8 鳳凰暦2009年4月8日水曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校男子寮寮監室(2) M



 俺が入学式という限られた時間で必死に考え出した、スーパースペシャルあの子とペアを組もうぜ大作戦が、今、否定されているのではなかろうか?


「そのクラなんとかが何かは分からんが、言いたいことがあるなら言え、陵。学校の方針としてはパーティー分けはモメてなんぼ、だ。スッキリきれぇーに分けました、なんてもんは期待してねーからな?」


 俺は腹の力をぐいっと入れて腰を伸ばした。傷のある厳つい顔がマジ怖い。怖すぎて気合がいる。


 この人たちはもう見た目からして怖い。怖いが、だからといって、今の話の流れはよくない。こんな言い分が認められてはならない。


 せっかくあの子とふたりでダンジョンに入るチャンスを掴んだのに、それを手放せるか! 言い返せ、俺! どうにかしてあのパーティー分けを認めさせろ!


 あの子と一緒にいるために! 気合入れろっ! 言いたいことがあるなら言えって言われたしな!


「おう? くらなんとかって何だよ?」


 ……って、あれ? 気合入れてみたんだが、くらなんとか? 何の話だ?


 くら? 今はあの子とのペアを死守しないとダメなのに、くら? え? くらって何? くらなんとか……クラ、ゲ……クラ、ス……クラ、ン……ん⁉ これは!


「……俺は、クラスをクランにしようって、考えただけッスよ……」

「あん? クラスをクラン……? なんだそりゃ?」


 とりあえず口から出任せでいくしかない……。


「世間一般のダンジョンアタッカーは、だいたいクランに入って活動してるじゃないッスか? だから、俺たちのクラスも、なんていうか、クランみたいな活動として考えただけッス。もちろん、卒業したあとの、ダンジョンアタッカーとしての将来を見据えて、ッスよ?」


「将来を見据えて、だと……」


 くら、がなんなのかは分からんが、とりあえず、いい感じのセリフで流したぞ。


 あとは先生たちの言ってることをどうにか切り崩していく……。


「そもそも、先生たちの言ってる、パーティー分けでガチャガチャしろってのは、俺のやり方でもフツーにありますよ? さっきまで、歓迎会の間に何人も文句、言ってきて、俺、めちゃめちゃ説得してたんスよ? ろくにチキン南蛮も食わずにッスよ? スッキリ分けたんじゃなくて、きっちりモメてますからね?」


 ……実際に文句を言ってきたのは工藤だけで、その工藤と似たような考えなのは今んとこ、少数派だけどな! 何人もってのは嘘だ! チキン南蛮も残さず食った!


 そのへんは盛ってもいいだろ。一番大事なのはあの子と俺がペアを組むことなんだからよ!


「俺はやり方を説明して、分からないこととか、不満があるなら言いに来てくれって、そういうスタンスでやってますんで。はっきり言って、モメないどころか、モメまくってます。先生たちの言ってることは的外れッス。寮での歓迎会は男女別ッスから、まだ女子からの不満は聞いてませんが、たぶん、明日、女子の方からもめちゃくちゃ言われますよ。それ、全部、きっちり説得して、このパーティー分けでやってくつもりッス。説得するのは、調整ってヤツですよね? ちがいますか?」


「ほぅ……」


 こめかみに傷のある先生が目を細めた。


 でも、その横のやたらとガタイのいい先生が口を開く。太ってるようにも見えるが、これは筋肉のかたまりっぽいぞ……幕内力士経験者とか……いわゆる動けるデブとかいうタイプか……怖い……。


「クラスをクランにするってのが、よく分からんが……この学校はダンジョンアタッカーと同じように、ランキングを競わせる仕組みがある。クラスメイトとはいえ、そういう意味ではライバルだろう? おまえが言う、クラスをクランにするなんて、無理じゃないのか?」


 ……くっ、さっきのあれはなんとなくかっこいいフレーズだと思っただけの、口から出任せだからな、実際は反論が難しい……だが、ここであきらめたらあの子とのペアがなくなる!


 それだけは! あの子とのペアだけは! 俺は絶対にあきらめねぇ!


「確かに、俺たちはランキングを競い合う関係かもしれませんが、それと同時に、パーティーを組んでダンジョンに入る関係じゃないッスか? ライバルだけど協力し合うってのは、むしろフツーのことだと思うんス。それが4人までのパーティー単位じゃなくて、クラス全体の35人でやっていこうって、俺が考えてることって、それだけのことじゃないッスか? 人数がパーティーよりも多くなるイメージがあるんで戸惑いがあるんスよ、きっと。まあ、だからクランって言葉の方がいいかなーって、そういう感じではあったんスけど……まあ、競い合うってより、互いに刺激し合うというか……高め合う? なんていうか、スポーツとかでも、身近にライバルがいる方が伸びたりするってのと、同じッスね」


「ふむ……ライバルが刺激し合った方が、伸びる、か……」


 よっしゃ、ビンゴ! この動けるデブな感じの人は絶対に体育会系なタイプだと思ったぜ! 体育会系って、ライバルとか、高め合うとか、そうやって成長するの、好きだろ? いくぜ、この方向性で!


「どっちかってーと、今、俺ら、附中のダン科に外部生の育成を任せる形じゃないッスか? それなら、元々顔見知りの俺らが適度に情報交換をしながら、外部生の育成にあたった方がたぶん効率もいいと思うんスよ。それに、ガチャガチャ言ってくるヤツに限って、附中のダン科同士で最初っから組もうって考えてるヤツが多いんスよね。モメてるっつーより、自分だけ得したいっつーか、そういうのがすけて見えるんスよ。それが悪ぃとは言いませんよ? 他のヤツより有利にってのは、誰だって思うことだし。ただ、そうやって楽するよりも、きっちり一人で誰かを育成する方が、ダン科の俺らのためになって、外部生を育成して育てるだけじゃなくて、俺ら、ダン科のメンバーの成長にもつながるっていうか、そのへん、俺もうまくは言えねーんスけど……」


「……ふうん。教うるは学ぶの半ばなり、か。時間をかけずに、ざっくりとパーティー分けを済ませて楽をしようってんじゃなく、実はいろいろと考えてたんだな」


 ……うっし! ガタイのいい先生もクリアできたか?


「だが、一番の問題点は別のところにあると、わしは考えとる……」


 俺の右斜め後ろ、細マッチョタイプの背の高い先生が、腕組みをしながら俺を見下ろしてる。

 前のふたりほどの見た目の怖さはねぇけど……理論的っぽい可能性がある……なんていうか、とにかく目が鋭ぇ……。





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