13話 あだなす者の影 2
シェマとティフィンが、屋敷の土間に横たえられた病人すべてに薬を飲ませ、様子を看たりしていたら、辺りは、とっぷりと日暮れていた。
それから、ぱちんと火がはぜる
下座に若者と、はげ頭がいた。
はげ頭が
シェマとティフィンの顔を見ると、
「お犬さまは、土間の
若者の報告を受けた。
「さぁ。なんもございませんが。だんご汁です。召しあがれ」
ちなみに火力調整は高さちがいの五徳でする。
鍋の中で、くつくつと煮立っているのは、白めの味噌仕立ての汁のようだった。
今日の一件で、
「わしのちいせぇ息子も毒水を飲んで、あぶないところでした。さっき、顔、見に行ったら、すやすや寝ておりました。ありがとござんした」
下働きの女だろうか。シェマとティフィンに、だんご汁をよそってくれた。
大ぶりの木の椀を、シェマは両手で受け取った。
具材多めの汁だ。それでいて、具材はこまかく刻んである。そうすると、よそったときに不公平が出ない。そして火の通りが早い。修道寮の食堂で出る汁もそうだった。
今は、この屋敷は病人を抱えているから、いつもより具材がこまかいのかもしれない。だんご汁と言っていたから、だんごが入っている。粒々茶色の穀物まじりの、それだけは、そこそこの大きさのまんまるなのを、ぺたんと指でへこましてあるのだった。歯でかみきると、もっちりとした。
(病人たちが、この汁を飲めるまでに回復すればいいなぁ)
シェマは願った。
「—―気になるのは、
ティフィンは食事を終えた後も、若者と
「あなたがた
はげ頭、
「お許しを。今は、もう、ご一行さまを魔物などとは思っておりません」
(っぽい何かではあります)
床に、はげ頭をすりつけんばかりの
自分の中にいるユーフレシア皇子は、術による出現だし、たしかに呪術者。ティフィンも魔導を扱う。
「しかも、われらを討ったなら、イェルシャーライは
ティフィンが自覚なく低い声で言うと、本当に恐ろしい光景が想像できた。
「ひぃぃ」
若者と
「これからは、流れの
「はいっ。いらっしゃーいの印を必ず、たしかめます!」
しかし、それ、言いまちがっている。
シェマは言いたかったが、ティフィンが表情をくずさない上、言いまちがいを訂正する気配もないので、若輩者の自分が出過ぎた真似ができない。
『イラッシャーイ……』
ずっと、頭の中でユーフレシア皇子が笑っているのが、ただうっとおしかった。
その夜は、そのまま
シェマは横になると、すぐに寝入った。
寝入ったはずのシェマの目が、冴え冴えと開く。
そこに宿っているのは、ユ―フレシア皇子の目の光だ。
『ティフィン、誰かが、この
「そのようです」
『
シェマは、つまり今はユーフレシア皇子は、どうにか思い通りに動かせる右腕を伸ばした。指先が、やっと、
『ひざを、ティフィン。おまえのひざで眠りたい』
ユ―フレシア皇子の言葉に、ティフィンは
シェマの口元が笑った。
そして、すぅと、寝息をたてはじめた。
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