入りたかった部活には入れなかった。
そんなオトヤの事がありつつも俺は、いつも通りに早めに学校に行った。
高校生活二日目は、新入生勧誘のための部活動紹介だった。
運動部から室内で活動する部活動までの紹介を案内してもらう。
これも、クラスでまわることになっている。
勿論、俺は、オトヤと一緒にまわることに。
新入生勧誘のための部活動紹介で、校内をまわっているときに、俺は、『中学生の頃、なに部だった?』って、オトヤに聞いたんだ。
よくありがちな、まだ知らない人にするコミュニケーションみたいな感じで。
それで、会話が弾んだりするから。
そういうものだと思って聞いてみたんだ。
オトヤは、『何も部活に入ってない。』
そう答えが返ってきた。
『そうなんだ…。』
まさか、中学生の頃、部活に入っていないと思わなくて、返事に困った。
『帰宅部だよ~。』とか軽い感じで言ってくれれば、何か少しでも会話が弾んだはずなのにな。
俺は、それ以上、会話を広げる事が出来なかったんだ。
そしたら、珍しくオトヤから聞いてきてくれたんだ。
『部活なに入ってたの?』って。
俺は、珍しくオトヤから聞いてきてくれたことが凄く嬉しくて、テンションが上がって、笑顔で、
『家庭部だよ。』って返事を返したら、『なにそれ。』と、オトヤからひと言。
珍しい部活なのかな、知らないのかな。って思って、『洋裁とか、お菓子を作ったりする部活だよ。』って言ったら、『ふーん。』って言われただけだった。
それで、会話は終わり。
『なに作るの?』とか聞いてこないんだ…。って思った。
けれど、聞いてこないのにわざわざ話す必要もないと思って、俺は、黙り込んだ。
ドレスを作ったり、お菓子を作ったり、和食を作ったりもした。
ブラウニーとか凄く美味しいのに。
お菓子とか禁止の学校で、調理がある日だけ許されるんだ。
だから、皆、その日は、特にテンション上がっててさ、他の部活動の子も、お菓子が食べられるから楽しみにしてて、一緒に食べたりして、楽しい時間だったんだ。
あの頃のブラウニーのレシピ、ちゃんととっておけば良かった。
凄くチョコレートが濃くて、しっとりしてて、美味しかったんだ。
あの頃のブラウニーが食べたくなる。
そう思いながら、無言で、皆の後を付いて行く。
運動部をまわり終えて、次は、室内で活動する部活動をまわっていく。
茶道部の紹介が始まった。
俺は、茶道部にも興味があった。
御作法を学べると思ったから。
それに、お茶と和菓子も食べられると思ったから。
でも、この事、俺が茶道部に入りたいってことは、オトヤには話していない。
俺が、『何か、部活入る?』って聞いたら、『入らない。』そう、ひと言ポツリと返ってきて、俺が入りたい部活のことは話せなかった。
そう思っているときに、茶道部の顧問の先生が『誰か、お茶飲んでみたい人』って聞いてきた。
『和菓子もあるよ。』って声をかけている。
俺は、手を上げたかった…。
お茶も飲みたかった。
和菓子も食べたかった。
でも、手をあげられなかった…。
隣を見ると、オトヤは、ただ無表情で立っていたから。
『一緒に飲もうぜ。』
『和菓子食べようぜ。』
なんて、言える空気では無かった。
そう思っていたら、女子生徒二人が、お茶を飲むことになってしまった。
女子生徒は、お茶が『苦い。』と言っていた。
そんな様子を、俺はただ、無言で、その女子生徒達を羨ましく眺めていた。
無言のまま、部活動紹介をまわり終えた。
物凄く疲れたのを覚えている。
結局、俺は、茶道部に入ることもなく、写真部も演劇部もない、隣のクラスの子に誘われたよく分からない部活に入ることになった。
写真部も演劇部も、普通に高校にあるものだと思っていたから。
でも、この学校には無かったんだ。
ちゃんと部活動を考えて、高校を選べば良かったと心から思った。
オトヤは、言葉通り、何も部活には入らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます