8 鳳凰暦2009年4月8日水曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校男子寮寮監室(3) M



 このタイプ……厳ついが、それでいて知的な理論派は、どう戦えばいい……?


「……おまえはダン科がひとりずつで公平だと言っとるが、その結果として、ひとつだけペア……二人組になっとるだろう?」


 ……そこが! 一番! 重要なんだよっ⁉ 俺にとっては⁉ 問題ねぇだろ!


「いや、あれっス。4人組でパーティー分けしたとして、クラスは35人なんだから、結局、3人組が必ず出るじゃないッスか? それと同じで、そこはどうしようもない部分ッス」


「いいか、陵。3人組のトリオはまだしも、2人組のペアはな、数が足りん。外の犬ダンジョンは出てくるモンスターが一組で最大3体までだ。初心者ダンジョンに設定されとるのは、その数が重要になる。ダンジョンのボス部屋に入れるのは4人まで。だからパーティー編成の基本は4人で、一度のエンカウントが最大3体までのダンジョンが初心者ダンジョンになる。これは初心者のダンジョンアタッカーが数的有利で戦うことを前提としとるからだ」


 ……くっ。やっぱり理論的なタイプか。手強い。


「3人組のトリオなら、初心者ダンジョンでのエンカウントは最大でも同数だが、2人組のペアだと数的不利が基本になる。命がけのダンジョンアタックに、数的不利で挑む必要はない。まあ、外のダンジョンは他にもいろいろと問題はあるんだが……陵、おまえのやり方はそういう根本的な部分が間違っとる」


「……いや、世界ランク1位の熊田冬弥は確かソロっスよね? 別にペアでも……」

「世界ランク1位の熊田のような特別な存在の話はしとらん。むしろ、ソロでやっとるのは世界的に見ても熊田ぐらいだろうが」


 ……くそ、かぶせるように潰しにきやがった。それは、確かにその通りなんだが、だから尊敬してるっつーか、うう、くそ、どうする?


「……俺たちがサポートに入って、外部生にいろいろと教えるのって、確か5月のテスト前までッスよね? それならせいぜい2層までで、小鬼ダンなら1層は1体、2層は2体までじゃないですか。別に数的不利じゃないッスよ?」


「いや、陵、おまえは確か、附中のダン科で、久しぶりに3層まで到達したって話だろ? そのおまえが2層までって話をするのはどうなんだ? まさか附中のように先生方がパーティーのサポートに入るなどと勘違いしとりゃせんか? 附属高は附中と違って本当の若年アタッカーなんだが?」


 ……あの子とふたりってのが重要なんだから、先生とかいらねーし。勘違いとかしてねーっての。


 それにしても手強い。何を言っても返される。どうする? この長身理論派タイプを倒さないと俺とあの子のペア生活が⁉


「とにかく、2人組のペアは、3人組のトリオとはそういう部分で大きく違う。附属高は意図的に3人組のトリオが出るように仕組んどるが、ペアは想定しとらん。おまえが考えたパーティー分けは、ペアになるふたりに大きな不利益を与えかねん」


「いや、そのペアんとこは、俺、自分が入るって宣言したんで。問題ないッス」


「……自分から、ペアに入る? 石川先生、本当ですか?」

「あ、はい。確かに、教室ではそう言ってましたね」

「そうですか……」


 細マッチョな先生は俺の担任のカネオくんに確認すると、少し考え込んだ。


 ……お? ちょっと流れが変わったか?


「……陵は自分で選んだから自業自得としても、その相手になる生徒にとってはどうしようもない部分での不利益だ。やはりこのパーティー分けは望ましくはないな」


 ……望ましくは、ない、か。絶対にダメ、よりは……よし、ここだっ! これを切り崩す! 勝負に出るぜ!


「俺、これでも附中の首席で、さっき先生が言われたように、3層進出まで行きました。高1なら間違いなくトップのダンジョンアタッカーっス。その俺が附中で学んだ全てをペアに教えるんスから、不利益とか、ありえません。絶対に、ペアを組む相手には、損はさせない」


「おまえ……」


 俺は持てる目力を全開でぶっこんで、細マッチョ先生を見た。ポジション的にちょっと体が痛い。


「俺はクラスをクランにして、ライバルでありながら協力し合う体制づくりと、自分の持てる力の全てを使って、ペアを最高のダンジョンアタッカーへと引き上げてみせる。なんだかよく分からん先生たちのこだわりで、俺の本気を潰さないでほしいッス」


 俺は、斜め後ろを振り返りつつ見上げて、細マッチョな先生をまっすぐに見つめた。


 しばらく見つめ合っていたら、俺の左後ろにいた逆三角形な体つきのボディビルダーみたいなムっチムチの先生が「くくく……」と笑い出した。


「おもしろいじゃないですか、佐原先生。やらせてみましょうよ。確かに、いろいろと問題はあるかもしれませんが、モテおくんは、モテおくんなりにいろいろと考えて行動してるじゃないですか。こいつの本気がどんな結果につながるのか……やる前からこっちが潰すようなもんじゃない。ただ、ここまで言ったからには……」


 がっしりした手が、ドン、と俺の肩の上に置かれた。重いし、痛い……やっぱ怖い、この人たち。


「……結果を出せなかったら、分かってんだろ? モテおくん?」


 ……だから「モテおくん」って何だよ⁉ あと分かってねえよ! 結果が出なかったら、俺、どうなんの?


 とりあえず、その場はこれで終了した。


 俺がクラスメイトをきっちりと説得することは「調整」ってことで認めてもらえたので、俺とあの子のハッピーペアダンジョンアタックの夢は、先生たちに潰されずに済んだのだった。


 その代わり、俺はクラスをクランにしなきゃいけなくなったんだが……これ、どうすりゃいいんだ……?











人名辞典

佐原先生……さはら





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