6-4

 月曜日、私は我慢出来なくて伊織利さんに会いたい どうしてもとおねだりしたら、彼はバイトを10時で切り上げるから部屋で待っていると言ってくれたのだ。そして、私もバイトを終えて急いで彼の部屋に行った。


 部屋に入るなり、私から彼の胸に飛び込んでいって、キスをせがんでいた。しばらくお互いに舌を絡ませて、ベッドに倒れ込んで、抱き合った後


「どうしたんだい? なんかあった? 急に・・・」


「うん あのね 話聞いて これは、本当の話らしいからー 深川翠さん 知っているでしょ?」


「あぁー マドンナ」


「土曜日にね あの人に呼ばれて おウチに遊びがてら、行ったのよ そこでね あぁー 何から話たらいいのかなぁー 混乱してしまってー」


「まぁ 順番はどうでもいいよー」


「あのね マオとイオは 普通の関係じゃぁないかも知れないの」


「普通? だよな まだ マオと最後までしてないしー」


「もぉー 真面目に聞いて! そーじゃぁ無くってぇー! ずぅーっと ずぅ~ぅっと昔に愛し合った仲なのよー だから、マオは最初にイオを見た時、初めてでなくて懐かしい気がしたのよー それに、ふたりで 似たような夢をみたって言ったことあったじゃぁない! あれは 偶然なんかじゃぁないのよー」


「ふ~ん・・・ マオ 情緒不安定なんか? まぁいいやー それで マドンナとどういう関係が?」


「あの人の家族はね7年前位にこっちに越してきたの その前は福井の山奥といっても岐阜にも近い所 その県境辺りにね 夜叉が池というところがあるの 翠先輩の弟さんがね 小学校の3年生の時に行方不明になっていて、だけど、そこに迷い込んだらしいの その時に着物姿の女の人が現れて、その人は着物を脱いで裸身で弟さんを抱きしめるようにして池の中に連れてったそうよ 2.3日はそのままだったみたい それで、4日後に突然帰ってきたんだけど、全身ずぶ濡れだっんだって」


「そう その不思議な話をしたかったんかい?」


「違うよ! まだ あるの! その弟さんがね言うには その時の女の人 糸姫って言うらしいんだけど、弟さんを岸に戻して池の中に消えていくときには大蛇の姿になっていたそうよ それでね その人に抱かれている時に、身の上話みたいに聞かせてくれたのがね その池には昔から竜神白雪様が住んでいると言う言い伝えがあって、村には飢饉が続いたので、生娘を生贄として差し出して雨を降らせてもらおうと その女の人 糸さんが選ばれそうになったんだって その時、糸さんには愛し合った男の人が居て ふたりで竜神様に許してもらう様にお願いしようと 池に向かったの だけど、竜神様は聞いてくれなくて 糸さんだけを連れ去ったんだって! それで、自分の娘になれって、大蛇に化身させられたそうよ その竜神白雪様には好きな人が居たんだけど叶わなくて、糸さんに嫉妬したみたい でも、その後 その村には飢饉も洪水も起こらなくなって、それから、村人は糸さんのお陰だと、でも、無理やり生贄にしたから恨まれてるに違いないと竜神白雪様と併せて糸姫様の伝説の夜叉が池と呼ぶようになったとか」


「あっ そう 言い伝えだろう? その弟さんもどっか 洞穴で寝てしまっていて、夢でも見たんだろうな」


「・・・ まだ あるの その糸姫様が言うには 愛した人 いらぶさんを探してと・・・ ねぇ 聞いたこと無い? イオと出会った時 マオの口からー いらぶって 意味のわかんない言葉 あの時 誰かが言わせたのよー」


「・・・ある イラブかどうか 忘れたけどー そんなようなー」


「ねっ! それにね 先輩の弟さん 大地君って言うんだけど マオの顔を見て 糸姫様って・・・絵を描いていてね その糸姫様の マオはそっくりなんだって そのままなんだってぇー 先輩もそのことは言っていたから確かなんよー」


「よせよー マオがその糸姫様の生き写しだってかー たまたまだよー マオはきれいだものー そーなってしまっただけちゃう?」


「たまたまじゃぁないみたいよ その糸さんに妹が居てね また、その村に災いが起こった時、今度も生贄をってなって 危険を感じた糸さんの家族は山を越えて岐阜のほうに逃げたそうよ・・・ マオのおばぁちゃんの先祖は滋賀と岐阜の県境の山ん中なの」


「・・・マオは その糸姫様の遠い末裔だってか? そんなことってー」


「だけじゃぁないのよー イオも・・・」


「俺? なんでー」


「そのいらぶさん ひとり残されて、逃げたそうよ 村人からー 山を越えて、琵琶湖、そして また 山を越えて・・・どこにたどり着くと思う?」


「あぁー それは・・・小浜か三方」


「そうよ! 確かイオの先祖は三方って言ってたじゃぁない?」


「まさか 俺は そのイラブっていう人の末裔なのか?」


「そうよ だから 二人で似たような夢見たんだよー あれは、二人が竜神様にお願いに行った時の 夜叉が池のほとりなのよ!」


「そんなことって・・・あるわけないよー」


「あるよ! じゃぁ どうして マオは初めてイオに会った時 前から知っているような懐かしく思えたの? どうして、知らないはずのって叫んだの? あれは、きっと糸姫様の声よ! どうして、二人が同じ夢見るの?」


「まぁ まぁ 落ち着けよ じっくり考えよ!」


「ねぇ イオの先祖にいらぶって人居ない?」


「そんなこと 知らないよー」


「調べてよー」


「そーいうけどなー 大昔の話だろう わかるかなー」


「イオ 今の話 信用してないやろーぅ? ウチを疑ってる?」


「いいやー でも 怒ってるんか?」


「怒ってなんかおらへんけどなー ウチがイオを追ってここに来て、深川翠さんに出会って、その弟さんにも・・・ 糸姫様に導かれたんやー あのなっ! その弟の大地君 行方不明になって帰ってきてから、村の祭りの横笛をすごく上手に吹けるようになったんやってー それまでは、全然そんなこと無かったそうよ だから、こっちに越してきてからもフルートで・・・天才的なそうよ 糸姫様が特異的にさせたんだって! それに、併せて翠先輩もピァノがすごく上手になったそうよ そのピァノにウチは魅かれるように・・・全部、糸姫様が導いてくれたのよー」


「う~ん・・・ 出来過ぎた話だなーぁ フルートかぁー 俺も突然 練習したなぁー」


「わかったわ じゃあね! ウチは夢で見たのよ 糸姫様に抱かれてね そして、(真織 伊良夫さんが見つけてくれたのね 幸せになって 沢山の元気な子供を産んでね 私の無念を晴らしてちょうだいな)って言われたワ 眼が覚めたら、着ていたものが汗をかいたとは思えないほど濡れていたの 池の水よ それに、あそこも湿っていたわ・・・ イオだか そのイラブって人にだか 抱かれている夢も見たわ それと ウチがね マオがあの時 いらぶ って叫んだ時 どうして 伊織利さんは 戻って来てくれたのよ!」


「うっ ・・・ あの時 このままじゃぁ ダメだって どこからか 声が・・・」


「ほらぁー 私達は 結ばれる運命だったのよ 糸姫とイラブさんの・・・」


「・・・ そんなことって・・・」


「マオはね その夜も昨日の夜も 震えて怖くって イオが側に居てくれたらってっ 思ってたの・・・」


「マオ 泊まっていくか?」


「あー 外泊の届けしてないからなぁー」


 でも、私はイオのベッドで寄り添って寝たのだ。彼は、抱きしめていてくれた。でも、「沢山の元気な子供を産んでね って言われたんだろう?」と、言いながらも キスを交わしただけで、私の身体をやさしく朝までず~っと抱いていてくれただけだった。

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