第8話 中村航:朝帰りじゃないぞ(1)

■■■ エピソード2 特訓をする幼馴染 ■■■

【中村航 朝帰りじゃないぞ】


 葵が隣に引っ越してきてから三日。

 いつものように晴香が帰った後、自分の勉強をし、ベッドに入るころには日付が変わっていた。


 そしてオレはスマホでアプリを立ち上げる。

 『プロジェクトアイドルコンクエスト』のタイトル画面が表示された。

 これは晴香が出演していたアイドルアニメのアプリだ。

 リリース当初はかなり話題になったリズムゲームである。

 運営開始から二年たっており、アニメの続編が作られていないこともあり、人気はおちついてしまっている。

 それでもオレは毎日このアプリを遊んでいた。

 課金をする経済的余裕はないが、ためておいたガチャ用アイテムは、晴香が演じるキャラに全て使っている。

 ゲーム画面から幼馴染の声が聞こえて来るってのは不思議なものだ。

 デイリーミッションをこなしていると、スマホにメッセージが届いた。


(葵)ねーねー

(航)どした

(葵)FPSってしたことある?

(航)ゲームの?

(葵)そうそう

(航)少しなら

(葵)やった!

(葵)今度、FPSの配信イベントに呼ばれたんだけど、やったことないから教えてほしくて

(航)あんまり力になれるとは思えないけど

(葵)一緒に遊んでくれるだけでいいから

(航)そういうことなら

(葵)じゃあ今からね

(航)もうすぐ一時なんだが!?

(葵)じゃあ朝練でどう?

(葵)夜はお互い忙しいでしょ?

(航)OK

(葵)じゃあ朝六時にね

(航)早っ!

(航)オンラインでいいか?

(葵)ヘビーシューティングフィールドってゲームなんだけど、もってる?

(航)それって、めっちゃスペック高いPCでしか動かないって話題になったやつでは?

(葵)たぶんそれ

(航)いやいや

(航)むりむり

(葵)そう思って、ちゃんとPC二台用意してあるよ

(航)!?

(葵)じゃあ明日、六時にうちに来てね

(葵)お隣だから大丈夫だよ

(航)大丈夫の意味がわからないんだが!?


 それきり葵からの返信はなかった。

 明日も学校あるんだけど?



 いつもは七時半頃家を出て、電車一本で高校の最寄り駅につく生活だ。

 朝六時からゲームするなら、それより早く起きて身支度をするということで……。

 つまり、眠い。


 オレはサンドウィッチと水筒にいれたコーヒー、そして通学鞄を持って、葵の部屋の呼び鈴を鳴らした。

 なおすでに制服も着用済みだ。

 絶対にギリギリまでゲームをするに決まっている。

 葵だってそう考えているはず。


「はぁい」


 玄関から出て来た葵は、紫色のネグリジェ姿だった。

 たわわな胸の谷間が露わになっている。

 それ以外の場所も色々とスケスケである。


「お、おい葵。その格好……」

「んあ! ごめんね。制服に着替えておこうとおもったんだけど、朝ご飯作ってたら時間なくなちゃって」

「それより前、隠してくれるか?」

「へ? ひゃっ!」


 慌ててひっこんだ葵を待つことしばし。


「ど、どうぞ……」


 制服に着替えた葵が、顔をあかくしながらドアを開けてくれた。

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