2 鳳凰暦2009年4月8日水曜日 国立ヨモツ大学附属高等学校体育館(1) M
俺――陵竜也が入学したのは国立ヨモツ大学附属高等学校ダンジョン科だ。国立ということは、この日本八百万神聖国が設立した大学の附属学校になる。
ただし、俺は附中のダンジョン科の出身でもある。
それなのでエスカレーター入学とか呼ばれる感じでの入学と思われがちだが、実際には入試も受けている。
ただ、附中のダン科からは不合格にはならない、らしい。噂だとな。そういう意味ではエスカレーター式では、ある。
ヨモ大附属は、他のふたつの附属――雲海のイズモ大学附属と下北のウソリ大学附属――と合わせて三大附属と呼ばれる、ダンジョン科のある高校だ。
まあ、平たく言えば政府がダンジョンアタッカーの状況をなんとか改善しようとして設立した学校である。
平坂、雲海、下北にそれぞれ附属高があるのは、国内の三大ダンジョン群と呼ばれるダンジョン密集地帯だから。シンプルだな、そう考えると。
ダンジョンに挑み、モンスターを倒して魔石を持ち帰る冒険者たちはダンジョンアタッカーと呼ばれている。魔石以外にもいろいろと持ち帰ることはあるが、それはちょっと置いとく。
そんなダンジョンアタッカーは子どもたちのあこがれの職業……という感じではないのが現状だ。ごく一部の憧れ、くらいか。
一応、世界一のダンジョンアタッカーがこの国出身の熊田冬弥という人なので、あこがれてるヤツもいる。俺とか。だが、全体的には……たぶん、不人気な職業だ。
その原因は、ダンジョンでは時間が経過するとそこにあったものが消えてなくなってしまうことと、ダンジョン内での通信や録音、録画などが、なぜかできないことにある。他にもいろいろとできないことはあるんだが、メインはここだ。
……ダンジョンでは録音や録画による記録、そして、物品による証拠が残らない。つまり、ダンジョンとは、犯罪の温床なのだ。とても残念な話ではある。証拠が残らないからやりたい放題ってこと。
だから、ダンジョンに入る者はどこかうしろめたい人物で、ダンジョン内で犯罪行為をしているというように思われがちだった。
実際、犯罪系クランなんて呼ばれるダンジョンアタッカー集団がいるらしい。そう考えると怖いな、マジで。
モンスターを倒して手に入る魔石による発電が可能になってからは、政府とギルドと三大附属の努力で、そういうマイナスな面も少しずつ改善しているらしいが、根強くダンジョンアタッカーを嫌う人たちも多い。
だから、思春期からのしっかりとした教育によって人格を磨き上げて、社会に貢献できるよりよいダンジョンアタッカー集団を形成するための人材を育成する……という、教育というより洗脳なんじゃねーの? みたいな学校が国立の三大附属のダンジョン科なのだ。
……ダンジョンアタッカーになる前に、犯罪とかやらない、きっちりとしたまともな人間になるように躾けとこう、みたいな。
特にヨモツ大学附属は平坂ダンジョン群――国内では最大規模、世界でも三大ダンジョン群と呼ばれるダンジョン密集地帯――にあるので、三大附属の中でダンジョンアタッカー志望者にはもっとも人気があって、募集人数も多い。
ま、それだけじゃなくて。
本来なら成人年齢の20歳からしかなれないダンジョンアタッカーに附属中なら中学生から、附属高なら高校生からなれるし、なんなら卒業後は18歳なのにダンジョンアタッカーとして活動できる。
そういう、スタートダッシュができるっていうのが、ダンジョンアタッカー志望者にとっては魅力的だと言える。厳密には、附中ではそこまでダンジョンには入れないんだが……。
……まあ、そう。スタートダッシュ。これ、大事。
いきなりガンガンいきたいところなんだけど、附中出身者は外部生のサポートを5月の第一テストまではやらないといけないって、先輩たちが言ってたな。
……待てよ? サポート、だと? そうすると……。
『新入生代表宣誓。新入生代表 陵、竜也』
「……はい!」
……おっと。ほんのちょっとだけうっかりしてた。俺、新入生代表だった。首席入学で。へへ、今年の新入生のトップは実は俺だ。一瞬、返事が遅れたが、まあ、バレてないだろ。
俺は立ち上がって3歩前に進み、90度、左に向きを変えて体育館の前方、中央を目指す。
……外部生のサポートってことは、俺があの子のサポートをすれば仲良くなれるんじゃ……いや。それ、どうやって? そのためにはまず話しかけないとダメだな?
……初対面なのにいきなり話しかけるとか、ハードル高くねぇか?
どうする? どうすればあの子と組んであの子のサポートができる?
そういや、俺、あの担任から学級代表も頼むって言われたよな? ちっちぇけど権力は権力だし、それ、使うか?
中央で止まって、一度、前を向く。壇上へ上がる階段の真ん前だ。そこで制止してから、また左を向いて、そこで一礼。
……中央で止まって……中央で……中央? うん? 今、何か思いつきそうな気が……。
再び正面を向いて制止。今度は右を向いて、そこで一礼。
……いや。学級代表とかで権力者ぶったら、附中ダン科出身の他のヤツらに突っ込まれまくって、立場がなくなる可能性もあるな?
あいつらをある程度、納得させられる内容でないと。それに理由もなくあの子と一緒ってのも、さすがにマズいだろ……あれ? 割と難しいな、それ?
三度、正面を向いて制止。そこから進み、階段を上って壇上に立ち、そこで制止して一礼。演台には校長が立ってる。
俺らが中3の時から、この校長だ。
その前はもっとよぼよぼのおじいちゃんみたいな校長だった。
ちなみに、大学の附属高だけあって、校長は大学教授でもあるらしい。なんかすげぇ。あと、あんまり学校にいない。週に2回? くらいか?
……マジで何か、いい方法はないのか?
あいつらをまとめて納得させつつ、俺がうまいことあの子とパーティーを組む方法。そんな最高に都合がいい、ご機嫌な方法。
とにかく、同じパーティーになっちまえば、そのまま普通に話せるだろ? そしたらいずれは……。
演台の前に進み出ると校長がマイクの向きを変えてくれた。
え? 校長なのにこんな雑用のためにそこに立ってんのか? マジで?
……まあ、話すようになればイケる可能性は高い。それに同じパーティーならダンジョンで一緒に行動できる。絶対に仲良くなれる……はず。たぶん。
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