第4話 日向晴香:ネガティブなあたし(1)
【日向晴香 ネガティブなあたし】
航が葵の配信を夢中で見ている。
目の前にいるのは私なのに。
そう思ってしまう自分がイヤだ。
わかってる。
今日は大事な配信だから応援してるんだって。
そんな航だから、あたしはずっと彼が好きなのだと。
でもね、収録後の飲み会を断るって、とってもお仕事の上で不利になることなんだよ。
もちろんそんなことは口に出したりしない。
もともと飲み会は苦手だし、私が勝手にやっていることなのだから。
それとなく、今日のお仕事が苦手な内容だと漏らしておいたのもあたし。
そうしておけば、航が気を遣って私の好きなものを作って待っていてくれるだろうと期待したのもあたし。
葵とケンカをしちゃったのも……あたしなのだ。
やっぱりあたしはイヤな娘だ。
学校ではみんなに好かれる日向晴香。
お仕事でもみんなに好かれる日向はるか。
こうなることを選んだのはあたしなのに、どうしてもネガティブな思考が頭の中を駆け巡る。
ふと目に入る、番組への同時接続十万という数字。
アーカイブは百万再生以上行くのだろう。
一方、あたしが今日収録した番組は、多いものでもせいぜい十万再生がいいところだ。
葵はすごい。
声優になりたいと言っていた彼女は、新しい舞台で立派に走っている。
それなのにあたしときたら、デビュー当時こそ中学生声優としてちやほやされたものの、最近はお仕事も減ってきている。
航だって、学年成績一桁常連の成績だ。しっかり地に足をつけてがんばっている。
三人の幼馴染の中で、あたしだけが置いて行かれそうだ。
そんなのイヤだ。
「デザートにしよう」
航が冷蔵庫から出してきたのは、ケーキ屋さんの箱だった。
アイドル声優としてメディアに出る私は、永遠のダイエッッターだ。
ケーキなんて、仕事のイベントくらいでしか食べない。
今日のスープカレーだって、野菜が多めでしっかりカロリー計算をされた量だった。
異性の……大好きな幼馴染に摂取カロリーを把握されてるのはどうなんだって気持ちにはなるけど。
「今日くらい、いいんじゃないか? 葵のお祝いってことでさ。ちゃんと低カロリーなヤツを買ってきたし」
そう言っておきながら、用意してくれたのは、あたしの好きなチーズケーキだった。
葵の好きなチョコレートケーキではなく。
航はチーズケーキがちょっと苦手なはずなのに。
あたしの気持ちはどこまで航にバレているのだろうか。
せっかく葵のお祝いだというのに、チーズケーキを用意してもらって、葵よりも大事にされたと思うイヤな娘だって、バレてしまっているのだろうか。
「だよね、お祝いだもんね」
美味しいはずのチーズケーキは、何の味もしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます