闇の世界へようこそ
時雨白黒
第1話:人を殺すアプリ
あなたは目の前に願いが叶うアプリが存在したらどうしますか?もしも、存在したとして願いが叶うために人を殺しますか?
薄暗い街頭に照らされた少女はナイフを振り上げた。何度も何度も刺して辺り一面は赤い血で染まった。人を殺した少女は満足せず既に死んでいる遺体に再びナイフで刺した。
「もっと...もっともっともっと人を殺さないと!」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!殺さなきゃ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね!」
断末魔のように叫ぶ少女は自身の喉がつぶれても必ず叫び続けた。少女がこうなった原因はことは起きる数週間前に遡る。
『人を殺すアプリ』
1.
現在206*年。科学が大幅に進化し人間がインターネットの世界に行き来できるようになっていた。世間はそのことで盛り上がりを見せていたがテレビを見ていた少女・マイは興味がなくつまんなそうにしていた。するとピコンっとマイのスマホがなる。暇つぶしにマイがスマホを開くと通知が来ていた。
【人生が退屈しているそんなあなたに願いが叶うアプリを紹介します】
とある。
「うん?なんだろうこれ。願いが叶うアプリって本当かな?」
「まあ暇だし、気晴らしにインストールしてみようかな。本当にかなうわけないし」
(叶うわけない。そう思っていた。この時まではこのアプリが現実になるまでは...)
アプリをインストールしたマイはアプリを開いた。すると自宅からインターネットの世界へ移動しゲームの世界に切り替わった。
「凄い。インターネットの世界に初めて来た。インストールしたゲームを押して切り替わった」
ゲームの中は村がありのどかな田舎のように思える。ゲームだが空気が綺麗で風が心地よくマイは深い深呼吸をした。
「気持ち良いな。空気も綺麗でゲームって言うより現実みたい。良くできてるな。」
マイは周囲を見回すがゲームは普段しないためどうしていいか分からなかった。
「インストールしたのはいいけどどうすればいいのかな?それに本当に願いが叶うのかな?」
「見た所村があるし育成ゲームか何かかな?」
マイは村の様子を見て見ることに決め村に向かった。村の住人はせっせと働いており忙しそうだ。人通り見たマイにゲームアドバイザーのようなキャラクターが話しかけてきた。
「やあ、こんにちは!」
「こんにちは。あなたは誰?」
「僕は君をアシスタントをする【コリン】だよ。よろしく!」
「よろしくねコリン」
「君は誰?」
「私は...」
小さな少年はコリンと名乗った。元気があり短パンに半ズボンと小学生くらいに見える。コリンに名前を聞かれると選択画面が表示された。
『貴方の名前を選択してください!』
【マイ】でよろしいですか?
『はい』・『いいえ』
→『はい』
【注意!このゲームをプレイするにあたっては二度と変更できません。それでもよろしいですか?】
『貴方の名前を選択してください!』
【マイ】でよろしいですか?
『はい』・『いいえ』
→『はい』
入力するとコリンが笑ったような気がしたがマイは気にしなかった。コリンが住人について説明してくれると言い後について行った。二人の様子を誰かが見ていた。
「まただ。また誰かが犠牲になる前に止めないと」
その一言は誰にも聞かれることは無くその人物はその場から立ち去った。立ち去った瞬間コリンはゆっくりと振り返るが誰もいない。
「......」
「あれ?コリン、どうしたの?」
「......」
急に振り返ったコリンの顔は先ほどとは違い冷酷で蔑むような表情をしていた。
「コリン?大丈夫?」
「ああ、ごめんごめん。何でもないよ!じゃあ行こうか」
「うん」
コリンに連れられてマイは村にやってきた。コリンと一緒に村を回り住人の暮らしについては話しを聞いた。
「えっとねここは農場でこっちが牧場なんだよ」
「うわああああ。私、牧場初めて見た!凄ーい」
ゲームとは思えない景色にマイは感動した。牛や馬だけではなく猫や犬やウサギなど多くの動物たちがおり自然豊かだった。
「凄いでしょ。あそこに居る老夫婦が働いているんだよ」
「へえーそうなんだ」
次に案内されたのは教会だった。
「大きい。私、教会初めて見た」
「マイは初めての事ばっかりだね!」
「うん!」
「ここにはシスターと牧師がいるよ!それから...」
その他にコリンは色々なところにマイを案内した。住人は親切で本当に生きているように見える。だが不思議だったのはコリンを見る時は住人たちは笑っているのに対しマイを見ると怖がっているように感じた。また案内が終わり離れる時に住人たちは顔を青ざめた。気のせいだろうかとマイは考えたがただのゲームだと思い気にすることを止めた。
(そう...これはゲームだ。深い意味はない。そう思っていた。この時までは)
「これで僕の案内も終わりだね。次にコマンドが表示されるみたいだよ。次はそのコマンドに従ってね」
「うん。案内ありがとう」
「じゃあそろそろ...あっ!そうだ。マイに教えておくね」
「【もしも、ゲーム操作で困ったら上のボタンを押すと僕が駆けつけるから】何かあったら押してね」
「上のボタン...ああ、これね。分かったよ、ありがとうコリン」
「それじゃあね」
頭上に呼び出しボタンが表示されるとコリンはいなくなった。コリンの案内と紹介が終わるとコマンドが表示される。
『村人と話す』
「村人と話すか...誰と話そうかな」
とマイが悩んでいた時に住人が突然話しかけてきた。真っ青な顔をしたシスターはマイの腕を掴んだ。
「お願い!殺さないで」
「シスター?急にどうしたの?」
「お願い!殺さないで!」
「殺さないでって一体どうしたの?」
「お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い!」
明らかに様子が可笑しいシスターにマイは困惑したがそういう設定なのかと思った。マイは困り頭上に呼び出しボタンがあることに気づいた。頭上を見上げるとコマンドが表示された。
【コリンを呼ぶ?】
『はい』・『いいえ』
「コマンドが...分かった分かったから。今コリンを呼ぶから落ち着いて」
「待っ待って!それだけは!コリンを呼ぶのだけはやめて...お願い!」
シスターの怯えようにマイは怯み呼び出しボタンを押すのを止めたが後ろから聞いたことのある声が聞こえ二人は振り向いた。コリンが立っており笑みを浮かべて二人に言う。
「何してるの?マイ、シスター?」
コリンが現れるとシスターは激しく怯えていた。
「コ..コリン」
「ねえ..二人とも一体何してるの?」
「えっとシスターが話しかけてきたんだ。ほらコマンドで【村人と話す】とあるし!これもゲームの一つだよね」
「......」
「そうなんだ。何の話しを聞けたのマイ?」
「そうだ!おかしいんだ。コリン、助けてあげて」
「うん?おかしい?何が?」
「......」
シスターは震えていて何も言えない。きっと住人に悪い人がいて怖くてコリンに何も言えずいたのだろうとマイは考えた。
「シスターの怯えよう可笑しいよ。殺されるんだって。だからシスターを助けてあげてコリン」
「へ~殺される?シスターがそう言ったの?」
「うん」
「そうなんだ~。分かったよ!ここは僕に任せて。じゃあその悪者は僕が退治しておくよ」
「ありがとうコリン!やったねシスター」
「...そっそうですね」
悪い人を退治してくれると言うのにシスターはただ怖がるだけだった。
「じゃあ~僕はシスターと一緒にその悪者をやつけるから他の住人にも話しかけてきたら?」
「うん、そうするよ!」
マイはコリンにそう言うと他の住人に話しを聞きに行った。マイが居なくなり残されたコリンはシスターに向けて話しかけた。
「よくいるんだよね~悪いことをするやつが...」
「...」
「ねえ~そう思わない?シ・ス・ター・」
「......」
シスターは青ざめたままゆっくりと頷いた。
マイは住人と話し終えてコリンを探していた。肝心な頭上のボタンはエラーが起きて何故か機能しなかった。
「コリン、どこに居るの?」
やることを終えたマイはコリンを探して歩き続けると教会についた。教会に居る牧師にダメもとで聞くと優しく答えてくれた。
「コリンを見ていませんか?住人と話してやることが終わって助けて下さい」
「いいとも...ならコリンが来るまで話しをしよう。君は誰でいつここに来たんだい?」
「私はマイ。さっききたんだ。こんなこと言って分かるか分からないけど願いが叶うと聞いてここにきたの」
「そうかい...マイ」
マイの話しを聞いた牧師は一度顔を上げ暗い顔をした。
「願いが叶うっていうからサバイバルゲームみたいなやつを想像していたけど思っていたのと少し違ったみたい」
「違ったか..そうかい」
「マイ...君は願いを叶える方法を知っているのかい?」
「いいえ?でもこの村を育てる手伝いをするために住人の願いを叶える感じだと思う」
「そうなんだね..少し違うかな」
「何が違うの?」
「それはね..」
「牧師さん?」
牧師は何を思ったのか少し考え事をした後あることに気づきマイに聞いた。
「ところで少し聞きたいんだがいいかな?」
「いいよ。」
「ところでシスターはどこかな?」
今までの事情を話すと牧師は一瞬暗い顔をした後すぐに明るい顔をしてマイに礼を言った。それから牧師に村について話しを聞いた。釣りやいい魚が釣れる方法や村の誕生祭を祝う祭りのついて。それも楽しそうな話しばかりだった。しばらく話しているとコリンが教会にやってきた。
「見つけた。ここにいたんだね」
「うん。牧師さんと一緒に話しをしてたんだ」
「へえーどんな話し?」
「村で釣れる魚や誕生祭についての話しですよ」
「そっか、楽しそうだね!」
コリンも加わって話しをするとステージをクリアしたようで楽しそうな音楽が流れた。
「マイ、ステージ1Clearおめでとう!今日はここまでだよ。また明日ログインしてね!」
とコリンに言われ強制的にアプリが閉じた。いきなりのことでマイはもう一度ログインしようとしたが出来なかった。
『あなたは今日のやるステージをClearしたので開けません!また明日ログインしてください!』
「なにこれ~開けない。まあいっか。また明日開こうっと!」
(そう言えば呼び出しボタンを押す前にコリンが来たけどバグかな?まあ...いっか)
マイは布団に横になるといつの間にか眠気に負けた。
2.
次に日になりログインするとさっそくコリンがやってきた。
「おはようマイ!ログインありがとう。じゃあさっそくステージに行こうか!」
「うん。やるよ」
コリンに案内され教会を通ると牧師が立っていた。
「おや?二人ともおはようございます」
「おはよう!」
「牧師さん、おはよう。シスターは元気?」
「...」
「牧師さん?どうしたんですか?」
牧師は暗い顔をした。シスターに何かあったのだろうかとマイは考えた。
「シスターはもう居ないんです」
「いないってどうして?」
「シスターは村からいなくなったんだよ!」
「どういうこと?」
「元々あれはシスターが驚かそうとしていたんだ。だからそれが終わって村から出て行ったんだよ」
「......」
「そうなの?」
コリンから住人について説明される。
「そうなんだ!だからステージをさぼったり【役目を終えた住人は村を出て行くから居なくなちゃう】から気を付けてね」
「うん!わかった」
「じゃあね牧師。そろそろ僕らは行くよ」
「それじゃあね...お二人さん」
二人が立ち去る後姿を牧師は見届けると小さな声で呟いた。
「シスター...」
その声は誰にも聞こえることは無く消えていった。
マイはコリンからチュートリアルは今回で終わり明日から願いが叶うと言われた。
「今日でチュートリアルが終わりだよ!楽しみにしててね」
「今日で終わるんだね。楽しみにしてる」
とコリンに言うとコマンドが表示された。
【住人帳を調べよう】
Q:住人帳は住人が今どこにいるのか一目で見て分かる帳面
「なるほど。それを見つければいいんだね」
「そうだよ。掲示板にあるから探してみてね」
「掲示板?分かった探してみるね」
「何かあったら頭上のボタンで呼んでね」
コリンはいなくなると掲示板を探すことにしたマイは異臭に気づいた。何かが焼け焦げているような匂いがした。
「なっ何この匂い...」
マイは近づくとそれ激しい音が鳴りよく見ると焼却炉だった。
「これ...焼却炉..」
気になったマイは焼却炉に近づくと微かに声が聞こえてきた。
「...け...て..だ...か」
「えっ声が聞こえて..」
気のせいなのか確認しようと近づこうとした時、コリンは声を掛けられて驚いた。
「何してるの?マイ」
「えっ?うわああああ。コリンか...びっくりした!」
「ごめんごめん。驚かせてごめんね」
「それで何してたの?」
「掲示板を探してたら焦げ臭い匂いがしてきて気になって見て見たら焼却炉があったの。それでこの焼却炉から声が聞こえてきて!」
「声?気のせいじゃない。ここの焼却炉は古くてぼろいからね。中の音が声のように聞こえたんじゃないかな」
「そうなんだ。人の声が聞こえたから中に人がいたらどうしようかと思った」
マイは焼却炉のことが気になりコリンに聞くと焼却炉について説明してくれた。
「この焼却炉はね【役目が終わって使わなくなった物】・【いらなくなった者を捨てる場所】だよ」
「いらなくなったもの?」
「そうだよ。ここは焦げ臭いし掲示板の近くまで案内するよ」
「ありがとう、コリン」
焼却炉から離れたコリンはマイに聞こえない声で呟いた。
「あ~あ~言わなきゃ良かったのにな~。【いらなくなちゃったね~シスター】」
コリンが焼却炉を一度見た後マイに気づかれないように笑った。
「...助けて...誰か...」
それ以降シスターの声が聞こえなくなった。
掲示板案内を終えたマイはチュートリアルを終えてゲームを終えた。
「これでチュートリアルも終わったし次から本当に願いが叶うようになるんだな~。でも本当に願いが叶うかな?まさかね...」
布団で横になっていると母親の呼ぶ声が聞こえたマイはリビングに向かう。
「ごはんよ~降りてきて」
「はーい」
母親と共に料理を作り仲良くテレビを見ながらマイは話しをする。
「「いただきまーす」」
「おいしいよ。お母さん」
「でしょ?母さん自慢のエビフライだからね」
「そういうマイのコロッケも美味しいわよ」
「よかった」
「ねえお母さん。願いが叶うアプリって知ってる?」
「何それ?そんなアプリあるの?」
「でもそのアプリをやったら願いを叶えるのは住人のことみたいなんだ。チュートリアルが終わったらもしかしたら願いが叶うかな~って」
「まあ~そんな願いが叶うアプリがあるなら皆叶ってるわよ~」
「フフフ...それもそうだね!」
そんな話しをしていた時テレビでニュースが流れた。どうやら女性が遺体で発見され遺体は燃えていた。警察は事件の可能性で捜査しているようだ。
「物騒なニュースもあるものね」
「本当だね。怖いな」
マイは気にも止めていなかったが風呂に入ってスマホを見るとニュースの最新情報が記載されていた。
【遺体の女性が判明!亡くなったのはシスター】
3.
次の日マイはアプリにログインをしようとしたが一瞬躊躇した。
(何だろう。ただのゲームのはずなのに今ログインしたらもう戻れない気がする...)
「...何躊躇してるんだろう。ただのアプリだし...よしやるか!」
一呼吸したマイは落ち着いてアプリにログインした。ログインすると目の前にコリンが立っていた。
「待ってたよ~!」
「気になったから」
「そうだよね~【最初皆そうだよ】」
「え?最初って?」
「ううん。こっちの話し」
「そうなの?」
「うん!」
(私はもっと早く気づくべきだった。このゲームが狂っていることに)
「さて、本題に入ろうか!」
「うん。」
「願いを叶えるためにはね。あるルールがあるんだ」
「あるルール?」
「そう、簡単な事だよ!」
「ただね...このゲームで【人を殺せばいいんだよ】」
「えっ...人を殺すの?」
「そうだよ。【全ての住人を一日に一回一人を殺すだけ】だよ」
人を殺すことが当たり前のように話すコリンにマイは動揺した。
「だって人を殺したら死んじゃうんだよ」
「【ただのゲームなんだよ。このアプリは】死んじゃったら新しい住人が来るんだからさ!大丈夫だよ」
「ただのゲーム?」
「そうだよ。他の人だって遊んでるんだしさ...殺らないの?」
「えっだって...人を殺すのは抵抗あるし..」
「そっか..よく考えてね。どの道殺すしかないんだし~あっそうだ!言ってなかったんだけどルールに違反行動があって基本的にはどんな殺しをしてもいいけど【管理者を殺しちゃダメ】だよ」
「かっ管理者って?」
「さあ?全ての住人に僕も含まれるから僕も殺していいよ」
そう言うコリンの笑顔は今までとは違い不気味で鳥肌が立った。
「殺さないよ。それに一度ログアウトして考えるから」
「ふう~ん。そうなんだ。素直に殺せばいいのに...ああそうだ。言ってなかったっけ?このゲームの注意事項なんだけど」
マイはコリンの言葉を聞かずアプリの画面を開きログアウトしようとしたがログアウトボタンがなかった。
「嘘..どうして..ログアウトできないの」
「ああ~それね~簡単だよ。だって...【このゲームで人を殺してないから】だよ」
このゲームで人を殺さなければこのゲームからはログアウトすることが出来ない。現実世界に戻るにはこのゲームで人を殺さなければならない。
「簡単な事でしょ?大丈夫だよマイ、簡単なことだからさ!」
(コリンにそう言われても怖かった。人を殺す事にも驚いたけどコリンの様子にもっと驚いた。人を殺したくない。けど...人を殺さないとこのゲームからは出られない。人を殺すしかない。私は簡単に折れた)
「こっ殺せばいいんだよね」
「そうだよ!やっとやる気になってくれたんだね」
コリンは嬉しそうに笑うとマイにアイテムを渡した。そのアイテムは拳銃やナイフなど殺しの武器だった。
「これで殺せるよ。安心して欲しいんだけどこれは君のゲームだから君が殺されることは無いよ。ただ殺されてくれるからね」
(少し気が引けたけど殺すしかない。コリンにアイテムを貰い顔を上げると住人たちと目が合った。皆怯えてる。住人たちの様子を見て私は理解した。住人たちは私に殺されるのが怖くて怯えていたんだ。でも...やらなくちゃ..)
「じゃあ僕はお邪魔みたいだからどっか行くね~じゃあ楽しんで!」
コリンはマイに手を振るとその場から居なくなった。武器を手にしたマイはターゲットを探すために村に向かう。住人たちは不安そうにマイを見ては仕事を続ける。明らかにおびえる住人にマイは渋っていたが足元にボールが転がってきた。
「お姉ちゃん、ボール取って」
「これ?はい、どうぞ」
「ありがとう!」
一人でボールで遊ぶ少年に話しを聞くと少年は迷子になり一人らしい。マイは少年をターゲットに決めて道案内のふりをして、森の奥深くまで歩いた。
「ねえ、お姉ちゃん。僕の家こんな森の中にないよ?」
「...」
「お姉ちゃん?」
「...ごめんね」
「えっ..お姉..」
「どう...し...て」
マイは手が震えたが持っていたナイフを正面に振り上げた。少年の首を切るがゲームのため血は出ない。少年は無抵抗で死んだ。
「良かったね~これでステージ完了だよマイ」
「...コリン」
いつの間にか現れたコリンにマイは驚いたが目の前で死ぬ少年に釘付けになる。立ち尽くすマイに対してコリンは淡々と話す。
「じゃあ、またねマイ」
コリンがマイに手を振るといつの間にかゲームはログアウトしていた。ログアウトしたと理解したマイはその場で崩れた。
(私は殺した...男の子を殺した..でも殺した..人を指した感覚は感じられなかった。あれはゲームだ。ゲーム現実じゃない。それにゲームで人を殺すことはよくあることだ)
とマイは考えたが気分が悪くなり少しトイレで吐いた。
「ごはんよ~」
「はっはーい」
吐いたことで落ち着いたマイはリビングに向かった。机の上にあるスマホが光った。
【ニューススクープ!6歳男児が行方不明:事故か?事件か?】
マイは願い事について考えていた。
(私はこれと言って叶えたい願いがない。一体何を願おうかな...)
「願い事か..あれ?何か騒がしい?」
リビングに行くと玄関が開く音が聞こえてくる。誰かが入ってきたようだ。マイよりもいち早く気づいた母親が玄関へ向かう。
「ただいま~帰ったぞマイ」
「この声...」
「マイ!二階へ行きなさい!」
「ううん...」
「おい待てよ。久しぶりの父親だぞ?」
「帰って!だいたい二度と来ないでって言ったでしょ?」
「知らねえよ。おい、マイ無視するな!」
母親は父親を押さえてマイに近づかないようにしたが父親は押しのけてマイに近づいた。マイは逃げるように二階へ行こうとしたが片腕を掴まれる。マイに無視された父親は怒りマイの右頬を殴った。
「マイ!あなた何するのるよ!マイ大丈夫?」
「大丈夫だよ。お母さん」
「早く二階へ行って」
「うん」
「おい無視するなよ!マイ」
「いい加減にして!警察呼ぶわよ」
「黙れ!おい待てマイ」
追いかけてくる父親にマイは二階の部屋へ走り鍵を閉めた。父親の叫び声をノックオンが聞こえてくる。マイは枕を投げて叫んだ。
「うるさい!出てって!」
「お前、父親に向っていい加減にしろよ!殺してやる!」
「うるさいうるさい!静かにして...あんたなんか父親じゃない!うるさいうるさい!」
マイは布団の中に入り耳を塞いだ。聞こえる怒号音を誤魔化すように言い続けた。
「うるさいうるさい!うるさいうるさい!うるさいうるさい!」
「あんたなんて父親じゃない。父親じゃない」
「今まで幸せだったのに...何で今更現れるの...」
「父親なんて居なくなればいい...死んじゃえばいいのに」
マイはそう呟いているといつの間にか眠ってしまった。するとスマホが光った。
「なら...その願いかなえてあげるよ」
と夢の中でコリンの声がした。
**
マイは昔から父親が嫌いだった。思春期や成長期のように毛嫌いするのとは違い生理的に父親が嫌いだった。母親に暴力を振るい酒や煙草に明け暮れる日々。母親は肺が弱くせき込む母親にわざと喫煙する父親が本当に嫌いだった。マイ自身や母親は見下すようなあの目がマイをなぶる様に見るあの視線が何よりも嫌いだった。それが耐えきれなくなったのは父親が母親を殴り怪我を負わせた夜にマイを強姦したことだった。
マイは学校が早く終わり自宅のドアを開けると腕を掴まれ床に倒れた。痛みに耐えて顔を上げると酔った父親がのしかかりマイは鞄で父親の頭を殴った。殴られた父親に右頬を殴られたが上手く父親の下から抜け出すと慌てて二階へ向かった。父親はマイの後を追う。マイは自分の部屋に入り鍵を掛けようとしたが一歩遅く父親が部屋に入ってきた。父親は部屋に鍵を掛ける。マイは抵抗したが父親に勝てる訳はなくベットに投げ飛ばされのしかかられた。父親はマイの制服を乱雑に脱がすとマイの下腹部に手を触れた。マイは助けを呼ぼうとしたが鍵が掛けられ手で口を塞がれたため誰も助けは来なかった。
数時間後_満足した父親はマイの部屋から出ると酒を買いに家を出た。乱暴されたマイは痛みと苦しみに耐え涙を流した。泣き止んだマイはそのままリビングに向かうと病院から母親が帰ってきた。
「あれ?ドアが開いて...マイ帰ってるの?鍵もかけないで不用心よ」
「...お母さん」
「どうしたの...ってマイ!その体何が合ったの?」
マイの変わり果てた姿を見た母親は取り乱しマイに駆け寄った。
「お父さんに...」
「そうだったのね...ごめんなさい。ごめんなさいマイ」
「お母さん...」
「なあにマイ?」
「もう...お父さんと一緒に居たくない」
「そうね...マイ、お父さんと離れて二人で一緒に暮らしましょう」
「うん...お母さんと二人で一緒に居たい...」
それからは早かった。虐待の証拠は母親が集めており離婚やその後の話しを直ぐに片付いた。
**
次の日_目を覚ましたマイは昨日の出来事について母親に聞いたがおかしな顔をしてマイに言った。
「あなた何言ってるの?父親何ていないじゃない。事故で死んじゃったじゃない」
「えっ事故で...」
「何寝ぼけたこと言ってるの?変なこと言っていないで早く顔洗ってきなさい」
「はっはい」
不審に思ったマイは色々調べてみたが母親は昨日のことを覚えてすらいなかった。父親が居なくなっていた。正確にいえば【父親の存在そのものが無くなっていた】
(存在が消された?これって私が願ったから?いや...そんな訳ないよね)
「そんなことより久しぶりに二人でお出かけしようか」
「えーいいの!」
「いいわよ。好きな洋服買ってあげる」
「本当!行く行く!」
マイは準備をして車にのり仲良く出かけた。父親はもともと嫌いで居なくなって欲しかったため気にしないことに決めた。ショッピングモール近くのゴミ捨て場に男が捨てられていた。
「...マ...イ...」
男はそう言うと動かなくなった。
マイは父親のことをとっくに忘れていた。存在が消されたのではなく、事故で死んでいると思い始めていた。
(楽しくて楽しくてしょうがない!これもアプリのおかげなのかな?)
「もし本当なら...」
次の日_
「おはよう母さん」
「おはよう。マイ、見て...ホームレスが遺体で見つかったみたいよ」
「えっそうなの?」
ニュースの場所はマイの自宅から近くのショッピングのゴミ捨て場だった。
「これ...うちの近くの」
「そうなのよ。不気味よね~でも事件性がないみたいだから安心してね」
「はーい」
遺体の身元写真を見たマイは何かが引っ掛かった。
(なんだろう。何かを忘れている気がする。まあいっか!)
この日を境にマイはアプリが手放せなくなっていた。
(だって願いを叶えるためにはただゲームにログインして【人を殺すだけだから】)
4.
(私はもう..このアプリがないと生きていけなくなってしまった。困ったらゲームで【人を殺せばいい】)
マイはもう願いを叶えなくてもゲームで人を殺すようになっていった。
「学校であの人が...」
「宿題が...」
「あいつが嫌い..」
「これが欲しい...」
「あれが欲しい...」
「殺さなきゃ...殺さなきゃ...」
マイはゲームで無差別にどんどん殺し続けるようになった。
「ゲームばかりするのを止めなさい!」
「うるさいな!もう母さんなんてゲームで殺してやる!」
「なんてこと言うの!待ちなさい、マイ!」
あれだけ慕っていた母親がいつしか鬱陶しくなっていった。邪魔な存在と感じたマイはゲームをログインした。ログインしたマイは母親と似ている住人を殺した。
(すっきりした...)
不貞腐れたマイはそのまま眠り起きると母親はおらずメモが置いてあった。
【マイへ:
買い物に行ってきます。朝ご飯を作っていくので温めて食べてね
母より】
「買い物に行ったんだ。これ...私の好きなウインナーだ」
朝ご飯を食べたマイが一息つくと電話が鳴る。電話に出ると警察から掛けられていた。
「もしもし?」
「この家の子かな?」
「そうですけど...えっと」
「落ち着いて聞いて欲しいんだ。実はね君のお母さんが交通事故で亡くなったんだ」
「えっ?亡くなった」
「ご確認のために一度署に来て欲しいんですが..」
(母さんが死んだ?何かの冗談でしょ...だって死ぬなんて...)
マイは何も考えなくなり警察署に向かった。母親の遺体を見て頭の中が真っ青になり、警察から話しを聞いたが何を話していたのか思いだせないまま家に帰ってきた。マイはどうすることも出来ずゲームを開き住人を殺して母親を殺した人間に復讐しようと試みたが問題が起きた_住人がいなくなっていた。
「うそ...もう誰もいない」
5.
「どうして誰もいないの?」
「それはね~君が殺したからだよ。み~んな居なくなっちゃったね!」
「私は殺さなくちゃならないのに!」
「困ったね~このゲームで人を殺さなくちゃいけないんだよ...誰も居なくなってしまったし...どうする?」
「一体どうすれば...」
「簡単だよ」
「え?」
「殺せばいいんだよ!【現実で人を殺せばいいんだよ】」
普通の人ならばコリンの言葉を聞いても現実で人を殺そうなどと考えない。復讐は建前だがマイはただ人を殺したかった。現実で人を殺す。マイは警察から犯人の顔を教えて貰ったことを思い出し、犯人の男を殺すことに決めた。
(警察が直接追っているみたいだけど...私が見つけ出して殺す)
「そうだね..【初めて人を殺すよ】」
「頑張ってね!」
その会話を最後にログアウトした。不思議と人を殺していないのにゲームから出ることが出来た。マイは探偵を雇い警察よりも先に犯人の男を見つけ出した。
「一体呼び出してなんだよ!」
「*月*日の*時に起きた交通事故について覚えてる?」
「交通事故?そんなの知らねえな。ガキが俺に何の用だ?」
「知らなくていいの」
「はあ?舐めて...え?」
犯人の男は痛みを感じて自身の腹部を見る。腹部には太いナイフが深く刺さっていた。
「...どうせ死ぬから。さようなら」
「うっ...」
犯人の男はあっけなく死んだ。ゲームと違ったのは血が出ることくらいだった。犯人の男の返り血を浴びたマイは遺体を切り分け始末した。殺し終えたマイは一息ついた。
(初めて人を殺した感想は【とても快感で楽しかった】)
「あはははははは!楽しいいいいいい!」
「これが人を殺す感覚なんだ!もっと見せてよ~血を血を血を!」
「あはははははははははははは!」
復讐を終えたマイは関係なしに人を殺し続けた。
「あなた何して!」
「うっ...!」
マイが女性にナイフを刺し続ける。女性は血を流し力尽きた。ある時は中年男性を。ある時は小学生の女の子を。
そしてある日_見境なく若い男性を殺していた時だった。
「あはははははは!楽しい。殺さなきゃ!」
「殺して殺して殺して殺して殺さなきゃ!」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
「君、何してるんんだ!」
マイは聞いたことのある声が聞こえて振り向くとマイに電話を掛けた警察官だった。
「あっ刑事さん!」
「一体ここで何を」
刑事から見るとマイが殺した遺体は見えずマイだけが居るように見える。近づいてきた刑事をマイは躊躇なく刺した。
「なっなんで...」
「死んで?」
「うぐ...応援を!」
「!!まずい」
マイはその場から逃げて自宅に逃げた。部屋に鍵を掛けるとドアを叩かれる。
「警察だ!ドアを開けなさい!」
「開けなさい!」
「うるさいな...死んでくれないかな。あの人たちならログインして殺せばいいんだ。でも誰もいない...そうだ!【コリンを殺せばいいんだ】」
マイはコリンを殺すためにゲームにログインした。
6.
久しぶりにログインしたゲームは相変わらずだった。
「よく来たね、マイ」
「久しぶり、コリン」
「殺しはどうだった?」
「楽しかったよ。でも警察に見られちゃって今困っててさ。人を殺さなくちゃいけないんだ~」
「そうなんだ!」
「でもさ...人を殺さなくちゃいけない。けど殺す住人がいないんだ。だからさコリン...【私のために死んでくれる?】」
「...」
何も言わないコリンは黙ってマイを見つめた。マイはチャンスと思いナイフを振り上げ殺そうとした...が殺せなかった。ナイフが弾き飛ばされてしまった。
「なっ!どうして」
「あ~あ~君もそうなっちゃったか。システム上僕を殺そうとするのは行動違反なんだよね」
「行動違反ってことはコリンは【管理者】!」
「そうだよ。僕がこのゲームを管理している管理者なんだ。それとねマイ、残念なお知らせだけど管理者の僕を殺そうとしたらシステムがリセットされるんだ」
「ゲームがリセットされるってどういうこと?」
「このゲームがアンインストールされてもう二度と開くことも、人を殺すことも出来ないよ。殺しても願いは二度と叶わない」
「そっそんな...」
「だって永遠に願いが叶うわけないでしょ?それに限られている願いを君は使ったんだ。命と引きかえにね」
「命と引きかけ?」
マイは嫌な予感がした。嫌な汗が出てくる。マイは静かにコリンを見つめた。
「はあ…気づかなかったね。最後まで…このゲームに住む住人はね殺すとどうなると思う?」
「現実に生きている人が死ぬんだ。つまり君は既に人を現実で殺していたんだよ」
「うっ嘘だ!そっそれじゃあ…ニュースの男の子やシスターは」
「現実で無くなっているよ」
「そっそんな…」
「まあ、シスターを殺したのは僕なんだけどね」
「どうして殺したの?」
「だって邪魔されたくないでしょ?こんな面白いゲーム!それにもう時間だよ。ほら…」
マイは周囲を見回すと村が空が森が木が何もかもが消えて無くなっていく。マイが居た場所も消え辺りが真っ白の空間になる。突然浮遊感があると世界が真っ黒に染った。
「!!」
「ゲームオーバだね。マイ…さようなら」
「待って!コリン!」
マイはコリンに向けて手を伸ばすがコリンは笑うと消え気づけば自分の部屋に戻っていた。
「戻ってきた?まさか!」
ゲームをもう一度ログインしようとしたがすることが出来なかった。アプリ自体が消えていた。いや…存在自体が消え履歴すら残っていなかった。
「どうして!嘘!何で!どうして!」
「なんでログイン出来ないの!どうして!」
「大人しくしろ!」
「離して!私は殺さなきゃ!殺さなきゃいけないんだ!」
マイはいくら探してもアプリは見つからず怒りに任せてスマートフォンを投げ付けた。地面に落ちたと同時にドアが開き警察に連行された。
「殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「いい加減にしろ!」
警察に連行されるまでマイは言い続けた。
7.
とある自宅にニュースが流れる。アナウンサーが真剣な表情で読み上げている。
「えー次のニュースです。先日大量殺人をした高校生が逮捕されました。彼女は精神を病み現在病院に入院しているらしく…」
「警察から聞いた供述によると願いを叶えるために殺したと実行しており…」
牢屋で体育座りをしたマイは誰に聞こえない声で呟いていた。
「殺さなきゃ…殺して殺して殺して殺さなきゃ…」
そう呟いていたマイは何かを思いつき隠していたガラスの破片を取りだした。
「そうだ…こうすれば…こうすればいいんだ。こうすればまた…人を殺せるんだ。あの世で…」
マイはそう言うと首にガラスの破片を当てて勢い良く切りつけた。グサッ…グサッ…と鈍い音が聞こえ血が溢れ出しマイを赤く染めた。
「これで…楽になれる…また人を…殺せる」
そういうとマイは倒れ力尽きた。手には凶器となったガラスの破片が握られていた。
次の日…とある自宅からまたニュースが流れてくる。
「えー新たに入ってきたニュースです。先日逮捕された女子高校生が自殺し遺体で発見されました。発見された傍には血文字で殺すと書かれており、警察は自殺と判断し…」
ニュースを見ていた母親はリビングにいる息子に声をかけた。男の子は手を挙げて元気よく返事を返した。
「物騒なニュースね。あなたも気をつけなきゃダメよ~」
「はーい!ママ!」
すると男の子の持つスマートフォンに通知音がなる。そこには見知らぬアプリの通知だった。
「なにこれ?なんだろう…願いを叶えるアプリ?面白そう!やってみよう!」
男の子はそういうとアプリを開いた。アプリを開くと見知らぬ村へと景色が変わる。男の子が不安がっているとある人物が男の子に声をかけてきた。
「やあ!」
「君はだあれ?」
「ごめんごめん。自己紹介がまだだったね!僕はコリンだよ!」
コリンはそういうと男の子に伸ばす。男の子も手を握ると嬉しそうに名乗った。
「コリン?僕はカイトだよ!」
「カイトか~いい名前だね!このゲームへようこそ!このゲームについて案内するよ!着いてきて!」
「うん!」
男の子…カイトはコリンに連れられ走り出した。コリンはゆっくり振り返ると不敵に笑った。
そして…悲劇はまた繰り返されるのかもしれない…
人を殺すアプリ 終
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