第7話 魔力とマナとボス登場

 ――――どうやらフォレストゴレムは期待外れだったようだ。


 確かに味は毒毒しかったし多分ほんとに猛毒だったんだろう。

 だがそれでも俺が死ぬには至らなかった上、なんならこの辺り全てのフォレストゴレムの魔力と毒は全て俺の腹に収まってしまった。


「……吐き気一つない。むしろ引くほど快調だ」


 枯れ果てた元フォレストゴレムにデコピンしてみる。

 ズギャウンッ! とまるで大砲で撃たれたように砕けちっていく。


(むしろ体強くなってねーか? 魔力を吸ったから? それともこの馬鹿みたいな怪力のコツを掴んだだけ?)


「――――と、そうだ。つい夢中になっちまった。ティア大丈夫か?」


 さっきティアを横たえた方を振り向く。


「ええ……ありがとリュート。お陰で助かったわ」


 しかしそこにいたティアは力なく寝そべり、顔だけこっちに向けていた。


「大丈夫か? フォレストゴレム探して毒エキス持ってこようか?」

「遠慮するわ。しばらくしたら元気になるから心配しないで……」


 そうは言うが心配するなは無理がある。弱ってる女の子をほっとくなって心の中の婆ちゃんが言ってる気がするし。


(……仕方ないな)


「ほら、休める場所でも探すか。セクハラって訴えないでくれよ?」

「えっ⁉︎ ちょっとリュート⁉︎」


 まだ動けないティアを抱き上げる。まさかこんな所でお姫様抱っこを初体験するとは思ってもなかった。


 思った以上に軽い体。それでいてすべすべで柔らかい肩や太ももの感触。

 なるほど、確かにこれは恋愛漫画や小説で定番になるだけはある。ティアの可愛い見た目もあるだろうが、それだけの魔力というか魅力がある。


「安心しろ。記憶に残すけど変なことはしねーよ。そもそもとっくに枯れ果ててる」

「大丈夫、分かってるわよ」

「ん、そうか」


 ゆっくり歩き出す。見える範囲はどこも同じような景色だが、なんとなく森の奥に向かって歩き出す。


「なあティア。魔力って誰でも見えるのか? もしかしてだけど、俺って魔法とかそっち系の才能あったりする?」


 気になったことを口に出す。もしそんな才能があったとして、それがどうしたって話だけど。


 するとティアはすぐにその答えを返してくれた。


「魔力が見えるのは魔力を持っている者だけよ。というかリュートみたいに変態級の魔力を持ってたら見えるのが当たり前だと思うけど」

「なんでこの状況でディスられてんだ俺……」

「死にたがりの変態だからじゃないかしら」


 ぐうの音も出ない。


「それにリュートならどんな魔法も私以上に使えるはずよ。大事なのは明確なイメージと、それを叶える強い想い。あとは慣れかしら」

「あー……うん、諦めた。別に困ってないし」

「…………そう。ま、それでもいいけど」


 俺を責めるでも落胆するでもないティアに安堵する。強引で無茶なところもあるティアだが、こういう所は素直にありがたい。


 ――――流れる沈黙。だが別に嫌なものじゃない。

 むしろこの静寂もどこか心地よく感じるのはティアのお陰だろうか。


「なにか面白い話してよ」

「……そう思ってたのは俺だけか」

「冗談よ。それよりリュート、よくマナの濃い方が分かるわね」


 冗談で良かった。てっきり非モテ陰キャを絶対困らせる系のギャルかと思った。


(まあそれは置いといて)


「まじ? 適当に歩いてるだけだけど、多分」

「そうは思えないほど正解よ。ま、リュートも魔力が見えるみたいだしそこまで驚かないけどね」


(……ん? 今さらだけど魔力とマナって何が違うんだ? ティアの言い方的に同じなのか違うのかよく分からん。漫画だと魔素とマナって混合されてるし、それと魔力は違うのか?)


 しばらく考えてみる。だが考えれば考えるほど頭がこんがらがってきた。完全にギブアップだ。


「なあティア、魔力とかマナとかって何が違うんだ?」


 素直に聞いてみる。汁は一瞬の恥、不知火は一生の恥とはこのことだ。

 するとティアは「ああそっか……うん、そうよね」と呟くと、俺の目を真っ直ぐ見てきた。


「魔力とマナは似てるけどまったく別のものよ。魔力は人間や限られた亜人種の精神から生まれるエネルギーで、マナはこの世界の大気に溶け込んだ自然界のエネルギーのことを指すの」

「ふむふむ」


(つまりオナラと火山の硫黄みたいな違いか?)


「それに魔力は色んな形に変換できて使い勝手がいいの。分かりやすいのは魔法ね。同じ魔力でもイメージ次第で炎にしたり、氷や雷にも変化させられる。こうやって魔力を変化させたものが魔法って呼ばれてるものよ。……それでマナは、主に亜獣種や亜人種のエネルギー源って感じかしら? ついでだけど、魔力を操る亜獣の総称が魔物だからね」


 少し頭が混乱してきた。魔力、マナ、亜獣、亜人、魔物、今ティアの口から出てきた言葉が頭の中をぐるぐる回っている。


「えーっと、つまりティアは魔物ってこと?」

「なんでそうなるのよ⁉︎ 水晶龍はマナを魔力に変換できる力を持ってる亜人よ‼︎ 魔力は使えるけど、必要なのはマナの方! ………………でもそうね、簡単に説明すると、魔力や魔法を使う悪い獣が魔物。マナを食べるだけの大人しい獣が亜獣、マナを食べる人に似た種族が亜人。こう覚えておけばいいんじゃない?」


(なるほど、そう説明された方が分かりやすい)


「ほう……それで? 魔力が見えるとマナが分かるのか?」


 かなり寄り道とお勉強をしてしまったが本題はこっちだ。というか完全に忘れるところだった。


「その答えは簡単よ? 魔力があるってことは魔物がいる。その魔物の主食はマナ。つまりマナが多い場所に魔物は集まるの」


 今日イチ納得した。今なんとなく俺の足が向かってる方向。目を凝らしてみると、フォレストゴレムとは比べ物にならない魔力がこの先から漂っている。


(――――つまり俺は無意識のうちにこの森のボスに近付いてたのか。……え、こんな状態のティアを抱えて? 鬼畜生すぎない?)


 慌てて今来た方向に振り返る。

 俺一人ならどうなってもいいが、流石にティアを心中に巻き込むつもりは毛頭ない。


 しかしその瞬間、地鳴りのように低く、それでいて森全体が震えるかのようなナニかの咆哮が俺達に向けられた。


「まじか……完全に気付かれてる……てかこんないきなり戦闘パートに入るもん? 一回寝てから出直す?」

「もちろんダメ。あ、もうマナが戻ったから降ろしてリュート。今度はヘマしないわ!」

「あ、ちょっティア⁉︎」


 猫のように身を翻したティアが俺から降りる。どうやら強がりじゃないらしいが、これで引くに引けなくなった。


(こうなったら仕方ない。ティアがやられる前に俺の地獄バキュームで終わらせるか)


 地面が揺れ始める。だがそれは地震とは明らかに違い、何か大きなモノが地面の下を蠢いているような不気味な振動。


「リュート! 出てくるわよ!」

「ああ、いつでもディープなのをお見舞いするよ」



 そしてソイツは、俺達の前にその姿を現した――――。

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