8 鳳凰暦2009年4月8日水曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校男子寮寮監室(1) M



 俺――陵竜也は、男子寮での歓迎会の終了直後、担任のカネオくんに呼ばれて寮監室へと連れていかれた。そして、今、大人しくパイプ椅子に座っている。


 床に正座、ではないだけマシ、という状況かもしれない。


 俺の周囲には、どう考えてもカタギとは思えないそっち系の人たちだろうと思われる、厳つい先生たちが集まって俺を囲んでいた。ヨモ高の生徒指導部の先生らしい。


 ……正直、怖い。言いたいことがあったとしても怖すぎて言えねぇ。こ、わ、す、ぎ、る!


 俺、なんか、やっちゃいましたか……?


 だけど、本来、教師というものはもっとインテリなイメージなんじゃないのか?


 なんで暴力団まがいの傷もちの厳つい先生とか、縦も横もやたらとガタイがいい先生とか、ボディビルダーみたいなムっキムキの先生とか、切れ味の鋭そうなカミソリタイプの細マッチョで長身の先生とか……もうちょっと優しさ成分はないのかよ?


 まさか担任のあのカネオくんが癒しになるとは……。


「……トップならモテるとか、お前は入学式で何を考えてるんだ?」


 ……別に癒しじゃなかった。カネオくんもなんか怒ってんな?


 だが、そんなこと分かってんのは心が読める担任のカネオくんだけだろ? 今はコワモテ軍団に囲まれてるから何も言えねぇんだがよ……。


「いいか、陵。1年生全員がおまえの宣誓を聞いた」


 今度は細マッチョで背の高い先生が俺を見下ろしながらそう言った。見下ろされるってだけでも威圧感あるんだよな……怖い……。


 ……だけど、そりゃ当たり前だろ、俺が新入生の代表だったんだから。


「あんな宣誓をして、どういうつもりなんだ?」


 ……いやいや、あれ、担任のカネオくんと学年主任の先生に確認してもらった宣誓だったんスけどね? 朝から、学年の職員室で?


 とりあえず怖くて何も言えねぇから、今は心の中だけで反論してる。


「……まあ、入学式については……これからの学校生活で汚名を返上しろ」


 ……あの、時流まで取り入れたバッチリな宣誓で汚名とか、何言ってんだ、この先生は?


「まあ、入学式でやらかしたと思ったら、担任からの呼び出しは反論して無視。今年の首席はずいぶんと突っ走ってんな、オイ?」


 今度は、厳つい顔の先生がずいっと俺の前に出てきた。いや、アナタ、何者ッスか? マジで? ホントに教師なのか?


 ……それにしても、入学式のやらかしとか、何を言われてんのか、よく分からん。分からんが、とにかく怖い。


 そのこめかみのところの傷、どう見てもホンモノっスよね? 学校の先生やってて、そんなとこ、ケガするとか、ある? ねぇだろ、絶対?


「今さら入学式はやり直せん。おまえが仕出かしたことは一生、おまえについて回ると思えよ? んん?」


 もう、どうしようもないくらい威圧的。

 しかもそういう感じの先生4人に囲まれてる。カネオくんも入れたら5人。カネオくん以外がとにかくなんかすんげぇ怖い。

 たぶん、俺の反論とか、求められてない。そもそも怖くてなんも言えねぇ。


「ウチの入学式にゃあ、いろんなとこからお偉いさんが来賓でやってきてるんだ。その人たちのイメージは、この先、変えられんだろうからな……」


 空気とか、雰囲気とか、そういうのがなんかもうヤベぇ……。


 怖い怖い怖い……この人たち絶対に本職は教師じゃねぇだろ……。


 普通にパイプ椅子に座ってんのに、気分は正座で、しかも土下座してる感じがする。


「まあ、入学式はもう終っちまったから、今さらっちゃあ、今さらだ。だが、それでよぉ、モテおくん。おまえ、さ、クラスでもなんか、仕出かしてるんだって?」


 ……このコワモテ軍団の教師らしくない先生方によると、俺は教室でも何かやったらしい。


 怖くて反論できないんだが、何かやったっけ? あと『モテおくん』って何?


 さっきのまでの歓迎会で、俺のパーティー分けに文句を言ってきた工藤相手に、公平論法で論破してた時とは違う。今は口がうまく動きそうにない。


 博とか、鳴とか、味方になってくれるヤツもいねぇし……。博はともかく、鳴が味方んなってくれたのは意外だったが……。


「学級代表だからな、パーティー分けの調整、頼まれただろ?」


 とりあえず俺はこくりとうなずく。やっぱり反論は求められてないはず。これは、お話という名の、ただの説教なんだろう。


「それがおまえ、調整じゃなくて、パーティー決定だったらしいな? どういうことだ?」


 ……あれ? どうだったっけ? 決定?


 いや、決定ではなかったような気がするな? 言いたいことがあったら言え、って俺は伝えたはず。実際、工藤は絡んできたし。


「学級代表ってのは、そこまでの決定権が与えられてるワケじゃないぞ、お?」


 ……だけどなんか、これは? この話の流れ、マズくないか?


「こっちとしちゃあ、もっとパーティー分けはガチャガチャとモメてもらって、将来的にたくましくコミュニケーションとってやっていけそうにないヤツぁ、ダンジョンアタッカーなんぞにしたくねぇの。命かかってんだからな。分かるか? ん?」


 ……ええと、つまり、そこをどうにかしてダンジョンアタッカーを育てるつもりはないってことか? あれ? なんでだ?


「いいかぁ? ダンジョンアタッカーっつうのは、言ってみりゃあ、犯罪者集団だ。もちろん、それを変えるためにこの学校はあるし、ダンジョンアタッカー全員がそうだとは言わん。そうは言わんが、まあ、多くのダンジョンアタッカーはダンジョンでバレねーように犯罪をやってる。そういう、まともとは言えない連中と、いろんな意味でガッツリぶつかっていけるようなヤツじゃねーとダメなんだよ」


 ……つまり、みなさんのようなコワモテ軍団を相手にビビってんじゃねぇって、こと?


 いや、怖いだろ? アンタら、鏡、見たことねぇのかよ? めちゃくちゃ怖いぞ?


「だから、おまえがやろうとしてる、3人組のパーティー分けな、あれ、やめろ」


 ……はい? いや、この人たちが怖くてちょっと……「くらくらしてたん」だが、今、なんつった?


「あん? なんか言ったか? くらくら……何だ?」


 俺とあの子の……宝蔵院麗子のペアを解消しろってことか? いや、そりゃダメだろ……。





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