続 村の少年探偵・隆 その14 地図

山谷麻也

第1話 陸蒸気

 隆には密かな自負があった。

 洋一きょうだいにも、その従弟の修司にも、自慢したことはなかった。

 それは、蒸気機関車を見たことがあるということ。さらに、一人で乗った経験があるということだった。


 生まれ育った千足せんぞく村そのものは、周囲を山に囲まれていた。母親の実家が隣村にあり、幼いころから遊びに行った。北方へI川の渓谷が延びる。その先に駅があった。名もI口駅と言った。秘境の入り口であることを意味する。


 運が良ければ、蒸気機関車が煙を吐くところが見えた。遠くなので、音は聞こえなかった。まるで、文明と非文明を隔てる、透明のカーテンが引かれているかのようだった。


 蒸気機関車に乗った最初の記憶は、母親に連れられたものだった。何のためかは、もう覚えていない。

 ただ、耳の病気になり、隣の香川県の耳鼻科に一人で通ったことは、鮮明に残っている。当時、県西部の中心地として栄えた池田を過ぎ、Y川を渡る。蒸気機関車は猛煙を吐きながら阿讃山脈を登っていく。汽車は山の中で停車する。前方から蒸気機関車が迫ってくる。それをやりすごし、隆の乗った汽車は少し後退した後、香川へと向かう。スイッチバック式だ。


 汽車に乗るのは楽しかった。耳鼻科のある観光地で、土産物屋も見て回った。ちょっとした観光旅行をしている気分だった。しかし、そんなことは誰にも話せなかった。

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