第19話 消えたファイル
夕方、都内ビル前の駐車場、複数のワゴン車が車を走らせ停車しすると、スーツを羽織った組員達が慌ただしくワゴン車から降りだしてきた、車のドアが閉まる音、革靴でアスファルトを踏む音など、さっきまで静かであった静寂がなくなり、周りが騒がしくなるなか、組員達の中に斎藤が居合わせていた、「会長、こちらです。」 織田会の幹部補佐である瀬戸内が先頭で止まるワゴン車の後部座席から降りてくると、瀬戸内の後から会長である織田が車から降りてきた、織田はサングラスを掛け、異様な雰囲気を放ちながら案内する瀬戸内の後へと着いていった、それに続き組員達もぞろぞろと後へと続いた。
「ジュー……!」 ビル内に店舗を構える焼き肉店で織田会の組員皆は食事を楽しんでいた、目の前の鉄板で和牛ステーキが焼かれるのを待つ斎藤は、片手にワインを持ちながら、ふと、組員達とは距離の離れた個室で食事をする織田の様子が気になり、微かに視線を向けた、その時、「フッ~、」斎藤の隣の席へ山部が腰掛けてきた、「頭、どうやら瀬戸内の奴、あの様子だとまた政府に探りを入れるみたいですね、」 「山部…そろそろ瀬戸内も始末して起きたくなってきた、」斎藤は視線をステーキに向けながらそう呟くと、持っていたワインを口にした、「失礼します。」 すると個室の席から部下の一人が頭を下げて出てくると、まっすぐ斎藤のもとへと駆け寄ってきた、「頭、織田会長がお呼びです、」そう話すと、斎藤は席から立ち上がり、スーツを一度整え直すと、足早に個室へと向かった、「コンコン、失礼します。」
斎藤は個室へと入ると、中には織田ともう一人瀬戸内が居合わせていた、「おぅ、まぁ座れ…」
張り詰めた空気の中、斎藤は冷静な様子で空いている席へと座り込んだ、「斎藤…、俺達が指揮している店が襲撃された、襲ったのは関西の人間だと聞いている、」 サングラス越しから重い口調で織田は睨みを効かせてくる、「取り引きの現場にはお前の他に瀬戸内を動向させる事にした、お前が利用しているスパイが裏切る可能性が出てきたからな、」 その織田からの発言に斎藤はふと隣に座る瀬戸内の顔を見た、瀬戸内は眼鏡を片手で抑えながらニヤリと笑みが溢れた表情をしている、「会長、ご心配ありません。目的は悪までも横流しされた資金の居所、幹部の殺害です、使い捨てれば処分するだけ、瀬戸内の手は必要ありません、」斎藤は織田の目を見つめながらそう応え微笑んだ、「警察からの匿名があった、お前が関西の奴らと繋がってるとな」 それまで口を閉じていた瀬戸内が眼鏡を片手で抑えながら突然そう話しかけてきた、「どういう風の吹きまわしだ瀬戸内、」斎藤は食ってかかる瀬戸内の様子に言葉で圧をかけた、すると、「バン!、」
会長の織田が痺れをきたしたかのように、テーブルを強く叩きつけた、「斎藤、、瀬戸内を同行させろ。これは組の決定事項だ、」 織田はそう発言すると、斎藤は仕方なく静かに応じるように、頭を下げた、その時、「ブー、ブー、」 スーツの懐に入れていた携帯から何者からかの着信が送られてきた。
深夜の11時、警察署に一人まだ残っていた三上は、これまでの捜査資料が一斉に保管されている、保管庫に足を運んでいた、「コツ、コツ、コツ、」革靴の足音が響き渡る静かな倉庫内を歩きながら、三上は戸熊一家殺害事件の捜査資料が保管された棚の前へと辿り着くと、すぐさまポケットに持っていた、懐中電灯を取り出し光を照らすと、薄暗いファイルが並べられた場所から、一つの分厚い捜査ファイルが三上の目に止まった、その時、こちらから何者かが三上に向けて、ライトを照らしてきた、思わず三上は驚きながらライトが向けられた方へと振り向いた、「三上…三上か?」ライトとの明かりを消して、話しかけてきた人物は、芝原署の警視である萩原であった、「警視、!」 「夜分に署の保管庫にいるなんて、何か探しているのか?三上、」 刑事課に所属していた萩原は、加木と入れ替りで、上層部へと昇進した、三上の元上司であった、「お久しぶりです。萩原警視、」 「お前にそう呼ばれるのは、違和感があるな、フッ、」萩原は小さく笑みを浮かべながら、ゆっくりと三上の方へと歩いてきた、「実は鑑識から押収された証拠物の…」 「加木の捜査資料だろ、」萩原は三上の話を突如割ってそう話した、「加木も可哀想に…もうじき息子が高校卒業する手前だったのに、あんなことになってしまった、」三上は萩原の言葉に耳を傾けながら、萩原が手を差し出す捜査ファイルが置かれた棚に懐中電灯でライトを照らした、「私は、加木さんがどうして亡くなってしまったのか、事件の真相を知りたいんです。萩原警視は、どう思っているんですか?」 しかし、三上の問いかけに萩原はしっかりと応えなかった、だが、「見つけたぞ、加木の行方が見つからなくなる前に、デスクに閉まっていた捜査ファイルだ、」萩原は棚から三上が探していたファイルを手渡してきたのだ、「ありがとうございます、」三上はすぐさま受け取ると、その場でファイルを開き、殺害現場に落ちていたクロスペンダントの指紋鑑定が記されたページを捲り回った、「ペラ、ペラ、ペラ、」 三上は必死に目を向け探し続けた、「ペラ、ペラ、ペラ、」 ページを見渡したあとに三上は気がついた、肝心の指紋鑑定の結果が記されたページだげがファイルから抜かれていたのだ、「待ってください、萩原警視!」ふとファイルから目を離し顔を上げると、その場には萩原の姿は消えていた。
「ガチャン!」ビルの非常階段に繋がるドアを開くと、斎藤はスーツの懐に入れていた煙草を取り出した、「ライター持ってるか?、安藤さんよ、」斎藤が声をかけた先には、上の非常階段に腰掛ける安藤の姿があった、安藤は斎藤が立つ場所へと降りてくると、落ち着きのない様子でライターを斎藤へ差し出してきた、「電話をかけてきたのは何の用ですか?」 斎藤は煙草に火をつけ吸い始めると、安藤にそう問いかけた、すると安藤は険しい表情を浮かべながら応えた、「面倒な事が起きた…、同じ刑事課の人間がもしかしたら嗅ぎ付けたかもしれない」 安藤から放たれたその話しに斎藤は口から煙草を離した、「ほぉ、」 「やはり加木警部、チッ、あんな形で処分さえしなければ!」 「落ち着け、安藤さん。取り敢えずその刑事の名前は誰だ?」
ふと斎藤は雰囲気が一変し、異様な鋭い目付きで
安藤の顔を見つめながらそう問いかけた、突如として空気が変わり、安藤は応える前に一度息を呑むと、斎藤へ話した、「三上と言う刑事だ、」すると、名前を聞いた斎藤はすぐさまその場から、スーツの懐に入れている携帯を取り出し、山部に連絡をかけ始めた、「待て斎藤!、不審な死が続けば、身動きが取れにくくなる、三上は用心深い奴だ、一つ俺に提案がある…」 焦る安藤の声に斎藤は耳を傾けると、ゆっくり山部の連絡を切り、携帯を耳から離した、「提案とは何だ?」。
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