卒業アルバムを断捨離した。

二年前、小学校、中学校、高校の卒業アルバムを捨てた。


ちょうど、コロナ禍の断捨離にハマっていた時期でもあって、まずは洋服から捨てることを始めた。


最初の頃は、洋服って捨てていいものなのか、少し戸惑いと抵抗があったのだが、自分が洋服を着ているとき、心地が良いものなのかと考え始めたら、意外と捨てられるのだ。


素材が良くなくてクローゼットに置いてある洋服、動きずらい洋服、着ると嫌なことに巻き込まれる洋服、そして年齢にそぐわない洋服、ファストファッションの物…を次々捨てていった。


ひとつ捨てればもうひとつ、あれも捨てられる、これも捨てられる。

どんどん捨てる速度は速くなっていって、あれもこれも捨てたい!って変なスイッチが入ってしまって、捨てれば、自分の心がなんとも言えない清々しい気持ちになったんだ。


そして、ほとんどの洋服を捨てることが出来た。


でも、捨てすぎて着る洋服がなくなってしまったことがある。

それには、少し困った。



けれども、物を捨てると、気持ちがスッキリとして止められないのだ。



クローゼットの中は、自分の好きなテイストの洋服だけが掛かっている。

好きなものだけ溢れているからクローゼットを開けるたびに幸せな気持ちになった。


断捨離をしたら、その時に感じた心が軽くなって清々しい感覚が忘れられなくて、部屋にある物を次々と手にとって捨てていった。


この時、俺は、ゾーンに入っていた。


断捨離をすると快感に目覚めてしまう人が多くいるらしい。

そして、いろんな物を捨ててしまうことを。



『もう捨てるものが無い…。』

その日を経て、過激に断捨離をしていた俺の捨てたい気持ちは収まっていった。



はずだった。


本棚を見ると、たくさんの小説の中に三冊の忌まわしい物体があることに気がついてしまったんだ。


小学校、中学校はまだ良いとして、高校のは、置いておくだけで不幸になりそうなくらい。

俺にとってソレは、暗黒の最悪で最低の者が詰まった吐き気がする一冊だから。


サッと、三冊の卒業アルバムを本棚から抜き取って、シュレッダーの置いてある机に置いた。


すかさず手に取ったのは、高校の卒業アルバム。

見たくないけど、一応中身を確認しておく。

やっぱり俺、元気なさそうに写ってるぞ。


写真を撮ったのが五月くらいだったんだ。

その頃って、俺は、学校を休んだり行かなかったりしていたから、体調が万全な訳が無いんだ。


高校生の頃は、体調が万全な日なんて一度も無かったんだ。

いつもギリギリの状態で、顔にも出さずに過ごしていた。

誰にも、辛い。なんて言葉を言えるわけでもなく、ただ時間が過ぎるのを待って生きていたんだ。


それに、写真を撮る前に、とあるヤツからあることをされたんだ。

それで変な写り方になってしまった。

この事は、また後で話す。


そして、俺をイジメた奴らのクラス写真を見た。


やっぱり、最低な奴らだよ。

そう思ったら、頭に血がのぼった。

こんな物があるから良くないんだと苛立った。


物凄く顔に力が入った。

そいつらは、俺に嫌なことをしてきたのに、写真の中で、歯を見せながら笑ってるんだぜ。

最低だろ?


迷わずシュレッダー行きとなった。

卒業アルバムの紙って意外と厚さもあって固いんだ。


憎んでいるそいつらの顔にシュレッダーの刃で切り刻まれるのは快感だった。


文集も捨てた。

自分のだけシュレッダーして、他のはそのまま捨てた。

俺にはもう関係無いのだから。

他人の名前とか、思い出の文章とか、どうでもいいんだ。

興味がないんだ。


それに、俺の文集の内容は、本当に書きたい事は何一つ無かった。

嘘の事を書いたんだ。

だから、何の思入れの無い物を取っておいても、邪魔だから。

全て捨てたんだ。


もう絶対に会うこともないし、嫌な奴らが写っている写真を何故取っておく必要があるんだ?


卒業アルバム三冊なんて、結構な場所取るんだぜ?


重いし、邪魔だし、いらないし、そんな物を捨てて、自分の好きな小説を置けるスペースが取れるんだよ。

その方がよっぽど幸せだよ。



丸一日かかってね、大変だったよ。



俺には、生きていく中で必要の無い物、者なんだ。


だから、卒業アルバムを断捨離した。


断捨離した時はね、スッキリしたよ。

気持ちも空間も。

最高にスッキリしたんだ。

心の中の重い鉛が取れる感じ。



けどね…、全て捨てて、全てを忘れていた筈だった。


少しずつ、思い出してしまったんだ…。


卒業アルバムを断捨離して、少し経った頃に…

過去の嫌な出来事を。











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