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 石畳さんには、夜叉が池伝説のこと、私と伊織利さんの関わりについては全てお話しておいた。石畳さんは、真面に聞いてくれて


「なるほどなぁー そういう 現代科学でも説明つかないことは よく あるよ 僕は君の話を信じるよ 君と糸姫様の関わりをね 僕は、実は福井県の坂井というところの出身なんだ。そこでも、昔からの言い伝えがいっぱいあったんだよ それに、一度だけ その夜叉が池にも写真を撮りに行ったことがある 確かに神秘的な場所だった」


 と、言う訳で、石畳さんが雰囲気が夜叉が池に似ているからと、日光の奥 群馬県寄りのところに静かな池があるからと、そこを撮影場所に選んでくれていた。だけど、公開はしないと言う約束だった。


 当日は、車で迎えに来てくれていて、私は東武宇都宮の駅まで出て行ったのだ。朝7時の待ち合わせ。石畳さんは朝早く出てきてくれたのだろう。この人のことは信用していて、二人っきりの車で出掛けることについては何の危険も感じていなかった。私は、ミントグリーンのカップ付きのタンクトップに同じくグリーンの縁取りをしたラッシュガードに下はピッタリとした白のジーンの短パン姿なのだ。


「眩しいね それに 髪の毛を留めていない真織ちゃんを初めて見た すごく いいよー」


「ふふっ ありがとうございます せっかくの記念の写真だから 冒険しました」


「うん 後悔させないような いい写真を撮るよ」


 車は日光から中禅寺湖を過ぎて、山を越えて群馬県側に入って、途中車を停めて、30分程山道を歩いた所。静かな池のほとりに着いた。まわりは樹々に覆われて静かに水が蒼く澄み切っていた。辺りには勿論誰も居ない。夜叉が池に似ている。


 早速、池のほとりに立って、私は、ラッシュガードを脱ぎ去って撮ってもらっていた。そのうち、靴下を脱いで池の中に足を浸して・・・


「真織ちゃん 大丈夫か? ぬるぬるしない? さすがに緊張しているみたいだよ もっと 自然を楽しむように・・」


「だって 写真撮られてるって思ったらー あのね 勝手に遊んでいるから 適当に撮ってぇー」


 その後は、私は好きなように水辺で遊んでいて、石畳さんは何枚もシャッターを押していたみたい。だけど、私は、もっと決心していたことがあったのだ。だから、余計に緊張していたのかも知れない。


「石畳さん あのね 生まれたまんまの身体もいいかなぁー」 


「へっ? 全部 脱ぐの?」


「うん 真織は まだ ・・・ そのー 男の人と・・・経験ないから・・・ その前に・・・」


「そうか 僕の前でも平気なの?」


「石畳さんは 変な気起こさないから・・・信頼できるし マオの記念にしてね」


「わかった きれいに撮るよ きっと 君なら綺麗だよ 女神みたいに・・・」


 それでも、私はやっぱり恥ずかしくって 身体は池の方を向けたままで・・・その時、石畳さんが「真織ちゃん こっち!」と、振り返って・・・


「うん あどけない いい表情だ その調子」と、何枚も撮ってくれていた。


「寒くないかい? 今日は天気も良いし 出来れば、夕陽に照らされた君の身体を撮りたいんだけど・・・」


「ええ まだ 少し 時間ありますね」と、言う私に着ていたジャンパーで被ってきてくれていた。夕方までの時間、私が持ってきていたおにぎりを食べながら


「うまい 君は素晴らしいよねー 彼氏は こんなの いつも食べているんだろう?」


「うん まぁ 時々」


「そうかぁー 羨ましいなぁー 君も幸せそうだ」


「うふっ 幸せなんですかねー」私は、石畳さんのジャンパーを羽織ったままなんだけど、自分が素っ裸だってことを忘れていた。


 辺りが茜色になってきた頃、私は再び池の水際に向かった。もう、恥ずかしさも無くて、自然と池に誘われていたのだ。片側から夕陽が差し込んできて、カメラに向かって手を広げていた。そして、そのうち髪の毛も水をすくって濡らして自分でもその気になっていたのだ。


「良い写真が撮れた まるで 女神だったよ こんなのおそらく 僕の 生涯で一度きりなんだろな ありがとう 申し訳ないけど 中年のオッサンの眼で見てしまっていたよ 汚れが無くて健康的な輝いている美しい身体だった そんなの拝めるなんて世界中で僕一人だろうな」


「私こそ ありがとうございました いい記念になったと思います 石畳さんで良かったぁー でも 二人だけの秘密にしてくださいよ 写真も」


 そして、石畳さんは中善寺湖で日帰り温泉というとこに車を停めて、身体が冷えているだろうから温まりなさいと勧めてくれた。彼も一休みしたいからと言っていた。


 その後、日光市内のレストランに連れて行ってくれて、フランス料理風だった。近郊の野菜を使った前菜とスープ。ニジマスだというミィキュイに那須和牛の炭火ステーキと自家製のパン。どれも美味しくって初めて食べるものばっかりだった。


「今日のことは彼には話してあるのかな?」


「いえ 人前で服を脱ぐなんて 言える訳ないじゃぁ無いですかぁー」


「だろうな 僕も まさか お嬢さんなのに そんなことするなんて 思ってもいなかったからー 戸惑っていたんだよ」


「ふふっ 石畳さんじゃぁなかったら お願いしてなかったかも・・・ 密かに 決心していたんです でも 結婚できたら その時には彼にも・・・」


「そうか 君は 思い切ったことをするね」


「母の影響かも 私は 母の分身らしいからー」


「そうなんだ 愛されて育ったみたいだね」


「ええ とっても 大切にされて 母に言わすと 宝物だって だから、私が彼の傍に行きたいって言い出した時も 縦帯伊織利って 彼 言うんですけど 宝物を奪っていくのねって・・・」


「そうか 縦帯君かー 宝物をゲットした訳だ 確かに君は宝物だよ つくづく 彼が羨ましいよ」


「私 幸せになるんです 今も幸せなんですけどー もっと・・・母への恩返し」


「だよね 結ばれる運命の男と女なんだものなー こんなこと言うなんだけども・・・最後の1枚を撮った時 池から水柱が立ったように思えたんだ」


「そんなぁー 又 私を夜叉が池に連れ戻そうとするんですか」


「いや 今の君を見ていると 糸姫様も安心しているだろう むしろ 喜びの水柱だったんだろうな」 


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