3-6
高3の夏休み、もうすぐ終わろうかとしていた。私は、カイを散歩に連れて、自然と足はあの人の家のほうに向いていた。もうあれから2年になるんだ。私があの人にあの時、ひどいことを言ってしまってから・・・
あの人の家に差し掛かった時、庭の中から
「真織ちゃぁん こんにちわ ワンちゃんのお散歩?」
「あっ こんにちわ 暑いですよねー」
「そう さっき こっちに来たのよー お花たちにお水をあげていたの 雨が降らなかったでしょ だから・・ 気になっていたのよ そうだ! 丁度いいわー お茶しましょ 寄って行きなさいよ」
「えぇ でも カイが・・・」
「カイっていうの この子 大丈夫よ 門を閉めとけば 出れないし 放しておけばーぁ 勝手に歩き回っているわよー」
と、カイにお水だけあげて、私は家の中に案内されていた。リビングはエアコンでないのだけど、どこからともなく、なんとなく涼しい風が流れてくるのだ。おばさんはステンレスカップに氷を入れてきて、そこに熱い紅茶と蜂蜜を同時に注ぎ込んでいた。
「これは、私のお友達がやっている福知山の蜂蜜なの 紅茶が黒くなるんだけど、健康にいいからね」
「あっ おいしいぃ おば様はいつも紅茶なんですか?」
「そうね コーヒーはあんまり飲まないわ そうだ フィナンシェあるわよ これっ おいしいのよー どうぞー」
「うん これも おいしい おば様はいつも なんだか 優雅ですよねー」
「そうね こっちに来ている時は 時間が停まるわ あの子が居なくなってからは 特にネ 私ね ハンドタオルとかナプキン使って パッチワークしてるのよ そのソファーのもそう 夏用にサラサラとしたナプキン お洗濯もできるしネ」
そういえば、私の座っているソファーにも掛かっていた。カラフルなものの組み合わせ。
「素敵ですねー いろんな色で楽しくなります」
カイはお庭を歩き回っていたのだが、飽きたのか疲れたのか リビングのベランダに寄って来て座り込んでいた。
「そうだ 去年はね ベッドカバーも作ったの ハンドタオルでね でも、途中で横着してフェイスタオルも組み合わせちゃったの 後で、見てちょうだいネ お花柄とかあるから、もっと楽しいわよー」
半分螺旋状になった階段から2階の部屋に案内されて
「伊織利の部屋なんだけど・・・女の子を入れたなんて内緒ネ!」
あの人の部屋。私は、急にバクバクしてきて、ドァを開けられた瞬間 顔も火照ってきているのがわかった。足も動かなくて、部屋の中に踏み入れることが出来なかった。
「遠慮しなくていいわよ 母親の特権よ! さっき 窓を開けて、空気を入れ換えているの」
確かにレースのカーテンなんだけど、なまぬるい風が入ってきていた。机と本棚とベッドだけの部屋。そのベッドには、パッチワークのタオル地のカバーが 確かに、黒とか紺の色が多いのだけど、バラとかリンドウなんかの花に混じって、ライオンとかトラの動物の絵もあって楽しそうなのだ。ここで、あの人は寝ていたのだ。気のせいかあの人の臭いを感じる・・・懐かしい・・・。でも、それは、私の記憶の底から想い出させるような・・・不思議な感覚。
「ねっ 面白いでしょう? これっ!」
「あっ そうですね! 私 こんなので毎日 寝たいなぁー」
「ふふっ ありがとう そう言ってもらえて うれしいわー ねぇ 真織ちゃん 泊まりにきたら? ここで 寝ればいいじゃぁない!」
「エッ そんなこと できるわけないじゃぁないですかぁ 伊織利さんのベッドでー」 私は、思わず言ってしまった。伊織利さんってー まずったと思ったけど
「それも そうね!」と、おばさんは気に留めなかったみたい。
机の前の壁には、彼のラグビーボールを持って走っている写真が そして その横に 厚めの画用紙だろうか (関係ないやん ウチの勝手やろー てっか? 俺が好きでいるのも勝手やろー ず~っと) の文字が乱暴に書いてあった。
私が、しばらく、それに見い入っていると
「あの子 バカでしょ こんなの ずーと貼っているのよ よっぽど その子のことが好きみたい ろくな女の子じゃぁ無いのにねー 本当に真織ちゃんみたいな良い子だったら 良かったのにー あの子ね フルートも上手なのよ 中学の時 突然練習しだしてね」
(そうなんです ろくな女の子じゃぁ無いんです おば様ごめんなさい 私 バカ女なんです でも・・・伊織利さんのこと・・・好き) その時、決まった! 私 この人のとこに行くって だって こんなに私のことこんなに好いていてくれるんだものー 会ったら、謝って 私も好き! って言いたい。
その書いてある文字をなぞっていたら、おば様は不思議そうな顔をして見ていた。私は、少しでも近づけるような気がしていたから・・・。私は、あなたと結ばれているはずなのよー
「ごめんなさい おば様」
「えっ なんにも 真織ちゃんが謝ることじゃぁ無いのよ そうだ 真織ちゃんの写真送ろうかしら こんなにきれいで気立ての良いお嬢さんが近くに居るのよって あの子の気持ちも変わるかもよ」
「えー そんなことだけは やめてください!」
「あっ そう? 真織ちゃん 誰か好きな人居るの?」
「・・・居ます・・・離れてますけど」 心も・・・って
「あらっ そうなの 残念ねぇー 伊織利にって思ってたんだけど・・」
私は、それ以上 居たら 耐えられなくなると・・・お詫びとお礼を兼ねて丁寧にお辞儀をして、カイを連れて戻ってきたのだ。
帰り道で 私 受けます そして きっと 合格して あなたの傍に行きます と 決心していた。
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