夜縹の恋

堕なの。

夜縹の恋

 私の恋人には、夜、私の家でしか会えない。連絡なんて出来なくて、適当な日にふらりとやってくる。その頻度が下がっていることを、私は勘づいてしまった。一緒に居られるのもあと少し、ということを。

「久しぶり〜。二週間ぶりくらい?」

 後ろから目を塞がれる。彼の声に、嬉しくなる。報われない関係なのに。

「1ヶ月ぶりだよ。久しぶり」

 時も数えられない君に悲しくなる。君が思っているほど、ホントは私は強くない。君のいない夜に涙を流すくらいには、君の所為で弱くなってしまっていた。

「そんなにか〜。浮気とかしてないよね?!」

「当たり前でしょ。する訳ないじゃん」

 君のそのおどけた言い方に涙を飲んだ。強がりを、二人で続けてきた。

「そろそろ手を外してくれない?」

「自分で出来るでしょ」

 違う君にやって欲しいんだ。だってもう、

「ラジャー! 我儘なお姫様」

 君の手に沿って私は振り向く。君の後ろの閉まった扉が見えた。

「今日が、最後なの?」

「分かんない」

「誤魔化さないで。もう会えないんでしょ?」

「ごめん。たぶん……」

 いいの、謝らないで。君の夢が叶ったってことなんだから。ようやく、君は。

「夢なんて、叶えないでよ。ずっとここに居てよ」

「ごめん……」

 申し訳なさそうな君の声に、自分が何を言ったかを知る。ただ謝りたくて、でも、声は出なかった。

「愛してる。本当だよ。幸せになってね」

 君の、限りなく透明に近かった身体が消えていく。大好きな君が、私の傍から跡形もなく消えていく。君との思い出の品、何て物は一つも遺っていない。だって君は、この部屋に住み着いた幽霊なのだから。

 こうして、私の夜縹の恋は夏の闇に溶けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜縹の恋 堕なの。 @danano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説