ルーチェの決意 後編
かつて勇者クオンによって封印されたはずの魔王。
それは雄大な、いや、尊大な足取りで、奥へと歩いて行った。
(魔王……!? おじいちゃんが封印したはずじゃ……!?)
ルーチェが何も言えないでいると、へたり込んだままの上司が叫ぶ。
「まずいぞ。奴ら、武器の製造だけじゃなく魔王を復活させちまったんだ! フィオーレ、何とかしてくれよ。勇者の孫だろう」
横暴な発言だったが、ルーチェは何も言い返すことができなかった。
腰の抜けた上司を一瞥する。虚勢を張っているものの、当分動けなさそうだ。
「こんなことが許されるのか? あぁ……女神様、どうか我らをお救いください……」
しかも、上司は両手を組んでぶつぶつと呟きはじめた。
(やるしかない、俺が)
「トマさん。立ち上がれるようになったら、司令官へ状況を
「フィオーレ!?」
「行ってきます。……私は、勇者の孫ですから」
ルーチェは魔王の後をついていくことに決め、歩き出す。
一歩一歩進むごとに、何故だか足は重たくなっていく。冷や汗が背中を伝う。
(おじいちゃん……。俺はうまくやれるだろうか? うまくやれるように、応援してくれないか)
願わなくても祖父はルーチェを全力で応援してくれていることも、知っている。それでも願わずにはいられなかった。
やがて、少しずつ魔王との距離が近づいていく。
(……? 魔王ってあんな鈍い動きをしているのか? 復活したばかりだから?)
ふと、ルーチェは祖父の口からはあまり魔王の話を聞いたことがないと気づいた。
勇者と魔王がどのような戦いを繰り広げたのかについては、学校で学んだことの方が圧倒的に多い。
(もしかして、これなら俺でも捕まえられるんじゃないだろうか)
決意した途端に、今度は心臓が早鐘を打ちはじめる。心臓の音はさらに緊張を倍増させてくるものの、恐怖心は少しずつ和らいでいくようだった。
魔王が分かれ道の左側へと進む。
ルーチェは後に続く。行き止まりになっていて、魔王の姿を見失ってしまう。
ところが一見するとただの壁は、よくよく調べると魔法がかけられていて、隠し通路の入り口になっていた。
(これは……ひょっとして、俺たちが探していた場所に繋がってるんじゃないか……?)
さらに進む。
壁に背をつけて魔王の様子を窺う。次の瞬間、誰かが飛び出してきた。
「助けてくれぇ! 誰か! 誰かいないのか! ……あ」
飛び出してきた男とルーチェの目が合う。
年頃は五十を過ぎたくらいか。最初は整っていただろう髪型は乱れ、顔は恐怖に歪んでいた。着ているものは作業員の制服ではなく、仕立てのいいスーツだ。
ルーチェは頭の中で資料を広げ、なんとか、彼が鉱山の経営者だと思い出す。時間がかかったのは、今の状況が資料とは乖離していたからだ。
男が忌々しそうに舌打ちをした。
「ちっ。魔法協会か。いや、この際誰でもいい。金ならいくらでも払うから、儂を守れ!」
「……おっしゃっている意味がよく分からないのですが」
「あれを見ろ!」
男が、飛び出してきた場所を指差した。
元は社長専用の空間だったのだろうか。他のどの空間とも違って、部屋のように整えられていたということだけは分かった。
ただし今は跡形もない。
何故ならその中央には、魔王が佇んでいたから。
(いた……!)
直立不動というよりは少し前屈みになっている。手に何かを持っていて、ぐしゃりと潰した。
社長が悲鳴を上げて、両手で髪をかきむしる。
「あぁっ! 儂の最高傑作たちがっ」
「……あれは何ですか」
「見れば分かるだろう。魔法銃だよ!」
いとも簡単に社長は罪を自白した。
見て分かる訳がない。魔法銃の製造は法で禁止されているのだ。
「あぁ! ちくしょう!」
社長がスーツの内ポケットから何かを取り出す。まさに魔王が破壊している魔法銃だった。
そのまま魔王へ向かって構える。
「これでも喰らえっ!」
「待てッ……」
ルーチェの制止もむなしく、社長は
ぱしゅぅっ! 銃口から発射されたのは螺旋状の光。一直線に魔王へと向かう!
(魔法……これは雷属性っ!? 魔石鉱山では本当に魔法銃を作っていたのか)
驚くルーチェ。しかし。
……ぷしゅう
魔法の光は、魔王の鎧に呆気なく吸い込まれた。
「は?」
(魔力のない人間が魔法銃を使っても、たいした威力にはならないってことか)
ルーチェはすぐに理解したが、社長は納得いかないようだった。
「くそっ! 何で効かないんだよ! くそっ、くそっ!」
ぱしゅっ、ぱしゅっ
放たれるすべての光は鎧に吸収されていく。
やがて魔法銃の銃口からは何も発されなくなった。弾切れというものが、魔法銃にもあるようだった。
魔王の足元にはおびただしい量の魔法銃の残骸が転がっていた。
社長室ではなくて、武器庫だったのかもしれない。とはいえ、間違いなく、魔法協会が見つけ出すべき場所のひとつだった。
奇しくも魔王のおかげで発見することができたのだと理解して、ルーチェは拳を握りしめる。
がしゃんっ
「ひ、ひぃいっ」
魔王がルーチェたちの方向へ、兜を向ける。
社長は震えあがると、そのままルーチェの歩いてきた方向へと逃げて行った。恐らく彼が捕まるのも時間の問題だろう。何よりルーチェがこの場所を知ってしまったのだから。
しかしそこから、魔王は動こうとしない。
どちらかといえばうなだれているようにも見えた。
(これなら俺でも捕まえられるか……?)
ルーチェは唾を飲み込んだ。
再び緊張が押し寄せてくる。震える左腕を右手で押さえつけて、深呼吸を一回。
まだぴりぴりと震えるけれど、右手を添えて左手を魔王へと向ける。
「『空に鳥。大地に花。海に魚。我、女神の創りたもうた光となりて、祝福を与えんことを――
ルーチェの左手から透明な鎖が放たれた。
魔法学校で最初に倣う基本の捕縛魔法だが、熟練すればするほど強力な効果を発揮するものだ。
ぐるんっ!
いともかんたんに魔王の鎧は鎖に絡め取られて、どさっと音を立てて倒れた。そしてそのまま動かない。
ルーチェは手のひらをかざしたまま、ゆっくり魔王へと近づいていく。恐る恐る兜に手をかけた。
(首無しってパターンもある……か?)
何せ、かつて勇者が封印したのは魔王の『鎧』だけなのだ。魔王の正体が人間なのか魔族かすら、語られたことはない。
ごくりと唾を飲み込んで、目を瞑り、ルーチェは一気に兜を引き抜いた。
何の反応もない。
ルーチェは薄目を開けて――
「……ユッカ、さん……?」
ごとり、とルーチェの手から兜から落ちた。
兜を被っていたのは黒ずくめの女性、ユッカだったのだ。気を失っているようでかたく目を閉じている。
「ユッカさん!? ユッカさん、しっかりしてください。目を覚まして!!」
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