トリあえず

UD

バニラアイス

 あなたがずっと食べたいと言っていたお店にやってきたのはいいけれど。

 どうしてよりによって『本日はメンズデザートデイ』なんて日に当たってしまったのでしょう。


 予想通り、彼は大変に喜んでいる。


「メンズデザートデイだと! なんだそれは! このご時世にメンズとかレディースとか言うのもなかなか勇気のいることだろうに、それもなかなか男気があってよい。 お店なのにね!」


 大喜びだ。


 まあ喜んでくれるならそれはそれでいいのだけれど。


 そして食事を済ませるとついにやってきたデザート。


「ほーう。デザートはバニラアイスか」

「ねえ、聞いてる? ねえってば。」

 だんだん腹が立ってきた。

 私の話など全く聞いてない。


「これは、てか普通のバニラアイスだなあ」

「あなたがバニラアイスの何を知ってるのよ」

 腹が立ってつい口から出てしまった。

 彼の目がキラキラと輝いている。

 先日も私の放った何気ない一言がこの顔を生んだ。


「え? それは、あれか? あなたが私の何を知ってるっていうのよ、的な? そう言われると私はバニラアイスの事を何も知らない! 知らないのに普通とか失礼だ!」

「ちょっと、何言ってるの?」

 いやほんと。

 何言ってんの?


「いや、面白いなと思って。それって『あなたが私の何を知ってるって言うのよ』的なやつじゃん!」

「あ、うん。まあそうかもしれないけど」

 そうかもしれませんけども。


「そうだね、バニラアイスを作らないとだよね!」


「やっぱりそうなるの?」


「そりゃそうだよお! 私はバニラアイスのことを何も知らない!」

「はぁ。で、どうやったらバニラアイスのことがわかるの? 何回くらい作る予定?」


「そんなのやってみないとわからないじゃないか! 私はバニラアイスの事を何も知らなないのだから!」

「それを言いたいだけでしょ? トリあえず食べなよ」


 そして彼は今度の休日、バニラアイスを作るんでしょう。

 悔しいけど、それはきっと美味しい。


 そして、私はそんな彼のことが好きなんだ。


(完)

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トリあえず UD @UdAsato

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