幕間・0

「お母さんが、一緒にケータイを送ってもらったのを覚えてる?」

「うん。ちゃんと先生は言うとおりにしたんでしょ?」


 入院中のベッドでルナはそんなことを言いだした。

 自分のことを、母に重ね合わせたのかもしれない。

 確かに、朝日さんは先生にケータイを壊してくれと頼んだ。そして、先生も朝日さんのケータイに大きく傷をつけ、水の中に沈めて破壊した。彼女が連れて行けるように。


「でも、そのあとも電話はかからなかった」

「朝日さんの言ってた通り、基地局が無いのかも、それとも充電器かな」

「私が充電器を持っていけばいいのかな」

「なんてことを言うんだよ!」


 僕は思わず、病院なのを忘れて大きな声を出してしまう。

 病室のドアがノックされ、大声を看護師さんに注意される。


「……ごめんね」

 応対した僕に、彼女は言った。


「いいよ。でも、そんなことは言わないでほしいな」

「うん。でもさ、本当に持っていけるなら、大切なものを持っていきたいよね」

「……僕とか?」

 今度は彼女が僕を睨む。


「そんなことも絶対に言わないで……」

「ごめん」


 僕は結局、彼女の大切なものを聞くことができなかった。

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