アイカ姫の夢★絵描き物語

AOI

第1話 アイカと赤彩

響き渡る小鳥のさえずりが聞こえる中、アイカは静かに空を見上げていた。ふわふわとした栗色の癖のある髪質だが、整った顔立ち、瞳は深緑色に輝く非常に可愛い少女である。

アイカは一人になる事が好きで、交流は隣の住人ラック親子のみ、普段は森の中で薬草採取をしながら、問屋に売って細々と生活を続けている。アイカは父アルクと2人暮らしだが、アルクは仕事が多忙で家に寄り付かず、アイカを放置していた。いつもの事だけど・・・アルクは、孤児院で育ち、親の愛を受けずに育ったため、自分の子供に対して、どう接していいか分からずにいる。


しかし不器用なだけで、本当は、大切に思われている事をアイカは理解していた。しかし思うところはある。親ならしっかり私を養ってよ!放置ってどういう事?まぁ突然の異世界転生で、この男が父親だと認識させられる中、アイカ自身のありえない過去の記憶に触れ、可哀想な子なのだと、自分自身の前世の境遇と合致する部分があまりにも多く碧へきする、どうせなら金持ちのお貴族様の令嬢に生まれたかった...神さまどういうつもりですか?と不満をぶち撒けたい。


しかも大切な一人娘が突如いなくなり、中身だけが入れ替わってしまった父親も違和感を感じている事は間違いなく…


前途多難である。



わたしの名前は、八尾赤彩。純和風な名前だけど、とても気に入っている。鹿児島の母方のおばあちゃんが名を付けしてくれた。しかし今は天国さ。人付き合いが得意でないわたしは、いつもひとりぼっちだ。


・・・・・・気にした事はない。自分が好きだし、自分の生き方に不満はない。わたしにとって大切にしている場所、ポツンと一軒家のような古びた小屋があって、今は誰も住んでいない。思い出がいっぱい詰まっている。しかし生活感がなく、壊れた皿や凹んだ鍋が床に転がっていて、割れたガラス窓から、小鳥のさえずりや、虫たちが遠慮なく入り込む空間、しかし「ここは私の空間だ!」おばあちゃんがくれたのだから・・・


 放課後いつも小屋に籠って、一人で過ごす事が、わたしの楽しみだ。


学校でクラスメイトに馴染めず、無視される事が多いけど、勝気な性格で、自分より体格の良い男子にも、掴みかかって髪の毛を引きちぎって大声で吠える。まるで狂犬女だ!と言われても、わたしが個性的過ぎる事を、全く気にしない。わたしは私だ。それでいいのだ!と開き直っている。


わたしはとにかく絵が描きたい。風景画や人物画、目にはいるものを捉えると、時間を忘れてひたすら描き続ける。至福のひと時だ。しかし問題がひとつだけある。この古小屋には紙がない。昔は存在を有していたであろう紙達は、湿気で朽ちていて、ドロドロになっている。町のホームセンターに行けば、文具コーナーに置いてある事は知っているけれど、小学6年生の私には、とても買えない。叔父は、月100円しかお小遣いをくれない。仕方なく学校で配られる学年便りを叔父に渡さず、私のお絵描きの貴重な資材となっているのだ。ゥフフフ

さて今日は何を描こうか?とてもワクワクしている。


今日の学校の給食に出た赤いリンゴが目に焼き付いていた。皿に乗せられたリンゴは、四分の一の大きさだったけど、皮が残っていて、もともと1個の大きさだったりんご本体の造形を想像し、とても楽しい気分になってしまう。「さぁ、描くぞ」


赤彩は、張り切り鉛筆を手にして、真剣な眼差しになると、赤いリンゴをいっきに書き上げていった。「うん。とても美味しそうに描けたわ」とても満足気であるけど、白黒の作品では、美味しさは伝わってこない。「本当は色鉛筆が欲しいのだけど・・・」毎月のお小遣いが溜ったら、ホームセンターで買う予定の三菱鉛筆80色の色鉛筆。「早く手に入れたい。」気持ちが馳せる・・・しかし現実は、甘くない。。

赤彩は、悔しくて、何度も歯ぎしりしてしまう。

このリンゴの絵を大事にしよう。赤彩は、宝物を持つように、リンゴの絵を壊れた食器棚の一番下の引き出しに保管した。まだ描き足らないよ、でも描く紙がない。。。

赤彩は、うずうずと指先を震わせながら、窓から見える八尾の町を眺めていた。


普通の町だよね・・でも最近開発が進んでしまって・・景色がすっかり変ってしまったよ。蛍が生息していた湿地帯は今はない。どうしてスーパーが3つも出来たのさ!大人たちは喜んでいるようだけど、子供のわたしには、大好きな自然が壊されたようで・・納得がいかない。わたしが3歳の時、おばあちゃんと歩いた田圃道、蛍の光を目に追い、優しく風に揺られながら、飛び跳ねていたよ・・・。懐かしいいけど・・・寂しい気持ちが溢れてくる。母を早くに亡くして、父が突然いなくなって、親代わりに育ててくれたおばあちゃんが死んで・・蛍がいなくなって・・わたしは独りぼっちだ。身寄りがいないと、施設に入れられそうになった時現れたのが、母の兄である叔父であった。


おばあちゃんが描いてくれたアイカの似顔絵は、私の大切な宝物。食器棚の一番下に、大切に保管されている。私もおばあちゃんの似顔絵を描いたよ。優しい笑顔。いつも皺くちゃで厚みのある手で、何度も頭を撫でてくれね。温かかったな・・・、とても懐かしいよ!おばあちゃんに会いたいよ!今天国で幸せにしているのかな?天国かぁ~本当にあるのかな?私も天国に行きたいけど・・・まだ死ねないや・・・わたしにはやりたい事がある!もっと絵が描きたい。描きたい、描きたいぞ!!!!


夕暮れになり、日が陰り家に帰る時間がきた。本当は、帰りたくない、しかし電気の通っていない小屋に寝泊りするのは、さすがに無理があるので、家に戻る事にした。野犬が怖い。



信貴山の麓の山道を15分ほど下り、市民の森公園を突っ切ると、郡山公民館がある。公民館の隣に汚い・・潰れかけた倉庫があり、農作物の作業場がある。作業場の隣に6棟文化住宅が叔父とわたしの住まいだ。他には誰も住んでいない。みんな出ていった。叔父が追い出したのだ。凶器な叔父だ。怖い!怖すぎる!!叔父の怖すぎるエピソードは・・・。たくさんありすぎて困る。


「ただいま・・叔父さん」


酒瓶を片手に、酔いつぶれた様子は、いつものことである。「何か作ろうか?」


夕食を作る許可は得たけれど、冷蔵庫は空っぽだ。我が家にはお金がない。サツマイモと畑で取れた農作物、売り物にならない野菜屑の破片がダンボウルに山積みになっている。わたしは、野菜屑の入ったダンボウルの中から、まだ食べられそうな葉を選び、凹んだ鍋に入れて、味噌をひと匙いれた。本当は、もっと入れたいが、入れすぎると怒られてしまう。


「ここに置いておくね。あとで食べてね。」声をかけて、立ち去ろうとしたが・・珍しく叔父から声がかかった。


「赤彩!お前学校で何かあったのか?」一か月ぶりに聞く叔父の声に驚いた。


「えっ?何の事だろう・・・・・いやどの事だろう?」心当たりがありすぎて、困ったものだ。「明日、担任の先生が放課後来るから、寄り道せず、まっすぐ帰るように」


「はい・・・分かりました。」わたしは返事はしたものの、叔父がイラついていて、間違いなく学校から、何か言われたに違いない・・とても心配だ。


次の日、小沢先生がやってきた。難しい表情をしている。右脇には書類を抱えており、今日の話の重要性に関連するものだろう。


「八尾さん。お話があります。赤彩ちゃんの今後について、大切な話です」


小沢先生は、わたしが叔父から虐待を受けている事を言いたいようだ。着ている服はいつも同じで、汚く、栄養状態も悪い・・わたしは誰が見ても不健康だ。しかも暴力的で、男の子たちと殴り合いの喧嘩をした為、親御さん達からクレームが出ている事は聞いている。しかし叔父から虐待を受けているとは思っていない。ただ世話をせず、放置している事が問題であるようだ・・・・・。


「八尾さん。愛彩ちゃんを預けて頂けませんか?」叔父は、無言を続けていたが・・わたしに言った。


「赤彩が決めろ。お前の人生だ!」

どうやら叔父は覚悟を決めていたようで、しかしわたしの返事は決まっている。

「先生。わたしは、叔父と暮らします。施設にはいきません」小沢先生は、とても驚いている。

「前にもお話した通り、わたしが大好きだったおばあちゃんが残してくれた古小屋から離れたくないのです。本当は、あの小屋で暮らしたいと思っているくらいです」小沢先生は、信じらないと・・・表情を隠せないようだが、頑なに断る私の意思を尊重してくれる事になった。しかしそれから1か月後にあのような事件が起ころうとは・・・。


台風13号による強風警報が突然発表された日、わたしはおばあちゃんの小屋にいた。山崩れが起き、そのまま小屋が土砂に巻き込まれた。叔父が救助に来てわたしを発見した。右手にはおばあちゃんの似顔絵がしっかり握られていたようだ。

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