RDW+RTA-H&M ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック マイナス エイチ アンド エム~
1 プロローグ 鳳凰暦2009年4月8日水曜日入学式直前 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組 M
RDW+RTA-H&M ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック マイナス エイチ アンド エム~
相生蒼尉
第1章
1 プロローグ 鳳凰暦2009年4月8日水曜日入学式直前 国立ヨモツ大学附属高等学校1年1組 M
学年職員室での必要な作業を終えて、担任と一緒に教室へとやってきた。教室に入ってすぐ、俺――陵竜也は軽く周囲を見回した。
中学の頃から知っている顔もあれば、知らない顔もある。さっきまでは代表としての役割で忙しかったから、座席表を確認する時間もなかったんだが、そうか、あいつらも1組か。なかなか面白そうなクラスだ。
そう。これから俺の新しい生活が、高校生活が始ま……る……って……。
ドクン、と。
自分の心臓の音が聞こえた。
一瞬で周囲がぼやけて、視界がしぼられていく、この感覚は……。
ダンジョンでの戦闘中にたまにある、究極の集中状態のアレとよく、似、た……。
その時。
確かに距離は離れているはずなのに、目の前に俺の好みのど真ん中の女子が見えた。
教室の後ろの方の……おそらく附中普通科からの転科組の一番後ろの席で、ひとつ前の席の女子と何かを話してる……あの子……マジか……「……なんだあの美女は……え? あれで同級生なのか……? 大人っぽいな……」
「ん? 何か言ったか、陵? 女の子に見惚れてるのか?」
担任の石川先生が俺を振り返ってそう言った。
「は? いえ、なんでもないです」
うお? この担任、まさか心を読めるスキルでもあんのかよ⁉ マジか⁉
「そうか? なら、一度、自分の席に座ってくれ。一応、全体に説明してから、すぐに入学式だからな」
「あ、ウス」
俺は慌てて教室の中央、最前列の右側の席に座る。その瞬間も、教室最後方の美女にちらりと視線を向け……あ! 今、目が合ったかも⁉
うおっ、マジで美人だな……やばい……マジで俺の好みのタイプなんですけど……。
くっ……あの子から目を反らして、今から前を向いて「担任の顔とか、見ないといけないなんて……苦行か……」
「いや、失礼だな、おまえ……」
「はい?」
やべっ! また、心を読まれてる⁉
この石川って担任、どんなスキル持ちなんだ……? それともそういうジョブがあるのか……? やべえな……。
……さすがは政府やギルドの後押しで創設されたヨモ大の附属高か。附属中の先生とは一味違うのかもしんねーな。それにしても、どのダンジョンに入ったら手に入るんだ、そんなスキル?
「よーし。これで全員そろってるな。待たせてすまなかった。私は担任の石川だ。石川金雄という。これから君たち1組の担任として、1年間、関わっていくことになる。とりあえず、この後はすぐに入学式があるので……」
俺はいろいろと話し始めた担任の説明を聞き流しつつ、教室の後ろの美女の顔を思い浮かべた。さっき見たばかりだから当然、記憶も新しい。はっきりと思い出せる。このまま脳に刻み込みたい。
……うん。マジで、やばいくらいに好みのど真ん中だな。美人過ぎてちょっとキツそーな感じがするところもベストだ。ちょっと冷たい感じに見つめられたい。
くっ。なんで俺は新入生代表になんかなっちまった? そのせいで座席表とか見てねぇから、あの子の名前が分からん⁉ どうしてくれる⁉
いや。慌てるな、陵竜也。落ち着け。
名前は廊下に出たら座席表があるはずだ。それで判明する。今は、あの子の、さっきの笑顔を脳に焼き付けろ。
あの笑顔……最高じゃないか……なんという美人……クラスメイトになれただけでもなんという幸運……いや……。
「では、これからアタッカーを目指してダンジョンに挑む君たちをしっかりサポートしていくと約束しよう。じゃあ、説明した通り、廊下に並んでくれ」
「……むしろ、その先が問題だろ? どうやったら……」
……仲良くなれる? クラスメイトで終わっていいのか? 好みのど真ん中だぞ?
だが、どうすればいい? 初対面の相手に話しかけるのって、あれ? どうすればいいんだっけ?
「み、陵くん?」
「おい、陵……」
「いや、ホント、失礼だな、今年の首席は……」
あの子と仲良くなる方法……あの子と仲良くなる方法……はっ! こ、告白……? いや……。
「それはさすがに早すぎるか……?」
「陵くん?」
「大丈夫か、陵? 何が早すぎるんだ?」
いくらなんでも名前も知らないのに告白とか無理だろ? 無謀すぎる。どうにか親しくなるところから始めないと……だが、いつかは告白して……。
バっシンっっ! って、いてぇっ!
そんな感じで妄想中の俺の短髪カリアゲな後頭部をバシンっとシバキ倒したのは――。
「こらっ! 陵っ! アンタ、ぼーっとしてないでとっとと廊下に出なさーいっ!」
――北見愛良だった。
北見愛良は同じヨモ大附属中ダンジョン科出身の女子生徒だ。一部男子の間では『男心死』の異名を持つ。『男殺し』ではなく『男心死』、おとこ・こころ・し、である。
ショートカットで理知的な感じは委員長向きではあるが、口は悪い。見た目はいいのに口は悪い。繰り返しておく。みんな、気を付けろよ?
中2の思春期に入ったくらいの頃のことだ。
この女、告白してきた男子に対して、その欠点を7つ、ひとつひとつ丁寧に指折り数えて説明した上で告白のお断わりを伝え、その男子の心をバッキバキに折ってゴミクズのように振ったという伝説を持つ女。
男をただ殺すんじゃねぇんだ……男の心を殺すんだ、この北見ってヤツは……。
見た目に騙されて近寄るな、こいつは危険だぜ……。もちろん、ヒロイン向きではないのでキャラは立ってても脇役に違いない。
俺は背後に立つ北見を振り返りつつ、もう一度だけあの彼女を盗み見……い、いねぇ⁉ 消えちまった⁉ まさか、幻だったのか……?
そ、そんなはずは……ないと誰か……言ってくれ……。
「アンタ、列の先頭でしょ? 早くしなさいよ? もうだいぶ出てったんだから」
「……おう、北見。相変わらず元気だな」
「は?」
目を細めた北見のにらみがきっついな⁉ 俺は今、傷心中なのに……。
「いいから廊下に出ろ。そんでとっとと並べ。アンタが並ばないと入場が始まんないんだから」
「あ、入学式か……」
「んん? とぼけてんの? アンタ、代表やるんだよね? バカなの? 首席のクセに?」
「ああ、そーだった」
俺はポケットの中の新入生代表宣誓を確認する。よし、ちゃんと入ってる。これのせいで朝から学年職員室に行って……。
手順は朝から説明を受けたし、宣誓自体は書いてあるのを見て読み上げるんだからミスとかは有り得ない。そもそも暗記もできてる。
だから、そんなことよりもあの子のことを……。
「アンタ、一人だけ一般の子よりも前で先頭なんだから、しっかりやんなさいよ?」
「おぅ……って、いてっ。おい、蹴るな!」
俺は北見に蹴られながら廊下に出て列の先頭に加わりつつ、ちらりと振り返ってあの子の姿を探した。
……あ、いた。良かった。幻じゃなかった。しかも、やっぱり、おぅ、すっげぇ好みの美人で……あ、あの子、背が高いな。うん。
俺とあんま変わらん感じか……伸びねーかな、俺の身長……せめてあの子とバランス良く釣り合うくらいに……。
こりゃもう寮の牛乳、買い占めるしかねーんだけど、今は金が……もうギルドで使っちまったし……母ちゃん、すまん。
無理言って多めに突っ込んでもらったのに……許してくれ……どうにか頼むぜ、俺の成長期……。
くっ。なんで俺は列の先頭なんだ⁉ あの子が後ろだと見えねーじゃねーか⁉ くそ、首席なんて何の役にも立たねーな……。
はっ! いや、待てよ? これ、入学式が終わったら前後が入れ替わって退場するんだよな? その時はあの子の後ろ姿を見放題か……。
俺はそんなことを考えながら、入学式が行われる体育館へと足を動かしていた。
人名辞典
陵竜也……みささぎ・たつや
石川金雄……いしかわ・かねお
北見愛良……きたみ・あいら
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