二章 山の怪

第一話 けてがう

某県某市 あるオカルト雑誌の取材記録 持ち込み者T氏


 最近の話なんですけどね、ある程度の大きさの公園って公衆トイレ置いてあるじゃないですか。田舎もそれは同じなんですけど、そもそも公園の使用者が少ないんで静かなもんなんですよ。


 んで外回りの最中にションベンしたくなったんで公衆トイレに立ち寄ったんですけどね、まぁ静かなもんなのになんていうか気配がするんです。


 最初に言った通り田舎なもんで、猫でもイタチでもなんか野生動物が近くに住み着いてるんだろうと思って気にも止めなかったんですよ。


 そんで小便器で用を足していると、物が落ちる音? が二回外から聞こえて来たんですよ。今思うと物が落ちる音にしては、大きかった気もしますけどドンとかコンみたいな音です。


 今日は風が強いしなぁと思ってたら、その後二回同じような音がしたんですよ、そしたらその音近づいて来てるんです。


 ちょっと不気味でしたけど、ションベンしながら動けるものでは有りませんでしたしね、ハハッ。

 それに手を洗おうと思って洗面台まで来て周りを見たらなにもいませんでしたし、洗面台の鏡にもなんにも写っていませんでしたんで。

 野生動物だったんだろうと思って手を洗ってたんです、んで洗い終わって顔を上げて鏡を見ると。


 いたんですわ、藁笠被って簔を体に巻いててやけに長い足が生えた化け物が後ろに、蜘蛛みたいに身をかがめてこっちを見とるんです。

 身を屈めても二メートルぐらいあったんで、立ち上がったらどんなサイズになるんでしょうね。もう会いたくもないですけど。


 その時は肝が冷えましたね、藁笠に隠れとったんで目がどこにあるかはわからんかったんですけど、絶対に目を合わせちゃいかんと本能的に感じてました。そしたら後ろからぬうっと伸びてきたんです指が。


 さっと血の気が引いて脂汗をかいたのを今でも覚えています、そしたらどうなったと思います?


 どんぐりがね、ポトンと洗面台の脇に落ちたんですわ。


 そしたら化け物が、けてがう? みたいな人とも獣ともつかん鳴き声で鳴いてフッと消えたんです。


 その後? 血相変えて逃げ出しましたよ、あの時は死ぬと思いましたからね。そんで車に戻ったら車のボンネットの上にね、どんぐりやきのこや栗なんかが山盛りになってるんですよ、季節でもないのに、それはもうこんもりと。


 その時の山の幸ですか?そんないいもんだとも、思いませんでしたけどね。さっきのこともあって気味が悪くなって、そこいらに全部捨てて帰りましたよ。


 これぐらいしか話ないけどよかったですかね? 俺としてはいいんだけど、あっそう喜んでくれるならいいや。


 俺はまた山の方行かないと行けないからさじゃあ、またなんか見つかったら連絡するよ。


 ドアが閉まり車の走りさる音。


 足元に転がるどんぐりが画面に映る。


 撮影者がどんぐりを拾おうとする。


 白く細長い足のようなものが映り画面が激しく揺れる。



 けてがう



 映像が乱れて終わる。

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