記用具である
試験内容を見て肩を落とす。答えられそうな問題が半分くらいしかない。さすがにぶっつけ本番で試験を受けるのは無理があったようだ。ただ今回は試しで受けるだけで、本番は来年だと考えている。
なんとか半分ほどを書いて筆記試験が終わり、周りを見回すとできて当然という顔の受験者たちが目に入る。思わず溜息が漏れた。
「筆記試験がダメだったのか?」
俺が情けない顔をしていたからだろう。十五歳ほどの少年が質問した。目をキラキラさせて髪の毛がツンツン立っている漫画の主人公タイプの少年だ。
「ダメでした」
「実技で頑張ればいい。実技の成績が良くて合格した者も居たみたいだぞ」
「ありがとう。頑張るよ」
「次は気のレベルを調べる。一人ずつ私の前に来てくれ」
最初に先ほど話し掛けてきた少年だった。
「ゼング、お前からだ。まず第一階梯を見せろ」
指名されたゼングは立った状態で精神を集中させると、気を発生させた。
「よし、第二階梯だ」
ゼングが険しい顔になって全力で気を循環させる。何とか気を動かし始めた。
「合格だ」
試験官のイーミンが言った。
「えっ」
俺は思わず声を上げる。その俺にイーミンが目を向けた。
「どうした?」
「気の合格点は、第三階梯じゃないんですか?」
イーミンが苦笑いする。
「それは内弟子の場合だ。外弟子は第二階梯までできれば、合格になる」
という事らしいので、肩透かしを食ったような気分になった。
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