4-5

 私がぐずぐずしている間に5月の連休に入っていて、峰ちゃんクラブも日光の駅前で行われる2日間のフェスタに参加することになっていて、私も駆り出されていた。屋台も新しいキッチンカーに代わっていた。車の中で立つこともできるし、横が上に開いて屋根みたいになるやつ。勘治さんていう人が、寄付してくれたらしい。もっとも、売上の幾らかを返していくらしいが・・。別の軽自動車で、私と真菜にしのぶさんと 桐山健介きりやまけんすけ農学部の2年生 の運転で会場まで、キッチンカーの方には、朋子リーダーと 鏡壱之進かがみいちのしん工学部の3年生の運転で向かっている。今回は6人でやることになっている。新入生も二人入っていたのだが、今回は参加していなかった。


 会場では、勘治さんを紹介されて、彼は我々の横でテントを構えていた。頭の横は見事に刈り上げていて、頭の上は髪の毛をちょんまげみたいにしていて、ハチマキをしている。割と身体付きも大きな人で一見怖そうな所謂、テキ屋さん風なのだ。彼は、ハンバーガーみたいな小さなサイズのお好み焼きに、八溝豚のベーコンという私には初めて聞く名前で、上にトッピングするらしい。のぼりには(幻の豚ベーコン)という文字があった。手伝いの女の子がひとり連れ添っていた。脚が長くてジーンの短パンにノースリーブのTシャツ姿で高校生かというような元気そうな娘。我々は、外房の海のタコ入りという怪しげな看板だった。たこ焼き6ケ\400という 高めの価格設定かなって私は思っていたけど、意見を言える立場じゃぁないので、黙っていたけど・・・。そして、揃いのオレンジの峰ちゃんと書かれたTシャツに腰だけの赤い前掛け。


 10時頃になって、チラホラ観光客の姿があって、女子は呼び込み、男子は焼き手になっていたのだけど・・・最初は素通りしていく人が多くって・・・だけど、隣では時たま求める人が居て・・・11時頃には、数人が並んでいた。我々のほうは、焼きあがったものが溜まり始めていた。


「マオ もっと声出してなーぁ 可愛いんだから 男はすぐ乗って来るよー 真菜は愛嬌で女を呼び込め!」と、車の奥から壱之進さんが


「なんやのー 私は 男の子ダメなのー?」


「いや そ~いう訳じゃー 男でも良いよ けど マオは女の子には反感買われるんじゃぁないかと・・・真菜は女の子にも愛着を感じてもらえるんちゃうかなーって」


「どっみち 私は チビでブスですよーだ」と、言いながらも、みんなで改めて、呼び込みをしていると何人かは寄ってくれるようになったけど、蜂蜜レモン水のほうが\100なので結構売れていったのだ。それでも、私も張り切って声を掛け始めると


「本当に 国産のタコなんか? モロッコとかじゃぁないの?」と、男の子の3人連れが立ち止まってくれて


「ええ 漁師さんが獲ってきたんですよーぅ」


「あたりまえヤン タコが向こうから歩いて来るわけないよーな」


「・・・でもー タコさんが食べて ちょーだいなって・・・向こうから・・」と、もじもじしていたら


「ふふっ 君 可愛いなぁー じゃぁ とりあえず1つ 旨かったら 帰りにも寄るよ 確かにタコに外房ってかいてあるんだろうな!」


「書いてへんねんけど 食べたらわかります! 味音痴 ちごーぉたら」とムキになって言い返していた。


「うー ますます 可愛いなぁー」と、なんだかんだで3人とも買ってくれた。


「その調子だぞ マオ」と、壱之進さんも調子に乗って来ていた。それからは、私が声を掛けていると男の子なんかは立ち止まって買い求めてくれていたし、カップルにも声を掛けていると男の人が買ってくれて、確かにその女の人は面白く無いような顔して待っていたのだ。


 お昼近くになるとそこそこ忙しくなってきたのだが、隣はもう行列が出来ていたのだ。向こうは\500なのだけど、ボリューム感が違うし、ワックスペーパーに包んで食べ歩きしやすいようにしていることもあるんだろう。幻の・・・っていうのも効いているみたい。20枚位を並べて焼いているんだけど、勘治さんは大汗で動き廻っていたのだ。


 そして、最初の3人組がまた やって来て、買い求めてくれたんだけど


「ねぇ ねぇ 君 学生? 連絡先教えてよー」と、しつこくって、それを聞いた朋子さんが


「あのねー そーいうのって 隣のお兄さんの許可要るよー 彼氏なんだからー」と、勘治さんの方を指していた。すると、3人は黙り込んでしまっていたのだ。


 夕方5時過ぎになって、隣は早々とテントも片付けていて、勘治さんが朋子さんのとこに寄って来て


「まぁ こういうとこのフェスタでは、もう少し工夫せんとあかんなぁー 外房のタコだけでは客は呼べへんでー せめて明石なんやけど高いからなぁー それより、あの子 マオってゆうんかー? 頑張っとったやないかー 美人は得やのー 峰ちゃんクラブの秘密兵器やなー 今度 メシでも誘ってええか?」


「ダメです! 直ぐに手 出そーぉとするんやからー 彼女はもう売約済みです 残念ですねー」


「ええーっ もう 売れたんかいなー そーやろなー 男がほっておく訳ないわなー」


 その日の終わりの反省会で、思ったほど売り上げが伸びなかったので、みんなが感じたことを出し合っている時に私は


「あのー 3個串に刺すってのはどうでしょうか? 団子みたいに \200で 買いやすいみたいなー」


「うーん 売上単価下がるしなぁー 冒険やでー」


「でも 買いやすいと思うんですよ 売上単価は客数でカバーできます それに 串の方が食べ歩きしやすいんじゃぁないですか?」


「でもよ パックじゃぁないと 熱くて持てないぞー」


「・・・それは・・・ ペーパーの大き目を用意して端っこを持つようにすればー 2本買ってくれた人には 隣みたいに袋状の奴を用意すればいいじゃぁないですかぁー カップルだったら その方がいいかもー」


「私は ええと思うでー やってみる価値あるかもね」と、朋子さんが言ってくれて、明日はその案で行くことになった。それから、串とかぺーパーの手配に朋子さんは勘治さんの手を借りていたのだ。


 そして、次の日。10時過ぎになって、売れ出したのだ。11時頃には数人が並び始めて、中には5本まとめて買う人も出てきて、少し大きめのパックも用意していたので、それで対応していた。好評だったのは、2本用の袋状のペーパーのでカップルが買い求めていた。そして、蜂蜜レモン水もカップに2本のストローを刺して、それぞれにたこ焼きの串の袋とカップを別々に持っていて、それを見た別のカップルも列に並んでいたのだ。お昼頃になると隣よりも多くの行列が出来ていた。


 この日は、売上金額も昨日の2倍近くで、材料も無くなってしまったので、4時過ぎには店じまいをしていたのだが、勘治さんがまた朋子さんに


「今日はお前等にやられたなぁー フェスタの中でも一番並んでたんじゃぁなのかな 考えたなぁー やっぱり 現役は頭が柔らかいんだなー まいったよ」


「ふふっ 勘治さんの言う 秘密兵器の提案よ」


「あっ あの子か? べっぴんさんってだけじゃぁ無いんだな いい女だよなー 泣かせてみたいのぉー」


「またぁー そんなことを・・・ ダメだよ! まだ 半熟卵なんだからぁー」


 私は、この人達の会話はよくわからないが危険を感じていた。そんな風なの? もしかして、朋子さんも勘治さんとそれなりの関係なのかしら・・・と、思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る