13 鳳凰暦2009年4月9日水曜日午後 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組 M



 俺――陵竜也は一応、授業を聞いてはいるが、頭の中では放課後のクラスメイトに対する説明について考えていた。


「……新聞やテレビなどのニュースで聞いたことはあると思うが、最近、ダンジョン基本法が改正された。これは条約に……鳳凰暦2004年にこの国も批准した国際ダンジョン条約に合わせて、ということになっとる」


 午前中はガイダンスとか、生徒会による学校紹介とか、校内の案内とか、そういう時間だった。


 午後からの5時間目はダンジョン関係基礎の時間で、あの時の理論派な細マッチョの先生が教壇に立ってる。


 佐原、という先生らしい。4組の担任で、1年生の学年での生徒指導の担当……だから昨日の夜、寮監室にいたのか……。


 この時期、新入生の授業は国語とか数学みてぇな普通教科の時間は減らして、毎日、ダンジョン関係基礎みてぇな実業系の教科が入ってる。普通教科もあることはあるんだが、ほとんど進まないみたいだ。


 5月の第1テストは、実業系の教科しかないというのも午前中のガイダンスで説明を受けた。


 まあ、附中ダン科出身には、ある意味では楽勝の内容だろうな。テストの準備もほどほどでいいって部分が、育成を俺たちにさせるって考えとつながってんのかも……。


 その代わり、第1テストが終わったら、今度は第2テストまでの間、普通教科がガンガン詰め込まれるらしい。


 それはともかく……。


「一番大きな改正は、警告に関する部分だ。2年も、3年も、今、もう一度見直しをしとるが、この国だとこれまでの経緯でたくさんの警告があったんだが、これが国際基準に合わせて主に3つとなる。それぞれ、不審な声かけ、犯罪行為、戦闘の優先権に関する警告だ。特に、不審な声かけ、これが重要になる。なぜだか、分かるか?」


 ……昨日の夜、先生たちには口から出任せで、クラスをクランにする、みてーなことを言ったんだが。


 実際のところ、どうすりゃいいんだ? クラスをクランって、まあ、みんなで頑張る的なアレではあるんだが……。


 推薦の連中みたいに、力づくで納得させる、みたいなのは、たぶん、また先生たちからいろいろと言われる気がする。きっちり、説得して、納得してもらわないとダメだ。


「……そこで警告すれば、他の問題を防ぐことができるから、でしょうか?」


「まあ、財前の言う通りだな。そういうことになる。不審な声かけ、つまり、ダンジョンアタッカーが各パーティーごとに、言葉を交わさず、それぞれでアタックすること。ダンジョンアタッカーがパーティー単位、もしくはクラン単位でアタックして、他のダンジョンアタッカーと関わらなかった場合、そうすることでほとんどの問題は発生しない、という考え方が、IDAAでは一般的だ。そうなった経緯の中で、もっとも知られているのが『サンナーザの悲劇』と呼ばれる事件だが、これについては……」


 ……俺とあの子の未来を悲劇にするワケにはいかねぇ。とにかく、放課後、クラスをクランにするって話と、そのメリットをどうにかして、用意しないと。


 正直に言えば、協力し合うってことだけなら、説明したい内容がないこともないが、昼休みにはまだ頭の中でもまとまってなかった。だから、推薦の剛力がいろいろと言い出してくれたのは渡りに船、というところだった。


「あ、それ、聞いたことある」

「なんだ、知ってんのかよ?」

「なんか、いっぱい、アタッカーが死んだやつ」


「……まあ、そういう話ではあるんだが、原因は何か、という点が重要だな。誰か、分かるか?」


 ……クラスをひとつにまとめるってイメージは、それはそれとして、各パーティーに、実際のクランは何やってんだろな?


 武器の貸し出し……は、この学校だと、ギルドでレンタルが可能だし。鎧もブレストレザーを貸してもらえる……。


 アタックサポート? つまりはキャリー……接待戦闘ってことになるのか? いや、育成ってのは基本、そういうことだよな……。


 それにしても……なんで、俺、こんなに自転車操業って言えそうな状態なんだ?


「攻略情報の秘密を守るとか、そういう話だったと思います」


「ふむ。宮本はダンジョンについてもよく勉強しているようだな。その通りだ。あの悲劇は、カメリア連邦のクオルフォルナ州にある、サンナーザという町で起きた。サンナーザには、ゴールドラッシュダンジョンと呼ばれる、金がドロップするダンジョンがあるんだが……」


「すげぇ、金かよ……」

「めちゃくちゃもうかりそーだな……」


「いや、実際、ドロップする金は、本当に小粒のような、下手したら見逃してしまうような小さな金らしい」


「ええ?」

「一気に微妙な話になったな……」


 パーティー分けであの子と組めれば……って思っただけだったのに? なんでか、先生たちにクラスでクランとか言っちまったし……。


「まあ、塵も積もれば山となる、なんて言葉もある。いくつかのクランが、小粒とはいえ、片手で握ったらこぼれ落ちるくらいの量を持ち帰ることがあって、だな」


「……それがどんくらいの値段なんかがさっぱり分かんねぇな?」

「金なんだから、片手にいっぱいなら、何万とかするんじゃねーの?」


「わしも、それがいくらになるかは分からんが、とにかく、そういうクランがあって、そのことに気づいたクオルフォルナ州政府が……正確には州議会の議員が、議会で提案して、という流れはあるようだが、細かい部分はともかく、州の法律でダンジョンアタッカーに攻略情報を明かすように命じた」


「……攻略情報……つまり、金をどうやって手に入れているのかを言わせたってことですか」


 んんん? 今、何かひらめきそうになった気がする……。


「いくつものクランが抵抗したが、まあ、ダンジョンアタッカーへの取り締まりの強化などもあって、最終的にはその攻略情報が州政府の知るところになり、それを公開すればより多くの金が産出されると考えて、クオルフォルナ州はその攻略情報を公開した」


 うん? 攻略情報の、公開? 公開、か。ああ、それなら……。


「なんだ、悲劇ってそういうことか? ダンジョンアタッカーの権利が奪われたって感じ?」

「いや、いっぱい死んだって話がまだ残ってんだろ」


「……結果として、カメリア連邦国内から有力なクランがクオルフォルナ州へと集まり、ゴールドラッシュダンジョンに挑んだ。そして、大量の金が入手できるポイントで……その場所を奪い合うように殺し合った、とされとる。実際、生存者からそういう証言はあったが、ダンジョンでは録音、録画、通信が不可能だからな。本当のところは分からんが、50人近いダンジョンアタッカーが戻らなかったというのは事実だそうだ」


「……今、その、ゴールドラッシュダンジョンって、どうなってるんですか?」


「この事件で、ダンジョンの管理が州政府から連邦政府へと移って、連邦政府の指定を受けたクランだけがアタックできるようになっとるらしい。まあ、カメリア連邦が現在も有力なダンジョンアタッカーが不足していると言われるのは、この事件が原因でもある。攻略情報の秘匿がダンジョンアタッカーの権利として認められたのは、ダンジョンアタッカー同士の争いを防ぐという意図は、ある」


「……カメリアって、いろんな世界ランカーに勧誘かけてるって、ダンジョンアタッカー新報で読んだことがあるけど」

「ええ、そんな国、行きたくないよねぇ……」


 ……攻略情報、ダンジョンアタック、メリット……あ!


「そうか。こうすれば……」


「陵くん……?」

「陵? 何をどうするつもりだ?」


「んあ? なんだ、博、鳴。ちゃんと先生の話、聞いとけよ?」


「……わしも、陵が一番、話を聞いとらんかった気がするが……まあ、いい。そろそろ時間だ。続きは明日だ」


 そう言うと、佐原先生はあっさりと教室から出て行った。


 附中の時と違って、授業の前後に号令とかがないこの感じ、慣れねぇよな……。











人名辞典

宮本虎次郎……みやもと・とらじろう






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