健全な精神の宿

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健全な精神の宿


ここはファミリーレストラン。

そんな名前で呼ばれていても、この時間に集まっているのは学生ばかり。



「眠い、眠い、眠い、眠い」

「お腹空いたー」

「痛っ、ちょっと誰ぇ?」

「ゴメ、ゴメンって」

着席前から既に姦しく、お冷は汗を滴らせている。

「どうする?」

「ドリンクバーでいいや」

「え、何か食べない?ドリンクバーだけ?」

「でもどうせこの後夕飯あるし、高いじゃん」

「ねー、季節のデザートだって!」

「え、何それ」

「あれ、ていうか××が宣伝やってたのってここ?」

「違わん?」

「××って何?」

「知らないの?!」

メニューと共に広がる話題はどこまでも。

注文が確定すれば再びお喋りは過熱する。

「ねー、これ見て見て?」

「うわヤバ」

「それ知ってる」

「昨日なんだけどさーいきなり連絡来たと思ったらスッゴイ長文なの」

「うわ、ダル」

「でも短過ぎてもさぁ、こいつ何?ってならない?」

「分かる。相談してんのにぶつ切りにされて話聞いてんのかなって思う」

「……それさぁ、結局どうすればいいの?」

「え?まぁ……空気を読む?」

「え、そんなの一番難しくない?」

「ヤダァ、面倒臭っ」

運ばれて来た品の数は多くない。それでも流石に話は止まる。

一人が立ち上がってドリンクを取りに行けば、順々に同じ事が繰り返される。

「何にしたの?」

「温かいヤツ」

「へー。すぐ飲めないから温かいの苦手」

「でもお茶美味しいじゃん、最近こういうの飲むよ」

「確かに。ジュースとかカロリー気になる」

「分かる。血糖値とか」

「血糖値て」

「だってダイエットとかでさぁ、言うし」

「あぁー」

「何、美容系?」

「そうそうそうそう」

誰かがドリンクを口にする。すると目の前に並んだ物にいよいよ手を付け始め、途端に言葉は少なくなる。

一人がスマートフォンを取り出して、そちらを眺め出せば本日のお喋りは終了とばかりに皆が口を開かなくなった。

それぞれが、ここにはいない誰かの方を見つめている。


空になった器と温んだお冷。カップの底を汚すだけとなったドリンク。

別の所で咲いた他人の会話が耳に入る。

「そう言えばさー、そろそろ試験だよ」

「辛い」

「勉強はしてるんだけど、最近全然集中出来てない」

「ねー。本当どうしたら良いんだろう」

「勉強は良いけど成績とか偏差値とか面倒臭いよぉ」

「レッスンと日程が被っちゃった」

「うわ」

「それ最悪」

「大丈夫?」

「多分」

「凄いよね、色々やってて」

「正直時間とかしんどい。でも辞めるのもどうなのかなって」

「別に良くない?」

「は?」

「いやだって大変そうだから……」

「あー、考える事が多いよー」

「………」

肘をつく者、相変わらず笑顔のままの者、不快そうにしながらも隣の肩に頭を乗せる者。

そしてまた言葉は途切れ、スマートフォンが光り、人は動く。

三者三様、話題も姿も万華鏡。


そこはファミリーレストラン。

こんな名前で呼ばれていてもその時間、また学生達が吸い込まれるようにやって来る。

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