第13話 初めまして我が家①
「うにゅ……」
頬を突かれる感覚、少しずつ目覚めてくる意識。目を開けて見えるのはお母さんの顔と知らない天井。
「起きた〜?」
もう聞き慣れつつある能天気なお母さんの声。優しく頭を撫でてくるその手はとても気持ちがよかった。
「ふぁ〜おはよ〜」
ボクは昨日の出来事を思い出す。病院を退院して、初めてのお外、ポテトのおじいさん。そこから突然のスカウトからのVtuber配信……。配信は確か、いろいろと決めて……。
「配信!?」
最後に眠ってしまった。寝落ちによる配信事故なのだ。
「大丈夫よ。あのあと社長さんがやってくれたから」
お母さんは慌てるボクに落ち着いた声で話しかけてくる。どうやら、ボクの寝落ちによるやらかしは不問になったらしい。むしろ、こちらが困っていたのを助けてくれてありがとうとのこと。
安心したボクは身体を起こし、周りを見渡すことにした。そこは知らない部屋で、でもここが懐かしい。
「ここは?」
「ここは私達のお家の中で今夕希ちゃんの部屋」
そう軽く返された言葉。どうりで懐かしく感じる訳だと納得する。
『ぐぅ〜』
「「……」」
突然と鳴るお腹の音と沈黙。お腹の音はボクの腹から出た音だった。
「ふふ、可愛らしい音ね〜」
自然と顔が赤くなる。ボクは恥ずかしいというものを初めて味わった。お母さんはご飯を作ってくるから家の中に慣れておきなさいと言い、部屋から出ていった。
「馬鹿…………」
ボクはベッドの上の壁側の隅っこでうずくまることにした。
恥ずかしかったんだもん……。
・
・
・
「できたわよ〜」
何分経っただろうか。体感15分ぐらいだが、実際どうだろう。ベッド横にあった時計を確認すると十二時二分と微妙な時間。というよりもそもそもうずくまる前の時間を見ていないから意味はないのである。
お腹が空いたので匂いを辿り部屋を出て、階段を降り玄関近くの扉を開ける。
「さぁ、食べましょ」
そこの部屋、リビングにはお母さんが席に座っており、机には三人分の昼食であろう米の上に茶色の物体がかかったものが置いてあった。
「そうだな」
「っ!?」
ボクの後ろから声がして、振り返ると私服姿のお父さんがいた。
「そんなびっくりしないでくれ、わたしもこの家の家族何だからいてもいいだろ? そんなことより早くしないと千尋のご飯が冷めちまう……」
「そうだね」
ボク達も椅子へ座り、手を合わせる。そして、入院中のご飯で教えて貰った言葉を言う。
「「「いただきます」」」
お母さんとお父さんはスプーンで掬い、食べ始めるがボクはまだ口に入れられずにいる。だって色が絶対ウ◯コじゃん。これ絶対ウ◯コだよね?
「それは、カレーと言って夕希が好きだったものよ」
ボク……これ好きだったの? ウ◯コに近いものが? でも、匂いは食欲を掻き立てる程だ。覚悟を決め、口に入れる。
「辛い! 無理!」
「「えぇ!?」」
辛い。涙が止まらない。喉が痛い。最悪のトリプルコンボ。前のボクはこんな悪魔の辛さが好きだったのか……。化け物かな?
あたふたする両親に涙目のボク。平和なお昼が事件でも起きたようだった。
「ほら! 水あるから飲んで!」
差し出された水を飲み、ようやく落ち着いた舌はまだヒリヒリしているが、涙は頑張って引っ込めた。
その後、カレーではなく。デザートの予定だったパフェなるものを出されて甘くひんやりした味に大満足したのだった。
あとがき
いつも読んで頂きありがとうございます。最近暑くなってきましたね。今後の物語の方針を考えていたら、投稿が遅れました。すみません。先の物語は春休みが終わり、記憶喪失になった元男の子の学校編も含めたところです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます