第11話 日向はるか:こんな二十九歳になりたい(2)

 あたしはそのまま白羽さんに色々話してしまった。


 幼馴染がVTuberとして人気だとか、そのVTuberがもう一人の幼馴染とつきあってるっぽいとか。

 白羽さんが優しい笑顔でうんうん頷いているのを見ていると、つい話しすぎてしまう。

 いやもう聞き上手すぎない?

 これが業界トップの実力ってやつ?


「つまり、はるかちゃんはそのVTuberさんが大切なんだね?」

「どうしてそういう結論になるんですか」


 航のことを言われるならわかるけど。


「あら違うの?」

「ちが……うう……んんん……」


 違わ……ない。

 違わないんだけど、改めてそう言われると、今の自分が本当にバカみたいだ。


「そういう時はぶつかっていくしかないじゃん」

「それはそうなんですけど……」

「……なんて言う人もいるけどさ。そんな簡単にいくかよーって思うよね」


 白羽さんは、顔をしかめ、イーっと口を横に引いた。

 そんな様子もかわいいのだからズルい。


「まわりがどんどん売れたり、別の道を見つけて行く中、こっちは必死でしがみついてるってのにね。まだ若いなんて言うけど、自分にとっては今が人生で一番年寄りなのにねえ」


 口調や雰囲気こそいつもの柔らかい白羽さんだが、その奥には強い実感がこもっていた。


「意外でした。そういうグチなんて言わない人かと……」

「んふふ。私だってたまにはね」


 あぁ、この人はあえてあたしにこんな話をしたのかもしれない。

 それほど接点の多くない後輩のために。


「ありがとうございます」

「んん? なにが?」


 白羽さんがにこりと微笑む。

 こうしてお礼を言えたことも含めて「正解」だったようだ。


「ちょっとお手洗いに行ってくるね」


 白羽さんが席を立つと、あたしのスマホが震えた。

 数カ月書き込みのなかった、幼馴染三人のグループチャットだ。


 書き込んだのは航。


 個人をブロックしても、こちらの書き込みは見れてしまうらしい。

 そもそも、ブロック自体がやりすぎだった。

 今朝は頭の中がぐちゃぐちゃになり、勢いでやってしまったけど、いまさらものすごく後悔している。


 航に嫌われたらどうしよう。

 お腹がキリキリと痛くなってきた。


 私は薄目でアプリを開く。


(航)今朝のはゲームの朝練だ


 航がこの一言を送るのに、何度も書き直す様子が目に浮かんだ。


 謝ろう。


 ブロックはやりすぎた。あとで戻しておこう。

 というより、あたしの一方的な勘違いなのだから、やりすぎたも何もない。


 あたしが悪い。


 今日は何かお土産を買って帰ろう。

 朝一で食べても重たくないものを……二人分。


「あらあら、かわいい顔しちゃって。青春だねえ」


 いつの間にか戻ってきていた白羽さんが、あたしの顔を見てにやけている。


「あたしの顔は世界で二番目にかわいいですから」

「あら、一番は?」

「もちろん白羽さんです」

「高校生のみそらで、世間に揉まれてしまいましたなあ」

「なぜそこで悲しい顔を!?」


 よよよ、と泣き真似をしてみせる白羽さんは最強にかわいい二十九歳だった。



 もう夜も遅い時間だというのに、航はあたしを待ってくれていた。

 でもちょっと怒っていた航は、あたしの好物をテーブルに並べ、「全部食べるまで許しません」と頬を膨らませてみせた。

 明日から、走り込みの量を増やさないとなぁ……。

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