第4話 旅のう◯ち事情は心配なかった

 ――――翌日。

 あの後宿に戻った俺達は用意された部屋で一夜を明かした。もちろんベッドはシングルサイズが2つ置かれていたのは言うまでもない。


 そして約束通りというか、泊めてもらった上で恩を重ねる形になるが、やはり無料で提供された朝食を食べた後、俺達はイコーイの街で最も賑わう市場を物色していた。


「なあティア、仮に魔王を倒しにいくとして大きな問題が二つある」


 本当は10や20じゃ済まないが、多分気合と根性とでも返されるだろうから言わないでおく。


「何の問題? 気合いと根性があれば……」

「それで解決できないから問題なんだ」


(開口一番それか。この子、見た目はどこぞの聖女って感じだけど中身は熱血漫画の主人公かよ……)


「まず一つ目。金がない。スタト村からこの街まではそう遠くなかったからなんとかなった。それでも1週間水しか口にしてなかったから割とギリギリだったけどな」

「気合いとこん……」

「シャラップ、二つ目。移動手段が徒歩だけは無理。地図を見た感じ大陸同士は割と近いっぽいから港まで行けば渡れると思う。だけど港に行くまでの移動が徒歩は無理、死ぬ。それとこの大陸の南のカク大陸に渡った後、魔界までは陸が離れ過ぎてるし船なんかもあるわけない。海を越える手段がなきゃ不可能だ」

「気合いと……」

「うっせえ脳筋娘」

「ひぐっ……」


 初めて女の子を泣かした死にたい。けどまた死ねなくなっちゃう悲しい。


 この世界を――というかスタト村とイコーイの街を見た感じ、技術力はあっちの産業革命前とかのレベル。飛行機なんて望むべくもないし、下手したら熱気球なんかもないかもしれない。


 それと飯は奇跡的に俺の口に合うが、トイレに関しても問題だらけだ。

 食ったら出す。実に当たり前の話だが、その後の処理が問題しかない。

 なんせこの世界に来たばかりの俺は、ティアを始めこの世界で育ってきた人間と違い魔法なんて使えない。つまりみんながしてるように石造りの便器に用を足した後、炎の魔法で灰にするなんて芸当できないのだ。


 このままじゃ仮に行く先々や道中で飯にありつけたとしても、◯んち街道を造り上げてしまう。そんなの恥ずかし過ぎて死にたくても死にきれないだろう。ましてティアに自分のう◯ちを処理してもらうのも、欠片のような自尊心が微粒子レベルまで砕けてしまう。


 そんな恥ずかしい、だが深刻な問題を考えているとティアが恐る恐る挙手をした。


「はいティア君どうぞ」

「うん、えっとねリュート。一つ目のお金? 食べ物? の問題は多分大丈夫だと思うよ」

「どゆこと?」


 意味が分からない。この世界にはちゃんと貨幣システムがある。だったらそれに伴う金銭のやり取りによって必要な食糧や物資を調達するべきだろう。


「まず私は水晶龍だから、ご飯は食べなくても平気なの。大気中のマナをツノから吸収してエネルギーと魔力に変換してるから。昨日みたいに食べた者も体内で全てマナに分解して蓄えれるの」


(アイドルはうん◯しないってこのことか? 少し残念……いや、俺は何を考えてるんだ)


「それにリュートだって、多分だけど私と同じような生き物になってると思う。見た目はアルクの――人間のままだけど、自殺した過ぎてとっくに人間やめてるよ?」

「え、まじで言ってる? 超卍?」

「まじまじのまんじ」


 思い返す。確かにこっちに来てからうんち◯してないが、水しか飲んでないからだと思ってた。それにティアがトイレに行ったこともなかったな。


(なんだよソレ、散々兵糧で苦労してきた信長やディスカバリーチャンネルのエ◯が地獄で血の涙を流すだろ。って、◯ドは死んでないか)


 なんにせよご都合主義的なアレにより食糧問題はなんとかなりそうらしい。


「だけど確かにお金も残り少ないし必要なのは確かね。…………ギルドに冒険者登録でもしてみる? 確か登録しちゃえばどの大陸や国でも依頼を受けれるってアルクのお父さんが言ってたよ?」

「……あー、やっぱりそういうのあるんだ。って昨日の食堂にいた連中からしてそうだよな。薄々分かってはいたけど」

「うん、城下町はともかく地方の街の自衛手段はギルドが担ってる場合がほとんどだよ? 他には危険種の魔物の退治とか魔鉱石やマジックアイテムの調達とか」


(なんかどんどん異世界ファンタジーチックな単語が飛び出してくるな。まあ慣れてきたけど)


 ほんの少しだがわくわくしてしまう自分がいる。だがその程度のわくわくでは俺の自殺願望を抑えるなんてできるはずがない。


「じゃあ金と必要物資はギルドを利用してやり繰りするか。だけど残りの問題は?」

「そこはほら、気合いとこんじょ……」

「だらあああああああ‼︎」

「ひえっ⁉︎」


 そんなこんなで、俺達はこの街のギルドを探すことになったのだった――――。


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