第5話 万能メイド兼魔法使い、リゼル



アインとリゼルが仲間になった後、俺達の旅は大きく変わる。


まず、野外でも毎日温かい料理を食べる事ができるようになった。


ある時は俺の持ってたデリシャスボアの燻製肉と、街で買った野菜を組み合わせてリゼルがポトフを作り、また、ある時は鹿肉でステーキだ。


薬草や食べられる野草、毒キノコの見分け方にも詳しく、俺達のパーティの食事面は大幅に改善された。


それだけでなく、武器の手入れにも長けていてその技術はミユが大人しく自分の剣を任せる程だ。


さらに魔法使いという事でパーティに後衛火力が加わり、戦闘が一気に楽になった。


ものすごく万能で完璧なメイド、それがリゼルに対しての俺が抱くイメージだった。


 

▷▷▷



「これも頼んでいいか?リゼル」


 


氷雪の国を抜けて大地の国に向かう途中のある時、野営中の俺は武器の手入れをしているリゼルに、マジックバッグの底にしまっていた一振りの太刀を預けた。


 


「あれ?クロードさんの武器は大鎌でしたよね………刀なんて使ってるのは見た事ありませんけど………?」


 


「これは俺の師匠の形見だよ。俺に『断ち切る者スラッシャー』の魔法を継承したのも師匠だ。なんかこのままボロボロで置いとくのも忍びないからな」


 


「わかりました!!ではこのリゼル、クロードさんの師匠の形見を最高の状態に蘇らせてみせましょう!!」


 


師匠の形見の太刀、『月影つきかげ』をリゼルに預けて俺はその場を離れた。


 


 

▷▷▷

 


 


リゼルside


 


私はクロードさんから預かった刀を手入れしながらじっくりと観察する。間違いない、この刀は古びてはいるものの、大業物と呼ぶに値する。


 


「リゼル………ボクの剣、手入れ終わった?」


 


ミユさんが呼んでいる。


 


「もう終わっていますよミユさん。今手入れしている刀が終わりしだいすぐにお渡ししますね」


 


「刀…………?」


 


ミユさんがこちらにきて手入れ中の刀を眺める。


 


「すごい…………!!これはもはや芸術品だよ………!!こんなとんでもない大業物どこで………?」


 


ミユさんはいつになく興奮気味で狐耳がピョコピョコ動いていた。尻尾も激しく振っていて、なんだかとても可愛らしい。


 


「クロードさんの師匠の形見だそうです」


 


「クロードがこれを?」


 


「はい。なんでも、クロードさんに切断魔法の『断ち切る者スラッシャー』を継承した人だそうです」


 


ミユさんは興味を持ったようで真剣に、それこそ一言も聞き逃さないくらい集中して私から話を聞こうとするけど、クロードさんから詳しく聞いた訳じゃないから、実のところ私もそんなに知らない。


 


「詳しくはクロードさんに聞いた方がよろしいかと………」


 


あ、ミユさんダッシュでクロードさん探しに行った。


 


リゼルside 終



 

▷▷▷

 


「クロード!!!」


 


「どわッ!?」


 


唐突に興奮気味のミユにタックルされた。タックルっていうか、走ってきた勢いのまま止まれずにぶつかってきた感じだが。


 


「クロードの師匠の事を教えて………!!」


 


さては、手入れ中の月影を見たな?こいつかなりの刀剣類マニアだからな…………


 


「俺の師匠は…………剣神ロゥウェル、っていえばわかるか?」


 


「剣神ロゥウェル…………!?あの、概念すら斬り裂く剣技を持つ伝説の剣豪………!!!まさかアレが本物の『名刀 月影』!?」


 


「何っ!?剣神ロゥウェルだって!?」


 


さっきまで燻製肉をツマミにビールをチビチビ飲んでたアインまで食いついてきた。


 


「ああ、師匠がガチでロゥウェル本人かはわからんが、俺にはそう名乗ってた。だが、あの月影はたぶん本物だ。あんな大業物が他にいくつもあるはずがない」


 


「師匠はある日ふらりと俺のいる村にやって来た。その頃にはもうヨボヨボの爺さんでな、色々あって師匠から戦闘技術を教わり『断ち切る者スラッシャー』の魔法を継承してもらったんだよ」


 


「待ってくれクロード、剣神ロゥウェルが魔法剣士だったなんて記録はどこにもない。つまりそのお爺さんが剣神ロゥウェル本人である可能性は極めて低い」


 


アインは冷静に師匠が剣神ロゥウェル本人である事を否定する。


 


「だよな、期待させてスマン。とりあえず俺の師匠は『剣神ロゥウェルを名乗る不審者』って事で………」


 


俺がそう言って話を終えた直後、


 


「キャアアアアアアア!?」


 


リゼルの悲鳴が聞こえた。


 


「敵襲か!?」


 


三人でリゼルのもとに向かう。ちなみにミユは手入れが終わった武器をまだ返してもらってないので料理用の包丁を装備。


俺達が駆けつけると、リゼルは縮こまって震えていた。とりあえずは被害がなさそうで一安心。


 


「リゼル、何があったの?」


 


ミユが冷静に尋ねた。


 


「そこの茂みに……………!!」


 


リゼルは震える手で茂みを指さす。


 


「魔物か!!」


 


先手必勝!!茂みごと『断ち切る者スラッシャー』でぶった斬る………!!


俺は大鎌を腰溜めで構えた。


 


「バッタがいたんです…………!!」


 


全力でズッコケた。


 


「オイィィィィ!?ただの虫だろーが!!」


 


「リゼルは昔から虫と幽霊だけは苦手なんだ………わかってやってくれ………」


 


アインがなんかフォローしてるけど、この先現れる魔物にもゴースト系や昆虫系がいる訳だよな………その度にこういうリアクションしてたら戦いどころじゃなくね?


ものすごく万能で弱点などなさそうなリゼルの弱点が虫と幽霊である事が判明。


 


問 そんなパーティで、大丈夫か?


 


答 大丈夫だ、問題な………い訳ねェだろ!!!




□□□ 


用語解説


剣神ロゥウェル

人物名。アドリビトゥムに実在する伝説の剣豪で概念すら斬り裂く剣技の持ち主………とされているが実際はユニーク魔法『断ち切る者スラッシャー』による切断現象が純粋な剣技によるものと誤解されただけ。『断ち切る者スラッシャー』の発動条件が刃を振るうモーションである事も誤解の原因。

そしてクロードの師匠でもある。つまりクロードの『断ち切る者スラッシャー」はまだ未完成で、さらに鍛えればロゥウェルのように概念や時空すら切断する最強の攻撃魔法となる。


ユニーク魔法

同じ物が2つと存在しない特殊な魔法。癖のある性能を有する傾向が強く、通常の魔法との最大の違いは、原理がわかっていても他者からの継承以外の方法では修得できない点。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る