第2話−緊急事態

 主人が起きた。歯を磨いている。どうやら眠たそうだ。朝ごはんを食べる。ご飯とハム3枚。私は主人がこのようなものを食べていいのかと心配になる。少ないし野菜が足りない。家を出る。学校に向かう。実は主人には好きな男の子がいる。私達は決まって主人がその好きな人に出会うと緊急事態になることは決まっている。まあ私の場合仕事が増えてありがたいのだが、そう思わないやつもいる。千差万別である。

 うむ、どうやら今日は平和に終わりそうだ、主人はいつものように友達と喋り、授業を受け、今から帰宅するようである。だが、ここでお決まりのことが起きる。そう、雨だ。大抵のラブストーリーはここで男の子が傘を持ってきて「一緒に帰る?」や「俺の貸してやるよ、ほら、あ、俺はいいから!」などとなるところだが、私たちの主人はそのようなことをされるほど顔が整っていないし性格も特段明るい方ではない。だから誰も来ない。あぁ、なんと悲しいことか。だがそんな主人にも手を差し伸べる心優しい人間がいた。それが主人の思い人である。

「傘、ないの?」

「あ、いえ、あ、その、えっと…はい…」お、来た来たこれがラブストーリー?

 緊急事態!緊急事態発生!至急、対応の者は配置につけ。繰り返す...

一方その頃私達の世界ではいきなり大忙しになった。私は主に深い考えをすることが担当だからこのようなときは動かない。だが心を鎮める役割の者はてんやわんやし、シンは働かないように、じっと息を潜める。そんなことしなくてもいいのに。特に動き回っているのはコイ。なぜならまあ分かるだろう。

「ちょっと、そこどいて!今は私が主導となって動くのよ!無駄な動きはしないでちょうだい!」

コイよ、そんなに急がなくても良い。相手は逃げない。ん、あ、去ってしまうこともあるか。

「さあ、主人ちゃん!この好機逃すべからざるよ!一気に畳み掛けるわよ!」

 そんな中外界ではコイと、主人の思い人の何かが駆け引きを行っていた。

「だめよ!そこは「一緒に帰りましょう」よ!引き下がっちゃだめ!」

こうすると外界で主人はコイの命令した内容には抗えなくなる。そして主人はこう言った。

「あの、よかったら、一緒に途中まで…」

言った。言いやがった。いや、やった。やりやがった。あのコイ!

すると思い人はこう言った。

「あぁ〜いいけど狭くないかな…」

やった。やっちまった。思い人、言いやがった!そこから主人と思い人は途中まで一緒に帰った。これは傍から見ると恋人のようだった。その夜主人は思い人のことばかり考えていた。ご飯を食べるときも友達と連絡しあっているときでも歯を磨いているときでも、常に考えていた。これが恋というものなのかと私は思った。だが翌日想定外のことが起こった。主人の思い人と女の人が一緒に仲良さそうに一緒に歩いているではないか。晴れた空の下で仲良く喋っているではないか。こういうとき「女友達でしょう」と思うのが普通かもしれない。だが主人の場合は違う。主人の場合は「うわっ、絶対あの二人できてる、もう最悪」となってしまう。つまりそのような場面を見た瞬間主人の恋心は一瞬で崩れ、その次には諦めへと変わってしまう。これはコイの性格のせいであろう。コイがこういう命令をするから主人がそうなってしまうのである。うーん、恋というものはめんどくさそうなものである。


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