7 鳳凰暦2009年4月8日水曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校男子寮 M
男子寮の新入生歓迎会に参加した俺――陵竜也は、食堂の利用方法の説明を受けて、1年生みんなでチキン南蛮定食を食べた後、同じクラスの工藤哲也に詰め寄られていた。
「陵、おまえ、なんであんな勝手なパーティー分け、決めてんだよ?」
「あん? 勝手なパーティー分け? 完ぺきなパーティー分けの言い間違いだろ?」
「どこが完ぺきだっての。オレは旭川に一緒に組もうぜって話してたんだよ。おまえのやり方じゃ組めないだろ? なんでおまえが決めてんだよ? マジで!」
……旭川ってのは附中ダン科出身の旭川真白のことだな?
つまり、工藤のヤツは、附中ダン科で組んだ上で、外部生のサポートをするつもりだったってことだ。
何事も先手を打つのは悪くない。先手必勝って言葉があるくらいだ。そういう意味では工藤のやり方は当然だ。
ただ、誘う相手が旭川ってのは微妙だな。1組入りしてるから力が足りないってことはないが、それでも他にもっと戦えそうなメンバーはいるし。
まあ、歓迎会で文句言ってくるヤツを論破していくってのは、こっちの想定内だから、ここはきっちり話し合おうか。
「俺が動いたのは学級代表だからだっての。要するに、工藤は旭川と二人で組んで、それから外部生を誰かふたり、パーティーに入れるつもりだったってことだな?」
「ああ、そうだよ。フツーだろ?」
工藤の後ろにはなんでか赤阪御剣もいる。御剣のヤツはだいたい、俺の意見に反対するからいつものことではある。
ただ、直接、何も言ってこないのは、工藤みたいに誰かと組む約束をしていた訳ではないのかもしれない。
「それがどういう意味か、分かってんのか、工藤?」
「は? どういうことだよ?」
……よし、のってきた。ここで論破しとかねぇと面倒だからな。御剣まで何か言い出す前に終わらせてやる。
「附中ふたりで外部生ふたりってことがどういう状態か、分かってねぇだろ?」
「こっちはちゃんとサポートするつもりで組んでんだ。手ぇ抜こうとか考えてないんだから問題ないだろ」
「クラスは全部で35人なんだぞ?」
「は? だから何だよ?」
「工藤の考え方なら、4人パーティー8組と、3人パーティーひとつだろ?」
「それがフツーだろーが。4クラス全部、35人ずつなんだから」
「9組のパーティーのうち、附中のダン科をふたりにできる数は?」
「ああん? 各クラスに附中のダン科出身は12人いるんだから3組だろ。それがどうした?」
……なるほど。自分の予定で頭が一杯ってところか。附中ふたりで育成にあたる方がどれだけ有利か、見えてないな?
「残りの6組は附中のダン科がひとりずつ、だよな?」
「しょうがないだろ、そういう人数なんだし」
「ひとりで3人の外部生をサポートする6組のパーティーと、ひとりでひとりの外部生をサポートする3組のパーティーができるってことだよな?」
「そ……」
何かを言いかけた工藤が口ごもった。どうやら、気づいたらしい。
「俺は、教室で説明したパーティー分けが、一番公平だろうって考えたんだが、工藤はどう思う? それとも、旭川と組んで、他のパーティーよりも楽がしたいのか?」
「……陵のやり方だと、ペアのところに入った陵が一番楽ってことになるんじゃないのか?」
まあ、この反論は予想してた。
3人組のトリオになるところは、附中ダン科がひとりでふたりの外部生を世話するが、ペアになった俺のところはひとりでひとりを育成すればいいからな。
「北見が教室で言ってたよな? ペアが一番不利だって。それは工藤も分かってんだろ?」
「……」
「俺のアイデアは、誰かが有利で、誰かが不利になるよりも、公平性は高い。それを否定するんなら、きっちりと代案を示せよ。自分はこうしたいってんじゃなくて。全体的に、だ。俺が言った案以上に公平なパーティー分けのアイデアがあるんならな。もちろん、その案で動く時は、俺じゃなくて、工藤が一番不利になるところでやってくれよ? まさか、自分のパーティーだけ決めて、あとは知らねー、みてーな話じゃないよな?」
「もういいだろ、工藤。陵の言ってることの方が、筋が通ってる」
「僕も、陵くんのパーティー分けはアリだと思う」
俺と工藤のやりとりに、後ろから声をかけてきたのは下神納木鳴と財前博だ。
「ふん……」
その時点で、赤阪御剣はこの場から離れていった。御剣はなんでか知らないが、鳴のことが苦手なんだよな。
それにしても……博はともかく、鳴が俺の味方につくとは……。
「工藤も、あの時、陵の漢気を感じなかったか? トリオはまだマシだが、ペアはどう考えたって先につながらないだろう? それを陵は自分から名乗り出たんだぞ?」
「……いや、言いたいことは分かるけど……オレにしてみたら、こっちにもいろいろと考えがあったっていうか……」
……さて、鳴と博が入ってきたし、このへんで手打ちだな。こういう潰し合いは1対1ならともかく、3対1でやることじゃねぇだろ。
言い負かし過ぎて工藤が感情だけで反対派になるのもうまくない。
あの子――宝蔵院麗子とのペアが組めなくなる可能性はいろんな意味で、できるだけ排除しときたい。
「……まあ、工藤の話も分かるから、5月の第1テストで、次のパーティーを組む時は、俺も強引なやり方はしないって。だから、育成期間は協力してくんねーか?」
「……分かった。次は、もっとこっちの要望を通してくれよな」
よし、論破完了。これなら後味も悪くはないだろ、たぶん。
結果としては言い負かされた訳だから、微妙な表情のまま工藤は離れていく。それを見送りながら、俺はちらりと鳴を見る。
「なんだ?」
「いや、鳴が俺の意見に同調すんのは珍しいなって」
「……まあ、今回は、漢気を感じたからな……」
……漢気って? どこに?
「確かに、二宮さんのところに入るつもりだったって言った時は、僕も陵くんを見直したよ」
「まあ、そうだな……陵がまともにリーダーらしいことを言って、漢気を見せるなんて、たぶん初めてだろ」
どうやら、俺が欲望のままにあの子とのペアになることを目指してたって部分が、鳴から見たら漢気ってことらしい……。
漢気って、そういうモンか? なんか違くない? あと、今のは……。
「……いや、待て。鳴、おまえ、ホメてねーだろ?」
「いや、ホメてるぞ? なあ、財前?」
「うーん……」
「どっちなんだ、博?」
「ホメてるだろ、財前?」
「どっちとも言えない気がするけど……」
苦笑いで博はごまかした。さっきと違って、今は俺と鳴のどっちの味方もするつもりはないらしい。
「……教室では、あのあと、北見さんも陵くんのパーティー分けに納得してる感じだったから、女子寮の方は工藤くんみたいなことはないかもね」
「へえ、北見がねぇ……」
おー、マジか……委員長気質の北見はたぶん、公平って部分に影響されるとは思ってたが、これはラッキーかもしれない。あいつが反対に回ったらすんげぇメンドーだし。
まあ、そうなると、あとは、もろもろの外部生か。推薦あたりがなんか言ってきそうではあるな……。
明日の昼休みに使えるように、ミーティングルームの予約でも入れとくか。
人名辞典
工藤哲也……くどう・てつや
赤阪御剣……あかさか・みつるぎ
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