第18話 終わらせない事を選んだのは
「戻ったか………そなた達にばかり負担を強いて本当にすまない。だが、他の道などなかったのだ………」
うなだれている炎皇。俺はそれがどうしようもなくムカついた。
自分には何もできないから………と、人を都合良く使い、世界と天秤にかけた上でミユを犠牲にする事を容認した。
「黙れよ………これ以上くだらない言い訳を聞かされたら、俺は怒りを抑えられる自信がない。すぐに出国する………止めるな」
まだ酔っ払ってぐったりしているアインに肩を貸して、半ば強引に歩かせながらリゼルとアリアを連れて城を出た。
その後、アインを馬車の荷台に降ろす。
「クロードさん、何故あんな風に人と衝突するような生き方しかできないんですか?私だってミユさんを犠牲にするのは反対ですけど、炎皇は立場上ああ言うしかなかったんです」
「もし仮に炎皇陛下を殺してしまったとして、その後どうするつもりだったんですか?相手の立場を考えずにエゴを押し付けるばかり………それでは敵を増やすだけですよ…………??」
リゼルの言葉が耳に痛い。わかってるよ……………そんなのわかってるけどよ………
「自分でも間違ってる事は理解してるさ…………だけど俺には戦う事と殺す事、奪う事しか能がない…………結局俺は暴力でしか何かを成し遂げる事ができないんだ…………!!!」
「俺はお前らとは違う…………!!!リゼルとアインはいいよなァ!!!生まれついての特徴だけで理不尽に差別されたり冷遇される事なんてねェんだからよ!!!お前らに何がわかる…………!!!俺は黒勇者だ…………!!!最初から勇者になんて相応しくないんだよ!!!!」
長年の恨みや妬みがとめどなく溢れてくる。リゼルに対して一方的に八つ当たりしているだけである事は理解していたが、この醜い感情はもはや歯止めが効かなかった。
「……………」
リゼルがうつむいたまま俺に背を向けて走り去っていく。その頬に涙が浮かんでいるのが見えた気がした。
これは、間違いなくやらかしたな。
もしかしたらこれでパーティ解散とかもあり得るけど、まず確実にやらなきゃいけない事として、明日にでも謝りにいかないとなァ…………
「黒勇者って、蔑称だったんだね。そう考えると、出会った時のボクは随分無神経だったね…………ごめん」
「なんだ…………いたのかミユ」
民家の陰から、音もなく出てくるミユ。お前は暗殺者か?
「ボクも呪詛喰らいだから差別とか迫害には慣れてる。今まで生きる為に殺しとか盗みとかなんでもやってきた」
「育ての親のザイードさんに拾われてなかったらたぶんどこかで野垂れ死にしてただろうし、今のボクはなかったはずだよ。ボク達案外お似合いかもね?」
「だけどクロードは自分だけでなく誰かの為に、理不尽に対して怒る事ができる優しい人だからボクとは違う」
「本当のボクは自分も他人も大嫌いで、どこで誰が死んでも気にしないようなヒトデナシなんだよ?あ、クロード達は例外。少なくともボクを仲間だと思ってくれるからね」
「それでも……………俺はミユの事が…………!!!」
唐突に、ミユに唇を塞がれた。
「知ってる♪」
ミユは小悪魔的な笑みを浮かべて笑顔でそう言ってのける。
「明日、ちゃんとリゼルに謝りに行きなよ…………??」
そう言って、ミユは去っていく。その時、バケツに入った水をひっくり返したような音が聞こえた。
「アイン、お前か…………」
「ちょっと、酔い覚ましにね」
アインは再び頭から水を浴びる。
「ふう……………スッキリした。ところでクロード、君、リゼルを泣かせただろう……………???」
そう言うが早いか、アインが殴りかかってくる。あまりにも突然の事だったので反応が間に合わずまともにもらってしまった。
「僕は…………、君を黒勇者だなんて思った事はない!!!リゼルだってそうだ…………みんな君を仲間だと思っている。何故それがわからない!!!」
「ああ、リゼルを泣かせたのは確かに俺のせいだよ………明日にでも謝りに行くつもりだったが………………、一発は…………、一発だ!!!」
再び拳を振りかぶったアインに対して、お返しにクロスカウンターを叩き込む。しかしアインも怯まずに反対の手で俺の服を掴み、ヘッドバットしてきやがった。
もはや戦いとも言えない暑苦しい血みどろの殴り合い、ただの泥仕合だ。
ついでに騒ぎを聞きつけてミユとリゼルがここまでやって来た。
「どうしましょう…………2人を止めないと…………」
「男どうし、拳で語り合う事もたまには必要だよ……………って、ボクの育ての親のザイードさんが昔言ってた♪」
今それどころではないけど、ザイードさんとやら、ミユに変な事教えんでください………
「君は馬鹿丸出しだ!!!僕達がいつ君の事を差別した……………!!!いつ君の事を見下した………!!!」
「黙れ!!!生まれた時からエリートで温室育ちの野郎に何がわかる!!!」
「わかりたくもないし興味もないね…………!!!自分が自分がばっかりで、見えている物すら見ようとしない人間の泣き言なんて!!!!」
俺はアインが放った強烈なアッパーをもろに食らって、倒れた。
認めたくはないが、アインの言う通りだった。もはや抵抗する気力すら起きない。
「さっきも言ったように、ここにいる誰も君の事を差別なんてしてないし、これからもそんな事はない。ここで旅を終わらせる事もできるけど…………それで?クロード、君はどうしたい?」
「これで終わりなんて嫌だ…………こんな情けなくて、ろくでもない俺だけど、まだお前らと旅を続けてェよ…………」
確かに、ここで旅を終わらせる事もできた。だが、今振り返ると終わらせない事を選んだのは間違いなく俺自身の意思だった。
最初は白夜の国から抜け出す為だけの後ろ向きな旅路だったが、今やそれこそが俺の中でかけがえのないものとなっていた。
「リゼル、俺が悪かったよ………」
ふらつきながらも起き上がり、リゼルに謝罪した。
「OKOK、これで一件落着、だね♪まぁそれはそれとして…………」
「よくもボクのクロードをボコボコにしてくれたね?アイン…………」
「天誅!!!」
ミユの鋭い蹴りが、アインの股の間に吸い込まれるように叩き込まれて、そのままアインのアインをバウンドショット。
声にならない叫びを上げて崩れ落ちるアイン。
やっぱりこのパーティで最強なのはミユかもしれない。
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