奇妙への招待。 宙馬

「“あいつは?”」

「帰ったらしい」

「何しに来たんだ」

 友人たちの会話が聞こえて“目を覚ます”。その特異性によって、彼は他者にその事を話してはいないが、彼の特殊なナルコレプシー【E・ナルコレプシー】は、その中でも特殊な性質をもっていた。というのも、彼はねていても、電脳意識領域では起きているのだ。現代ではほとんどの人類が補助電脳装置をもっており、“宙馬”と“大電脳”とに大別される。それらは本来人間の思考を増幅させ、機能を補助する程度の能力しかもたない。ほとんど公平に人々に平均的ステータスを与えている。“倫理的に許容される程度”に。なのに、彼は人間としての脳が眠っていてもこの補助電脳が起きて意識を保っている。彼曰く“明晰夢”(自分の意志で操れる夢)のようなものに感じるらしい。


 しかし、彼«ヒッヅ»はこれをだまっていたが、だまっているからこそ退屈だ。しかし、これを他者にもらしてはならない、きっと“更生施設”に入れられるのだ。彼は電脳空間に接続する。そして、普通ではありえない事が起こった。彼の意識は、自由に電脳空間を飛び回っていた。ただの電脳空間ではない。本来は存在するはずのない空間である。それは、現実を完全に模倣した電脳空間だった。

(やった、ゾーンにはいった)

 まるで幽体離脱のような状態である。彼はその状態になると人々の電脳から電脳へ渡り歩き、自由に意識を動かすことができた。

「ザイルのやつ帰ったってさ」

「いったい何のためにきたんだ」

「あいつの噂しっているか?」

「ああ、元カノを廃人にしたっていう話か」

「電脳で実験したらしい、“ミゲルの加護”を何だと思っているのか」

 “ミゲルの加護”人口知能ミゲルは、人間の指示と制約を忠実に守る“規律型AI”とされている。地球上のありとあらゆる場所に存在し、ありとあらゆる規律を維持している。国家の枠組みが事実上意味がなくなったのも、これのおかげである。


<ドスン>

 突然、ありえない感覚に体を反発させた。そしてその衝撃から距離をとる。振り返ると、ザイルがいた。しかし現実の彼ではありえない格好。まるでピエロのような格好でそこに立っていた。

「ちょっとまってこれはどういう、ああ、でも、いや……なんでもないよ、君は自由にしてて」

「おい!!」

 ザイルは、ヒッヅの手をがっしりと掴んだ。


 


 

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