魔王様とネットリテラシー~安全にインターネットを使うために~

@Botan_Misono

第1話 魔王様とポップアップ詐欺

「うわぁあ!面白そうなサイトのURLをクリックしただけなのに、『お使いのPCはウイルスに感染しました』とかいうポップアップが出てきて警告音が鳴っているのじゃ!もうおしまいじゃあ!」


 ~30分前~

「いやあ、面白フラッシュ倉庫は面白いなぁ!いくらみても飽きんわい!」

 ここは泣く子も黙る剣と魔法の世界。小学校に通っている魔王(9歳)は昨日PC室で勇者に教えてもらったまとめサイトにドはまりしていた。今もこうして、デーモン(保護者)がスーパーに買い物に行っている間に隠れて家のPCを使い、めくるめくフラッシュの世界にのめりこんでいた。

「特にわしはこのマイケルのやつが好きじゃ!ずっと無敵なのじゃ!ハハハハハ!」

 画面ではマイケルジャクソンがムーンウォークをしながら敵を次々となぎ倒している。魔王はこのフラッシュを飽きもせず何回も何回も繰り返し再生した。…そんなことをもうかれこれ30分くらい続けている。

「ふう…なんだか笑ったら喉が渇いたのう。そうだ!ジュースでも飲むのじゃ!」

 ひとしきりフラッシュを楽しんだ後、魔王は冷蔵庫からQooを取り出してデジモンのコップに並々と注ぎ、一気に飲みほした。デーモン(保護者)がいないからジュースだって飲み放題なのだ。魔王はつかの間の幸福を満喫していた。

「しかし、よく勇者はこんな面白いものを知っているもんじゃ…。あやつの知識量には流石のわしでも敬服するぞ…。」

 魔王は腕組をして1人うんうんとうなずいた。今年から同じクラスになった勇者は、魔王や他の子が知らないようなことを何でも知っていた。ドッヂボールで早い球を投げる方法、50m走で速く走れる靴、クワガタのよくいる木、当たりのきなこもちを見分ける方法、給食でわかめご飯が出る日…。物知りな勇者は常にクラスのヒーローだ。最初はそんな勇者をあまり好きになれない魔王だったが、一緒に学校生活を送っていると知らず知らずのうちにそんな感情はどこかに消え失せ、今では気の合う友達になっていた。小学生なんてそんなものである。仲良くなるのに大事なのは、一緒にいる時間が長いことなのだ。

 「しかし、勇者に教えられてばかりじゃ申し訳が立たん。ワシもこのサイトみたいな面白いものを見つけたいものじゃ…。よし!ちょっと調べてみるか!」

 そうひとりごつと、魔王はYahoo!Kidsでネット検索をし始めた。調べもののやり方はこの前先生に教えてもらっていたから分かっている。

 「確か調べたい言葉をスペースで区切って検索ボックスに入力すると、そのキーワードと関連性の高いWebページや画像、動画などの情報をコンピューターがインターネット上から探し出し、その検索結果を一覧表示してくれるのだったな…。よし!まずはこれじゃ!」

 そういって魔王は検索ボックスに『面白い サイト』と打ち込んで検索してみた。しかし、出てきたのは勇者から教えられたおもしろフラッシュや、無料で遊べるゲームサイトばかりだった。

「むむむ…これでは勇者に一泡吹かせられんわい…。よし、つぎはこれじゃ!」

 次に魔王は『楽しい 驚く サイト』と入力してみた。なんだかホームページのデザイン指南をするサイトがたくさん出てきた。これはこれで楽しいが、現小学生の魔王にはまだこの面白さが分からなかった。魔王はそれ以降もキーワードを変えて色々検索してみたり、ちょボットとオセロをやってボコボコにされてみたり、タイピングゲームで遊んだりしてみたが、やはり魔王のメガネに適うサイトはどこにもなかった。

「ふぅ…、中々探すと見つからんもんじゃな。ちと甘く考えすぎたわい。…そうじゃ!あの手を使ってみようかの!」

 そう言って、魔王はPCの設定からフィルタリング機能をOFFにしてから今度はYahoo!Kidsではなく、Googleを使って検索し始めた。フィルタリングを外すのも、Yahoo!Kids以外で調べものをするのもデーモンからダメと言われている。しかし、魔王は長年の経験から、こうしたほうが検索Hit数は格段に多くなり、探し物が見つかりやすいことを知っていたのだ。そして、魔王はまた面白サイト探しを始めた。

 事件が起きたのは、その時だった。

「お!この『WILL BE INFECTED』というサイトなんだかカッコいいのじゃ!タイトル下の日本語が、ちと間違っているがゲームとか無料とか書いてあるし、多分面白いサイトなのじゃ!」

 魔王は検索結果の10ページ目を見ているときに、そのサイトを見つけた。日本語の検索結果に英語のタイトルが入っている時点で危ない香りがプンプンとしたが、魔王は特段気にしなかった。そして、思いっきりダブルクリックをして、サイトにアクセスした瞬間、ビービービーという警告音と共に画面中央に赤い枠のポップアップが現れ、そこには赤い文字でウイルスに感染したとの文言が刻まれていたのである!そして、冒頭のセリフに繋がる!

「あわわわ、どうすればいいのじゃ…。パソコンが壊れてしもうた…。デーモンに怒られる!」 

 魔王は分かりやすく焦っていた。家のパソコンを壊してしまった申し訳なさと『ウイルスに感染した』ということへの恐怖でもはや完全に理性を失っていた。

「こ、こんなことになるなら、CPUへの負担が大きくなるからってセキュリティソフトをアンインストールするんじゃなかった!Windows Defenderだけじゃやっぱり不十分だったのじゃ!」

 魔王は半泣きになりながら、床をごろごろと転がりまわった。その間もパソコンからは警告音が鳴り続けている。気が付くと謎のカウントダウンも始まっている。

「なに!?ウイルスを除去するためには、10分以内にこのアプリをインストールしてくださいじゃと!?あわわ、一大事じゃ…はやくインストールせねば。で、でも、これ以上パソコンに触るのは怖すぎるのじゃ…。」

 魔王はさらに気が動転し、何が正解なのか分からなくなってしまった。そして、ある決断をする。

「よ、よし、こうなったらパソコンを壊すしかない…。そうすれば、ウイルスなんて消し飛ぶのじゃ…。。」

 そして、魔王は左手に魔力を集め始めた。ほどなくして、紫色の炎が手のひらに出現する。強大な魔力によって時空をゆがませることで地獄の業火をこの空間に転移させたのだ。魔王は数多の罪人たちの叫び声が染みついた業火の熱さを感じながら、パソコンに向かってニヤニヤと笑った。

「のうパソコンよ。貴様ごときにこの技を使ってやること、光栄に思え…。」

 魔王は左手を振り上げ、呪文を唱え始める。全ての痕跡を世界から抹消するつもりだ。

「孤独の王!飢餓の民!谷の底へと落ちる革命の音!錆びついた王国の騎士たちは!己の喉元へと矛先を向ける!狂気を飲み込む無常!何も知らぬ幼子の!罪の重さを知るが良い!」

 魔王は掌をパソコンに向け、力を込める。その瞬間、辺りは豪炎の発する光によって白く染め上げられた。

「消えるが良い!魔式消失奥義其の十一!!飢熱!!!!」

「なーにやってんスかぁ!魔王様ぁ!!!!!」

 魔王渾身の奥義飢熱は突如パソコンと魔王の間に割り込んできたデーモン(保護者)によって、ひとつ残らず吸収された。魔王はその様子を見て、冷静さを取り戻し額からダラダラと汗をかき始めた。デーモン(保護者)の顔はまるで鬼神のように釣りあがり、まちがいなく怒っていた。

「家の中で暴れちゃダメって言ったじゃないですか!!!!」

 デーモンの声に魔王は肩をビクゥ!と震わせる。魔王はもう泣く寸前だった。というか、もう泣いてる。

「だって…だって…、パソコンが!パソコンが!」

「パソコンが何です?何があったのかちゃんと説明してください!」

「ウイルスが…うわぁぁぁぁぁぁんんん!!!!!!!」

「ど、どうしたんです!魔王様!?う、ういるす!?」

 魔王はデーモン(保護者)のもとへと駆け寄り、その胸の中でわんわんと泣いた。7歳である魔王はもう我慢の限界だったのだ。


 デーモン(保護者)は魔王様をよしよしとなだめて、スーパーで買ってきたハンバーグの材料を冷蔵庫に詰めた後、魔王から事の顛末を聞き、パソコンの様子を確認した。

「ああ、ありがちなポップアップ詐欺ですね。一応、ウイルススキャンしてみましたけど別にパソコンは壊れちゃいませんよ。良かったですね。」

「ほ、ホント!?」魔王はキラキラと目を輝かせてから、安堵の表情を浮かべた。

「はい、とりあえずこういう時はそのウィンドウを閉じましょう。そうすればとりあえずこのやかましい警告表示を消すことができます。現在開いているウィンドウを閉じるショートカットコマンドは『Alt + F4』です。普通に日常生活でも使えるので覚えておいても損はないかもしれませんね。」

「コマンドを忘れてしまったときはどうするのじゃ?」

「そういうときは、タスクマネージャーからブラウザのタスクを終了させましょう!タスクマネージャーは『Ctrl + Alt + Delete』で呼び出すことができます!」

「タスクマネージャーってなんじゃ?それも覚えとくとよいのか?」

「タスクマネージャーというのは、パソコンの中で現在起動中のプログラムの一覧を表示してくれるものです。一覧の中から閉じたいウェブブラウザ(『chrome』や『Edge』)を選んで、タスクの終了を選びましょう!」

「なるほど!ウィンドウ自体を閉じるのが一番なのじゃな!ところで、ポップアップの右上にある×ボタンを押すのはダメなのか?」魔王がそう言うとデーモン(保護者)は両腕で大きく×印を作った。

「ポップアップ自体に触れるのは厳禁です!×ボタンだけでなく、どのボタンにも絶対触れないでください!押した瞬間にウイルスがダウンロードされてしまうこともあります!」

「こ、こわいのじゃあ~。これからはウィンドウ自体を閉じるようにするのじゃあ…。」

「また、今回のポップアップはセキュリティソフトと称してウイルスをパソコン内にインストールさせるタイプのものでしたが、他にも電話番号やメールアドレスが書いてあって、その後担当者から遠隔操作ソフトを入れるように誘導されたり、コンビニで電子マネーを購入して指定の口座に振り込むように求められたりすることもあります!全て詐欺なので、騙されないでください!」

「どんなことが起こってもまずは落ち着いて対処することが大切じゃ!そうすれば、被害を最小限に抑えることができるぞ!」

「また、危ないサイトには最初からアクセスしない、OSやブラウザを常に最新のバージョンにアップデートしておく、事前にウイルスソフトを入れておくのも忘れないようにしましょう!未然防止!事前防止!」


「「みんなで楽しく安全にインターネットを利用しましょう(するのじゃ)!!」」



 参考サイト『大阪府警察 サポート詐欺の手口及び対処法』


 https://www.police.pref.osaka.lg.jp/seikatsu/tokusyusagi/14206.html

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