美しい君へ

あおりげる。

彼のこと

1

眠気眼なことに気がついていないのか、佳奈は俺に色々言ってくる。

「うん、あー、、、ね、うっ、、、ん」

眠気眼なことくらい気がついているけど、寝はさせない。最近仕事仕事仕事仕事で全然かまってくれないんだから、、。付き合い始めて1年目。普通ならもっと距離が近くて、、。そんなはずなのに。楓は、私がどれだけ寂しい思いをしているのかわかっていない。

「楓、ねえ、楓話聞いてる?」

これは、答えた方がいいやつだよなぁ、、考えていると、

「楓、、ねえ、、、、、、ワカ、、レ、、ヨ、、、」

えっ。泣いてるの?どんなことがあっても泣くことなんて全然ない彼女が泣いている。泣いている。泣いているから、何を言っているのか聞こえない?

いいや、とりあえず聞かないでおく。

「佳奈」


いつもよりも優しい楓の声がする。こんな声聞いたのいつぶりだっけ。


楓は知らない、私が泣くことなんて。いいや、私は楓の前で泣けなかった。朝早く仕事に行き、帰ってきたらお疲れモードをアピールしてきてご飯が出るのを待ち、食べたら寝る。この間に会話という会話はしない。というか、話しかけるのが怖いくらい疲れたオーラを出してくる。大学を卒業して一年目なのに、仕事>私だ。せめて、仕事≒私くらいにしてくれればいいのに。私は、とりあえず無言を決め込んだ。

「佳奈、俺さずっと仕事ばっかで話すことすら全然できなくてごめん。でも、実は最近仕事にいけてなくて。」

え、、?じゃあ何、。私に嘘ついて何してるわけ。怒りといえば怒りだが、それよりも悲しさが私の心を覆った。気づけばそれは目から大粒の涙となり溢れ出した。

「じゃあ、、、楓は、、、。じゃあ、もう、、、、なおさら、、楓のためにも私のためにも、別れようよ」

別れようて伝える時、私は涙よりも笑顔が勝った。


俺は、ずっと彼女に言えなかった。実は、自分には病気がある。いや、病気が見つかった。ほんの数ヶ月前、、。いや、入社して間もない頃だった。俺は腹のあたりに激痛が走り、その場で倒れ込んでしまった。その時、俺は救急車を断り医務室で休ませてもらった。家に帰ったら彼女に迷惑をかけるだけだと思い、その日は彼女に『同期とご飯行ってくる』と伝えた。それと、『明日から急だけど出張があるから帰れない』と。帰り道、再び激痛が俺を襲った。はじめのやつよりも激しく。気分も悪くなり、ちょっと吐いてしまった。そこには赤い液体。血が得意ではない俺はさらに吐き気が増し、目眩がした。そこを同期の友達が通りかかって、、。俺はそのまま病院に連れて行かれた。俺は『彼女には、、連絡、、、す、るなよ、、今日、、、は、、帰、らないって、、、伝え、、、て、、ある、、、から、、。』と同期に伝えた。そこから記憶はあまりない。病院のベッドで起きると隣には同期が座り、寝ていた。

「、、、どう、、き、」

ハッとした。楓が、起きた。あれから数日間寝たきりだった。医者曰く相当楓の体は病が進行している状態らしい。理由の一つにストレスがあるとも。

「楓、起きたのか。よかったよ。死んじまわないか心配だったわ。」

涙ぐむ同期の声が俺に刺さった。そうやって話す時間も束の間。また、あの時みたいな激痛が走った。同期はナースコールを押してくれて、俺は医者を待った。医者は、いろんな薬を摂取させた。しばらくすると呼吸も落ち着くくらい楽になっていた。医者は、そのタイミングを見計らったのか、病室に入ってきた。それと同時に、同期には明日も仕事があるし、帰らせた。医者は、俺にいった。

「日暮さん、単刀直入に申しますとこのままだと余命1年ちょっとです。」

俺は、衝撃すぎて、さっきとは違う吐き気を催した。そのまま医者は詳しい状態をペラペラと俺に喋った。

「それは、何をしても余命1年くらいしかないんですか、、。」

「治療法はあります。薬、、、。リスクですが、手術もあります。」

俺には、手術をするお金などない。もう一つの治療を選ぼうと思った。

「薬ですと、個人差がありますからどれくらいの間普通に生活できるかわかりません。それに、副作用があるので、お仕事も行くのが難しくなってくるかと。」

どうしていいのかわからなかった。けど、彼女にバレたくない。色々考えた結果、次の日に手術を受けることにした。


・・・


手術が終わり、目覚めた。ナースコールを押すと担当医がやってきた。

「手術は成功です。しかし、、。」

しかし、、、、?

「しかし、薬を飲み続けてください。抗体を作る薬っです。ただでさえ病気になりやすい体質です。簡単にすぐ病気にかかってしまいます。」

俺は、その時に快く『はい』といい、次の日には退院した。

家に帰ると心配そうな彼女が目の前にいた。また、調子悪くなり彼女に迷惑をかけるのが怖くなった自分は、手が震えていたらしい。彼女は、

「お疲れ様、、、、。ねぇ、楓大丈夫?なんか、元気ないよ。手も、、震えてる。」

バレたくない。バレたくない。そう思い、

「外寒かったし、ちょっと風邪ひいたかも。だから、早めに寝るね。おやすみ」

そういって、彼女との壁を隔て始めてしまった。そう、これが始まりだったかもしれない。次の日、その次の日も、何かしら理由をつけてすぐ自分の部屋に逃げた。数ヶ月後、家に帰る途中に息がしづらくなった。まさかまた、って思ったり、彼女にバレたくないって思ったり、色々考えているとさらに悪化した。そのまま病院に行った。すると、前に診てくれた医者がいてまた診察してくれた。すると、

「ストレスなどからくるものです。今日みたいな場合にその症状を止める薬を出しますね。ただし決められた量しか飲んではなりませんよ。」

そして、家に帰った。手を洗うときに鏡を見ると、随分と顔がやつれているように見える。確かに最近は仕事ばかりだった。こんな顔じゃ彼女に心配をかけてしまう。そう思い、その日は何も彼女に声をかけずそのまま自分の部屋に入り寝た。そんな日々を繰り返し今に至る。


俺は、この話を彼女に話した。

そして、今まで本当にごめん。ただその言葉を切実に。最初と最後に添えた。


そんなこと知らなかった。楓はなんでそんな、、そんな大事なこと教えてくれなかったの。私に心配かける、、て。よっぽどこっちの方が辛かったよ。涙がさらに溢れだす。上手く喋れないほどに。。そのまま私は崩れ落ちた。

「佳奈!!」

彼女に、、、彼女に悪いことをした。彼女の心はすでに限界に達しているんだ。どうすれば、、、。いや、今まで俺がずっとずっと隠し事ばっかりだったからだ、、。どうにか、、、しないと、。うぐっ、、、あぁ、、。はぁ、、、はぁ、、っ、、、。まずい、く、す、、、り。うっ、、。

「か、、かえ、で?だい、じょうぶじゃ、、ないの、、?ねぇ、、か、、えでっ!!」

「大丈、、夫だ、、から、、心配しないで。」

自分の部屋まで行き、薬を飲んだ。まただ。隠そうと隠そうと逃げ続けて、、。飲んでからちゃんと話さないと、、、、。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る