10 鳳凰暦2009年4月9日木曜日昼休み 国立ヨモツ大学附属高等学校・中学校内ダンジョンアタッカーズギルド出張所2階第1ミーティングルーム M



 学食で昼飯を食った連中がミーティングルームに集まってくる。それを見ながら、俺――陵竜也はこの部屋に入って座った人数を確認している。


 もちろん、あの子――宝蔵院麗子が来ているかどうかはチェック済みで、どこに座っているのかも把握している。


 クラス全員、来るとは思うが……まあ、約束の時間になったら始めようか。


 この学校はダンジョンアタッカーを育成するための学校だから、校内にギルドの支所? いや、出張所だったか? まあ、とにかく、ギルドも校内にある。


 ダンジョンアタッカーズギルドは、ダンジョンでモンスターを倒して手に入れた魔石を買い取ってくれるところ、という感じだ。実際にはもっといろいろと役割があるみたいだが、基本となるその部分がわかっていれば問題ない。


 ギルドは魔石貿易……魔石発電と一緒に、エネルギー資源としての魔石を輸出している。

 それまでは可もなく不可もないという感じだったこの国を変えた、魔石による発電技術。最初は産油国との間でのトラブルが多発したらしいが……今は、落ち着いている、らしい。


 ま、高校生の俺たちにゃよく分からん部分もある。


 そのギルドの出張所……の中に、こういうミーティングルームがいくつもあって、申請しておけば生徒も借りられる。教室だと……他のクラスの連中ものぞきにきたりするかもだからな。


 ミーティングルームの中は……まだまだ、クラスメイトとはいえ、ぎこちない感じだ。一応、午前中のガイダンスの最初に自己紹介とかはあったが……。


 ……入学式と、その翌日だけだし、こんなもんか。


 俺たちが附中に入った時はどうだったっけ? と考えてみるが、3年前のことなのに、記憶はあやふやだ。うまく打ち解けたような気もするし、いろいろと時間がかかったような気もする。


 それでも、昨日の、最初に教室で見た感じよりは、出身が違っても話ができてるのは間違いない。男子同士、女子同士で話してるから、これは寮の歓迎会の効果だろう。


 ……普通のパーティー分けでも、先生たちが言うようにガチャガチャとモメたりしないんじゃねぇのか?


 打ち解け始めてるクラスメイトの様子を見ながら、俺はそんなことを思った。


「チキン南蛮ってうまいな」

「いや、二日連続とかねぇだろ、フツー?」

「それそれ」

「他のメニューもうまいけどな」


 ざわざわと騒がしくミーティングルームに入ってきたのは、推薦の男子たちだ。剛力、渡辺、黒石、前田……だったはず。あとのひとりは女子だったから、転科の女子……つまりあの子とかと一緒に行動してた。


 ま、あいつらが最後だから、これで全員、そろったな……。


「それじゃ、改めて、このクラスのパーティー分けについて、説明させてくれ」


 俺がそう言うと、すぐに推薦の剛力が立ち止まって、俺の方を見た。まだ座る前だったから、4人とも立ったままだ。


「その話だけどよ、おれら、推薦で最強パーティーを組むから、そっちはそっちで勝手にしろよ?」


 ……モメたりしないってのは訂正か。確かに、ガチャガチャするかもな。でも、なかなか面白いな、こいつ。


 話の最初、出鼻をくじくってのは、マウントの取り合いなら基本中の基本だ。しかも最強とか、大きく出たな。まあ、それならそれで、こっちとしてはやりやすい。


「いや、無理だろ」

「は? 何言ってんだ、てめぇ?」


「無理だって言ってんだ。どうしても組みたきゃ、第1テストの時にはパーティーを組み直すからそん時にやれ」


「あん? おれらぁはよ? お勉強のできるてめーらとちがって、身体能力で選ばれてんだよ? 首席であいさつまでした『モテおくん』のおめーは自信があるのかもしんねーけどな、おれらぁ、強ぇぞ?」


 まあ、間違ってる訳じゃねぇんだけど……こっちの挑発に乗ってくれるのはありがたい。でも、また『モテおくん』って……なんなんだ?


「なら、この後、実際に模擬戦で確かめたら問題ないな。立たせたままで悪かった。あ、そのへんに座ってくれ」

「ぁあ?」


「あとで相手してやるから。それで負けたら俺のパーティー分けに文句はねぇんだろ?」

「は? どういう意味だよ?」


「最強パーティーだから組みたいんだろ?」

「そーだよ」


「なら、負けたら最強じゃねーだろ。その時点でこっちの話が通るよな?」

「へー、おれに勝てるつもりか?」


 ……推薦首席ってことで、調子、乗ってんなぁ。


「はいはい。いいから座ってくれ。あとでやれば分かることだろ? そんじゃあ、他に……」

「ちっ……」


 舌打ちしながら、ガタンっと大きな音をさせて剛力が座ると、他の3人もその近くに座った。


「……何か、言いたいことがあったら、今、言ってくれ」

「ある」


 短く、鋭く、そう言ったのは赤阪御剣だった。


 ……なんだ、御剣か。昨日、寮の歓迎会ん時に、苦手な鳴が出てきて引き下がったんじゃねーのかよ?


 御剣は立ち上がることもなく、座って足を組んだまま、俺の方をにらんでいる。


「……てめーが決めるってのが気にくわねー」


「そっか。なら、担任に学級代表を頼まれなかった御剣が悪ぃーな。俺のせいじゃない。誰か、他に何かあるか?」


「え、それだけかよ、陵?」


 びっくりした顔で俺の方を見たのは九重当麻――附中のダン科出身だ。表情を見る限り、不平不満があるというよりは、単純に驚いただけだろう。


「いや、他に言うべきことがねぇだろ? 御剣が決めたいんなら、入試で俺に勝って、自分が首席になった上で、担任から学級代表を頼まれること、これしかねぇんだし?」


「まあ、それはそうかも……」


「御剣が言ってるのはただの感情論で、俺が昨日、説明したあのパーティー分けに対して、より公平でより効率的なパーティー分けを提案した訳じゃない。感情論でパーティー決めして、何か、いいことがあると思うか?」


「それは……」


「たぶん、感情論でパーティー分けなんかやったら、声がでかいワガママなヤツが好き勝手に自分のパーティーを決めて、優しくて親切ないいヤツが我慢するだけだぞ?」


「あー……まあ、そうだな……」


「御剣が気にくわないのは俺なんだし、その俺とはパーティーを組まないんだから、むしろ、問題ないんじゃないのか?」


「……確かに」


 九重が俺の話に納得したので、御剣は無視だ、無視。


「まだ、なんか、あるか?」


 御剣がこっちをにらんでるが、全体的には静かになってる。よし、これで終わり……。


 すっと、まっすぐ手を伸ばした女子生徒がいた。


 それは俺とパーティーを組む予定の美人なあの子――宝蔵院麗子だった。


 ……ちょっと待て⁉ なんで⁉ あの子に否定されたら、俺の最高のプランが根本的にダメになるんだが⁉











人名辞典

黒石輪琥……くろいし・りんく

前田優弥……まえだ・ゆうや

九重当麻……ここのえ・とうま






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