『私』には三分以内にやらなければいけないことがある

日夜 棲家

アニメの世界

 『私』には三分以内にやらなければならないことがあった。

 それは、この状況からの脱却だ。

 事態は一刻を争う。

 何せ、生死がかかっているのだから。



 『私』は転生していた。

 転生する前の『私』は、ほとんどベッドの上で過ごしていた。

 アニメを見るのが唯一の楽しみだった。

 だから、気づいた。

 『私』が見ていたアニメの敵キャラに転生しているということを。



 目の前には一人の少年と一人の少女。

 アニメの主人公とヒロインだ。

 二人ともボロボロだった。

 彼らをボロボロにしたのは、今『私』の魂が入っているこの敵キャラである。

 その時はまだ、『私』は転生していることに気づいていなかったが。


 あのアニメの通りに進むとしたら、『私』は彼らの反撃に遭って目を潰され、死ぬことになる。

 それだけは避けたい。

 別にこのキャラに思い入れはないのだが、一度死んでいる身だ。

 生きたい。


 しかし、転生していると気づいた時点が最悪だった。

 この敵キャラが主人公たちを散々痛めつけたあとなのだ。

 「少し猶予をやる」みたいなことを既に言ってしまっていた。

 それが三分。

 三分後、彼らは彼らにしか使えない魔法の言葉を唱えて『私』の目を潰す選択をする。

 そうなってしまったら、『私』はもう助からない。


 どうする?

 命乞いをするか?

 いや、この敵キャラは彼らをゴミのように扱っていたのだ。

 許されるとは思えない。


 では、やられる前にやるか?

 いや、何物騒な発想になっているのだ、『私』は。

 心までこの敵キャラになってどうする。

 やるのはない。


 ならば取れる選択肢は一つ。



――逃げる、だ。



 『私』は踵を返そうとした。

 しかし、主人公の少年とヒロインの少女が手を繋ぎ、息を吸っているのが視界の端に移って。

 『私』は動けなくなった。


 待て。

 それはこの敵キャラのセリフのあとに行うはずだ。

 それなのになぜ?

 考えている間に唱えられた。



 魔法が発動し、一瞬にして目の前が真っ白に染まった。

 直後、すごい音が鳴り響いて。


 恐ろしいほどの浮遊感を覚えたあと、『私』の意識は途切れてしまった――。

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『私』には三分以内にやらなければいけないことがある 日夜 棲家 @Hiyo-Sumika

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