第2話:どこまでも追いかけてくる鬼

 偶然だと思っていた。何かがついてくる...私が振り向いた先には般若のお面をつけ象った鬼の銅像が立っていた。それは一日一日少しづつ少しづつ近づいて来た。最初は神社で出会ったはずなのに...どうして..銅像は家の中に入ってきた。私は急いで隠れて息を殺す。


(このままじゃ殺される...早く隠れないと!)


息を殺して声が漏れないように手で押さえる。ゴトゴト...と銅像が動く音が聞こえる。


(殺される!殺される!殺される!)


震える体に荒ぶる呼吸を抑えながら銅像の音が聞こえなくなるまで耐えた。遠ざかる音に安心した私はため息を零した。安堵した私は背後に鋭い視線がして今まで感じていなかった悪寒が私を襲う。


(いる...私の後ろに...!)


「きゃあああああああああああああああああああああああ!」


私は震える体に鞭を打ちゆっくりと振り向くとこちらを見下ろす銅像が立っていた。真後ろに立つ銅像に私は耐えられず恐怖で叫び声を上げた。



 一カ月前_私は友達三人といわき付きのとある神社に来ていた。少し廃れており雰囲気が不気味な神社だった。この神社はかつて銅像を供養として祀り扱っていたようだ。どうして廃れてしまったのかは分からないが正直乗り気ではなかった。


 「ここが例の神社か~中々雰囲気あるね」

 「そうだね...なんか怖いな」

 「もう、ハナったらそんなこと言ってもうこういうのはノリなんだからさ~。楽しもうよ!」

 「ノリって祟られるよ!」

 「大丈夫大丈夫!ほーらいくよ!」

 「はいはーい!」

 「ちょっと押さないでよ」


乗る気ではなかった私_ハナは友達に連れられて廃墟の神社に肝試しに来た。ノリ気ではなく内心いやいやだった私は神社に着くとその雰囲気に不気味さを感じていた。友達に連れられた私は供養する銅像が置かれている場所へ向かう。空気が先ほどと打って変わり歪さと呼吸のしにくさに冷汗をかく。


 「ここやばいね~」

 「それな!銅像なんてそのままおきっぱなしだし~」


 (皆普通に話してる。空気の悪さや歪さを感じたのは私だけ?)

 (あれ?)

 (!!)

 (今...目が合ったような!気のせい...)


私は銅像を眺めていると一つの銅像と目が合ったような気がして思わず声を上げそうになった。その場から後ずさると荒ぶる呼吸を整えて再び銅像を見た。


(あれ?変わってない。気のせいだったのかな)


そんな私に友達は話しかけてきた。


 「なーに見てるの?ハナ」

 「いや...何でもないよ」

 「そう?ずーとこの銅像を見てたからさ。少し気になって!」

 「これ?」


私は目が合った銅像に指を指すと友達も頷いて言った。


 「不気味だよな~それ!」

 「う、うん」

 「ねえねえ!さっきこの神社を一応管理している人に話しを聞けるみたいだからさ。神主さんって言うのかな。その人に聞きに行こうよ!」

 「そうだな!いこうぜハナ。ハナ?どうした?」

 「い、いや...何でもないよ。行こう」


何故だろう。先ほどから鋭い視線を感じる。あの銅像と目が合ったからだろう。


(気のせいだよね。きっと...)


と考えていた。この時までは...



 その日の夜から視線を感じるようになった。視線の先に違和感を感じた私は振り向くと例の銅像が立っていた。毎日少し動いて見かけるようになった。始めは大学の入り口から駅のホーム先に。その後の私の帰り道に銅像を見かけたが誰も銅像の姿を見えておらず私の訴えは誰にも信じてもらえなかった。


 「な、なんでここに!」

 「ハナ、どうしたの?」

 「ね、ねえ、ここにこの銅像があるの可笑しくない?例の神社にあるはずなのに」

 「え?何言ってるのハナ。ここに銅像なんてないじゃない」

 「だって、だってここに!」

 「何もないって。おかしいよハナ」

 「見えてないの?見えてないのは私だけ......」

 「ハナ、大丈夫?顔色悪いよ。今日は休んだ方がいいよ」

 「.........」


自分にしか見えないどこまでも追いかけてくる銅像に得体の知れない恐怖を感じた私は友達も声も聞こえなくなり頭が真っ白になった。その後の事はよく覚えていないが友達に支えられながら家に送られたらしい。


(銅像が近づいて来てる。あの神社から少しづつ私を追いかけているんだ)


私はその事実に気づいたのか銅像はどんどん私に近づいて来た。その恐怖に耐えながら日々を過ごしていたがとうとう銅像は私の家の玄関にまで迫ってきた。私は目の前の恐怖に耐えられず怖くなり神社の管理者に銅像の件で話しを聞くために連絡を取るが予定が合わず"翌日"だと言われてしまった。


 「そ、そんな...翌日だなんて...」

 「どうしよう...」


目の前の銅像のせいか一人になりたくない私は友達と連絡を取り友達の家に泊まるうことになった。


 翌日_友達の家にしばらく泊まった私は友達の家でお酒を飲みたわいもない話しをした。話し終えた私は友達を見送った私は例の神社の管理人にmailを送る。連絡したが予定が合わずあの銅像のことは聞けずじまいだった。


 「そろそろ行くね!じゃあねハナ!」

 「うん。またね!」


完全に友達の姿が見えなくなった私は帰り道を歩いていると突然後ろからコツコツと何かが近づいてくる音が聞こえてくる。その音を聞いた私は固まってその場で動けなくなる。近づいてくる音に恐る恐る振り向くと例の銅像が立っていた。私はその姿を見て取り乱し恐怖が全身を襲い転びながら自宅まで全速力で走りだした。


 「え?何の音...!!」

 「な、なんでこ、この像が...う、動いてる!」

 「に、逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!」

 「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ!」

 「こ、ここまでくれば!」


家までつくとモタツキながら鍵を閉める。家に入り安堵したのもつかの間にコツコツと再び音が聞こえてくる。音のする方を振り向くとドアの前に影が映る。よく見ると例の銅像が無理やりドアを開けようとしている。外からガタガタガタガタと激しい音が鳴り響き思わず耳を塞ぐ。


 「な、なんでここに...」


怖がる私に追い打ちをかけるように持っていた携帯電話が鳴り響き恐怖の声を上げた。


 「きゃあああああああ!」

 「で、電話...ど、どうして...!!」

 「あっあれ?銅像が...いなくなってる。これなら...」


先程まで居たはずの銅像がいつの間にかいなくなっていた。恐る恐る私は管理人の電話に出た。


 「よかった。銅像も居ない助かっ『振り向いてはいけない!』え?管理人さん...!」


管理人さんの声を聴いた瞬間にまたコツコツコツコツと音が聞こえてくる。聞こえてきた音に戦慄が走り体が震える。"振り向いてはいけない"と言われたが私は振り向いてしまった。


 「!!」

 「あ...あ...きゃあああああああああああああああああああああああ!」


振り向いた先には怒りを露わにした鬼のような銅像が立っていた。その顔を見た私は恐怖で叫び声を上げてしまい手に持っていた携帯電話を落としてしまった。


 『もし、銅像と目が合ったら決して振り向いてはいけない!その像はいわく付きの銅像で、振り向いたら最後連れていかれてしまうんだ。仲間としてだから!』

 『ハナさん!ハナさん聞いてますか?』


その場には銅像おろかハナの姿はなく管理人さんに電話越しの声が部屋に響いた。



 数日後_ハナは行方不明となり友人たちが探すが彼女が見つかることはなかった。彼らは例の神社でハナを探していた。


 「ハナ...見つからないね。一体どこ行ったんだろう」

 「そうだな...きっと見つかるよ」

 「うん?これ見ろよ」

 「何?これって...」

 「これ何かハナに似てないか?」

 「言われてみれば...ハナに似てるね」

 「でもただの銅像だしそれはないでしょ?」

 「それもそうだな!」

 「でもこの間来た時はこんな銅像はなかったような...」


友達の一人がハナに似た銅像に近づくと銅像と目が合った気がした。増えた銅像が気になるが友達に呼ばれてその場を後にした。友人たちが神社を離れてしばらくすると管理人が銅像が祀られている場所にやってきた。ハナと似た銅像を見た管理人は悲しそうな表情で言うと神社から立ち去り誰も居なくなった。


 「お嬢さんも連れていかれてしまったんだね。この銅像に」



この銅像は目が合うと目が合った人間の後を追いかけ続け最終的に銅像の仲間にしてしまういわく付きの銅像だった。普段は何の変哲もないただの銅像だがハナのように目が合う者もいる。目が合えば最後仲間にするまで終わらない。救いがないのろいなのだ。しかもこの呪いは伝染する。伝染し終わるまで終わらない。最後の一人になるまで人を呪い続けるのだ。


『お願い...助けて...置いて行かないで...私はここに居るよ...』


銅像になったハナは動かぬ体で目を必死に合うように動かしたがその訴えは誰にも聞こえることは無い。そして呪いは繰り返すのだ。



友人と別れた帰り道の途中で後ろからコツコツと音が聞こえてきた。振り向くとハナの銅像が立っていた。


 「あれ?この銅像こんな所にあったけ?気のせいかな?」


友人は疑問に思いながらも気にせず再び歩き出した。その場で立ち尽くすハナの銅像は訴えるように動いた。


 『待って.........私を.....置いて行かないで.........』

 「!!」

 「ハナ!あれ?居ない...気のせい?」


振り返るが何もない。銅像一つすらない質素な道があるだけだった。


 「気のせいだったのかな?」


そう思い再び歩き出した友人は角を曲がる際にハナに似た銅像とコツコツと何かが近づいてくる音が聞こえた。振り向くとハナに似た銅像が立っていたのだった。


どこまでも追いかけてくる鬼      終









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