【アレンジ童話】太陽と北風と雲

にっこりみかん

イソップ物語『北風と太陽』より

 今日もボクは真っ青な空にぼんやりと浮かんでる。


 “雲”って人間たちはボクのことを呼んでいるよう。


 一見、悩み無さそうにしているボクだけど、結構、悩みが多いの。


 今もすごく悩んでる。


 この前、太陽さんと北風さんの戦いを見た後から悩んでるの。


 ボクはなんでこんななんだろう、って。


 太陽さんと北風さんは、どちらが人間が着ている上着を早く脱がすことができるかということで勝負してた。


 勝負は太陽さんの勝ち。


 ギラギラと人間を照らし気温を上げ、暑くなった人間は自分から上着を脱いじゃったんだ。


 さすが太陽さんはやることが大きい。


 しかし負けたとは言え、北風さんもスゴイ!


 だって、人間を縮み上がらせるほどの冷たい風を、あんなに強く起こすことができるのだから、ホント、スゴイ。


 それに引き換え、ボクなんてこうやって青空のもと、のんびりただ漂っているだけだ。


 太陽さんと北風さんのように特別優れたものをもってない、なんて退屈なやつなんだろう、って思っちゃう。


 そうしていると、ひとりでに涙が溜まってきて、悲しくなって泣いちゃうんだ。


 泣いていると涙が地上に落ちて「天気が悪くなった!」とか「洗濯ものが乾かない」とか、人間たちから文句を言われる。


 慌てて通り過ぎ、ボクのあとに太陽さんが顔をだすと、人間たちはみんな笑顔になって喜んでいる。


 そんな人間たちをみてると、ボクを嫌ってるんだな、って分かっちゃう……。


 また涙が溜まってきちゃったよ。


 いけない、泣いたらダメだ。


 ガマン、ガマン。


 最近そう思って、涙を流すのを我慢してる。


 ボクが泣いたら、また人間たちが怒っちゃう、悲しんじゃう。


 ガマン、ガマン。


 でも、泣くのを我慢していると、どんどん涙が膨れ上がって、だんだん耐えられなくなっちゃう。


 だから、怒られてもしかたないと思って泣いちゃうんだ。


 でも今回は我慢してやる、泣くことを我慢することで、違った自分を発見してやるんだ。


 ボクも太陽さんや北風さんのような特別な存在になりたい。


 ただね、我慢してるから、涙が溜まってどんどん体が大きくなって来ちゃってる。


 体が重くて耐えられない。


 我慢しようと思っても、涙が今にも溢れそうだ。


 ガマン、ガマン。


 でも、もーぅ限界だ、どうしても涙がこぼれちゃう。


 まったく、ボクって、どこまで情けないんだ!


 つくづく、自分が嫌になってくるよ!


「泣きたければ、泣くといいよ」


 えっ?


 あ、太陽さんが笑顔でこっちを見てる。


 太陽さん、そんな気休めはいいよ。


「そうだ、そうだ、泣け泣け」


 あ、今度は北風さんだ。


 なんでみんなそんなにボクを泣かせたいんだ!


「ホラ、あっちまで飛ばしてやるから、うんと泣け」


 って北風さんは言ったとたん、ボクに物凄い風を吹きかけてきた。


 ボクは、物凄い勢いで飛ばされちゃった。


 今まで体験したことないような物凄い速さで飛んでいく。


 どこに向かっているの?


 怖い、怖い、早く止めて。


 物凄い速さで、そうとう遠くまで飛んだ。


 ───徐々にスピードが弱まって来た。


 そして、周りを見た。


 どこ、ここ?


 まるで知らないところまで、飛ばされちゃった。


 全然知らない場所。


 あっちもこっちも知らない景色。


 ───心細い…。


 どうして、ボクばっかりこんな目に合わなければならないの?


 悲しい。


 ずっと泣くのを我慢してきた。


 でも、その我慢も限界。


 でも、泣いたらダメ。


 人間たちが悲しむから。


 人間たちの悲しい顔を、もう見たくない。


 ボクが我慢すれば済むこと。


 そう、ボクが我慢すればいい。


 我慢すれば、それでみんなが笑顔になれるから……、


 ガマン、ガマン


『泣きたければ、泣くといいよ』


 必死に涙をこらえていたのに、なんで太陽さんの言葉を思いだすんだ。


『泣きたければ、泣くといいよ』


 ダメだ、ガマンしよう。


 ガマン、ガマン。


 ───あ、

  

 ひとりでに涙が一粒、落ちた。


 あ、二粒目も。


 もう、もう、止まらないよ〜、


 次から、次に、涙が出てくる。


 ボクは泣いて泣いて、泣き続けた。


 我慢していた分、大量の涙が次から次へと流れてきた。


 もう止まらない。


 頭に、人間たちの顔が浮かんだ。


 怒ってる人、悲しんでる人、うなだれている人……


 頭の中には、そんな人間の顔ばかりが浮かんでた。


 ボクはおっかなびっくり地上を見た。


 人間たちが、ボクの方を見てる。


 きっと怒ってるぞ。


 ───ん?


 でも、地上の人間たちの表情は想像と違ってた。


 笑ってる人がいる?


 見間違い?


 手を上げて、喜んで踊っている人もいる!


 えっ、なに?


 なにが起こっているの?


 ボクに向かって、手を合わせて何度も頭を下げている人もいる。


 なに? これはいったい?


「人間はアナタに感謝しているのですよ」


 と、太陽さんが声をかけてくれた。


「ここの地区に雲さんが来ないもんだから、ここに住む人間は水が無くて困っていたんです」


「そうだぞ」


 と、今度は北風さんが声をかけてくれる。


「人間は、お前が降らす涙が無いと生きていけないんだ、だから、お前は泣かなくちゃダメなんだ」


 ボクは泣かなくちゃダメ?


「そうですよ」


 と太陽さん「これは、あなたにしかできないことなのです」


 えっ、ボクにだけ?


「そうだ、だからこれからもオレが飛ばしてやる、飛ばされたところで好きなだけ泣け」


 え、北風さん、好きなだけ泣いていいの?


 すると太陽さんが


「あなたの涙は、人間にとって恵の涙なのです」


 ボクの涙が、恵の涙?


「そうです」


 ボクの涙には、そんな力があったの?


 太陽さんは続けて、


「但し溜めてはダメ、一気に涙を流したら人間は大変困ってしまいます。泣きたくなったら、素直に泣いて、すぐに気分を変えること、それが大事ですよ」


 そうか、そうなのか。


 ありがとう、ボクはなんだか、自分のことが少し分かったような気がするよ。


 散々、泣いて、ボクはスッキリとした感じがした。


 ボクが泣きやみ、変わりに太陽さんが現れると、人間たちは歩き出したり仕事を始めたりしていた。


 ボクの涙は人間の恵み。


 これからは泣きたくなったら、溜めこまずすぐに泣こう。


 そして泣きたくなったら北風さんに頼んで、困っている場所に飛ばしてもらおう。


 それまで、静かに浮かんでいよう。


 青空のもとで、のんびりと。




 おしまい

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