セブンデイズチャレンジ 2

藤泉都理

第1話 地図に描かれた絵




 うちの子は予知能力者なのかもしれない。


 一室丸ごとに太陽系拡大地図が描かれた、無重力状態の部屋で漂っていた母親は、険しい顔で見つめていた。

 太陽系拡大地図にあちらこちらと描かれた我が子の絵を。

 一見すれば好き勝手にお気に入りのひまわりの絵を描いているようで、その実、違うのだ。

 母親が追いかけている推しの子が降り立った星にひまわりを描いているのだ。

 母親が追いかけている推しの子は、予告なしのゲリラライブを行うのだが、驚くべきことに、我が子はその推しの子がゲリラライブを行う星を特定しているようなのだ。


 うちの子は予知能力者かもしれない。


 何個目に描かれたひまわりで気付いただろうか。

 すごい偶然だなとは思っていたのだ。

 推しの子がゲリラライブを行う星に描くなんて。

 確かに。この部屋で推しの子がゲリラライブを行った星をはしゃいで教えているのだから覚えている可能性は大きくて、推しの子がまだゲリラライブしていない星にひまわりを描いた時は、やっぱり好き勝手に描いているだけで、偶然だと思ったものだが。

 違ったのだ。

 まだ推しの子がゲリラライブをしていない星に、我が子がひまわりを描いて数時間後、ないし、数日後に、その星で推しの子がゲリラライブをしたというニュースが流れてきたのだ。

 一度や二度ではない。

 百発百中である。


 うちの子は予知能力者だ。


 宇宙を開拓できるくらいだ。

 人間には爆発的な可能性があるだろう。

 予知能力もあってしかるべきだ。

 すごいと素直に喜べばいい。

 いや、実際に喜んだのだ。

 はしゃいで喜んで、我が子に、五歳の我が子に、次はどこ、その次はどこで推しの子はゲリラライブを行うのと訊きまくってしまったのだ。


 そうだ。前もって言っておこう。

 私が悪い。

 全面的に私が悪かったです。

 しつっっっこく尋ねまくった私が悪いのです。

 猛省しております。

 だから。


「機嫌を損ねないで、またひまわりを描いて。ね?ね?」

「っや」


 そうしてもう、我が子は太陽系拡大地図にひまわりを描かなくなってしまった。


 ぐすん。











(2024.2.23)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る