第14話 中村航:これって見ちゃダメなヤツでは?(3)
そんな、わちゃわちゃと楽しげな時間はあっという間に過ぎ、コラボ配信はお開きとなった。
結局、まともなアドバイスなど何一つできないまま時間は過ぎてしまった。
「おつかれぇ」
配信とボイスチャットを閉じた葵が、ひょいと手をあげてくる。
「お、おう。オレは何もしてないけどな」
オレはその手に軽く触れる程度のハイタッチをする。
「そんなことないよ。航が何も言わなかったってことは、私はやらかさなかったってことだもん。それだけでもすっごい安心できるんだよ」
うぅ……不当な高評価が心に痛い。
「よーし、じゃあ反省会しちゃおう!」
おーっ、と葵が拳を突き上げたところで、PCの画面にポコンとデスコの通知が届いた。
(ヨランハ)おつかれー
個人チャットで葵にメッセージを送ってきたのは、先程まで一緒に配信をしていた男性VTuberだ。
カリブ海をイメージさせる、ノリノリなキャラが受けているイケメンである。
「ちょっと待ってね。返信しちゃうから」
(バイオレット)お疲れ様です。今日はありがとうございました
(ヨランハ)けっこう苦戦してたけど、練習大丈夫そう?
(ヨランハ)なんなら裏で手伝うよ
(バイオレット)大丈夫です。ありがとうございます
(ヨランハ)なんなら、オフで教えてあげてもいいよ
(ヨランハ)その方が細かいアドバイスもできるしね
(バイオレット)いえ、本当にそういうのは……
(ヨランハ)遠慮することないよ。久しぶりにバイオレットちゃんに会いたいしね
(バイオレット)すみません、ちょっと忙しくて
(ヨランハ)先輩の誘いは受け手おいた方がいいと思うけどね
(バイオレット)はい、そう思います!
(ヨランハ)じゃあ、さっそく明日なんてどうかな
(バイオレット)いえ、やらないです
(ヨランハ)んん?
(ヨランハ)どういうこと?
葵が困った顔でこちらを見てくる。
「先輩にこびた方がいいのはわかるんだけど……」
言い方!
「イヤなんだろ?」
「うん」
葵は「うへぇ」と顔を歪めた。
「こうやって誘われること、よくあるのか?」
「3D配信のために事務所に行った時に一度会ったんだけど、それからしょっちゅう……。でもでも、オフで会ったり、裏で遊んだりしたことはないよ!」
「まじか」
ほぼストーカーじゃないか。
葵は美人だからなあ。そういうヤツが出て来ても不思議じゃないが。
「どう断ったらいいんだろう?」
ここまでアグレッシブになるヤツの気持ちなんてわからんが。
「んー、はっきり断るしかないかなあ」
「何回も断ってるんだけどなぁ」
「マメだな……。それだけ葵に魅力があるってことだろうけど」
「え、えへへ? そうかな? 航もそう思う?」
く、口がすべった。
「葵はモテるからな……」
「んー?」
葵はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、オレの顔を覗き込んでくる。
「こういう時の定番といえば、彼氏いるんですって言っちゃうことだけどな」
「それって、航が彼氏役をやってくれるって、コト?」
「やらないぞ。絶対トラブルになるやつだろ」
「えー?」
「えー、じゃありません。まあ、本当に必要となったら考えるけどさ」
「やったー!」
「なんで喜ぶんだよ。そうならないように手をうつんだろ」
「そうだった」
やっちゃった、みたいに葵がはにかむと、またデスコの通知がきた。
(青椿)バイオレットちゃん、ヨランハさんからのお誘い、断ったんだって?
これまた、今日のコラボ配信の参加者だ。
甘いお姉さん声が特徴のVTuberである。
下ネタOKのお色気お姉さんキャラで売っているようだった。
「ひえぇ……青椿さんだぁ……」
葵がとても苦手そうな声を漏らした。
配信中もわりとそんな雰囲気で、キャラ作りだと思っていたが素だったのか。
考えてみれば、葵にそんなことをできるはずがなかった。
良い意味でな。
(バイオレット)はい
(青椿)断るにしても上手いことやんな
(バイオレット)はい
(青椿)イケメン人気Vに言い寄られて、舞い上がってない?
(バイオレット)いえ
「こわ。なにこれ? お説教?」
それにしてはなんかねちっこい。
「うぅ……青椿さん苦手……」
「いつもこんな感じなのか?」
「前は違ったよ。優しい先輩だったの」
「いつからこうなんだ?」
「前に3D配信で事務所に行った時からかなあ」
「ヨランハに初めて会ったとき?」
「うんそう」
これってもしかして……。
「その時、青椿の前でヨランハに言い寄られたりしたか?」
「うん、した」
「ヨランハって中身もイケメンなのか?」
「んー、わかんないけど、そういう雰囲気はあるかも」
「年齢は?」
「二十代中盤くらいかなあ」
いやいや、それでJKに手を出そうとすんなよ。
「青椿はどんな感じなんだ?」
「わりとアバターに近いセクシーなお姉さんって感じ。三十歳は行ってないと思う」
「ヨランハと青椿は仲良さそうなのか?」
「うん、事務所で会った時も仲良さそうだったよ」
「葵がヨランハとコラボする時、青椿からまぜてほしいって立候補したりするか?」
「すごい! なんでわかるの!? 断るわけにもいかないし、気を使うしで散々なんだよぅ」
むしろなんでわからないんだ。
こういうのって、女子の方が鋭いイメージだが……葵だしなあ。
「それたぶん、青椿から嫉妬されてるぞ」
「…………はっ!? なるほど!!」
葵はポンと手をうった。
いやあ、これは完全に守備範囲外だ。
得意なヤツに助力を求めるとしますかね。
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