医者のいる町アバーロへ

第36話 ロフィエのストレートなでも本当は

 荷馬車に乗ったクリプスたちは、サクッとアバーロの町までやってきた。


「ありがとうなんだな。また会えればいいんだな」

 荷馬車の主とは、町の入口で別れた。


 その後、クリプスたちは宿を確保した。

 少し大きな町とだけあって、簡単に宿が見つかった。少し広めの四人部屋だ。



「それでは、行ってきます」

「むぅ……」

 不満そうなジャミスを連れて、オルバイドは町のお医者さんを探しに行った。


 そして部屋に残されたのは、クリプスとロフィエ。


「……これからどうするの?」

 ロフィエが訊いてきた。

「ジャミスのあの手とオルバイドの様子じゃ、治るまでこの町に少し滞在することになりそうだ。町に何かあるか探索しようと思う」


 ロフィエは少し考えてから、

「このロフィエ様もお連れしなさいよ」

 と言う。

 それは別に構わないが……。


「来るの?」

「ええ」

「……一人だと寂しいの?」

「そそそ、そんな訳ないでしょ! その……そう。このロフィエ様も町の様子が気になっただけなんだから」

「そうか。そう言うことにしておこう」

 と言いながらクリプスが部屋を出ると、

「ちょっと!! ホントなんですからね? 信じなさいよ!」

 ロフィエは怒りながらも、クリプスについていった。


    ★


 今回立ち寄ったアバーロは、少し大きな町だ。

 ゲーター侯爵領の町は行き交う商人のために発展した町だったが、こちらは町民を中心に商業で栄えている。

 メインストリートには店が立ち並び、町民や冒険者、旅人が大勢行き交う。

 クリプスとロフィエは、町に何かないか探して歩く。



 二人っきりで歩くと改めて思うが、ロフィエは小さめだ。

 ジャミスとオルバイドが大きめだからそうだと思っていたが、二人でも小さく感じる。ゲーター侯爵領の前にお世話になった荷馬車と再会した時にはクリプスの後ろに隠れられたぐらいだから、実際小さいんだと気付けたはずだ。

 態度はすっごく大きいから、そう感じさせなかったんだろうか。

 分からないが。


「こんな大きな町は、久しぶりだな」

「アンタ、普段何をしてますの?」

「流浪の旅人さ。目的もなくさまよって、旅のお金を稼いで。そんな生活」

「で、何がどうなって、アンタみたいなのがあの口臭くちくさ女と白腹黒と旅してるワケ? しかもドラゴンの」

 ロフィエはきっと、ジャミスとオルバイドのことを言ってるんだと思う。酷い言いようだ。


 そんなジャミスとの出会いはきっと……。

「偶然――いや、運命だったのかもね」

「はぁ!? キモッ!」

 ロフィエは怪訝そうな顔をして言った。

 言葉も表情も、すごくストレートだ。

「まさか、このロフィエ様との出会いも、運命とか言うワケ?」

「そうかもね」

「しっんっっっじらんない!!」

 その強い口調とは真逆に、ロフィエは不安そうに顔を動かさず、目だけで周囲を見ていた。


「どうしたの? 周囲気にして」

 それに気付いたクリプスが訊く。

「――その……みんながわたくしを見ているのが気になって……」

「ロフィエがかわいいから?」

「そ、それは当然として……」


(そこは肯定するんだ)

 ロフィエらしいと言えば、ロフィエらしい。


「みんな、わたくしの頭を見ていますの」

「頭?」


 ロフィエの頭と言えば、かわいらしいツインテール――と、角。魔人の象徴とも言える物だ。

 クリプスも初めて見た時には珍しいと思った。町の人も、そう思っているに違いない。


「髪で隠していた時期もありましたけど、不自然な髪型で逆に目立ってしまいましたわ」

 クリプスは角を隠すようにしたロフィエの姿を想像したら吹き出しそうになったが、なんとか堪えた。


「ですから、今はやや角を目立たないように出来るツインテールにしているのですが……やはり目立っていますわね。ま、角なんてないタダの人間のアンタには、このロフィエ様の気持ちなんて分からないと思いますが?」

 言葉では強気な部分を見せているが、ロフィエは明らかに落ち込んでいる。


 クリプスは周囲を見回すと、

「ロフィエ、ここでちょっと待ってて」

 と告げて、どこかへ走り去ってしまった。


「あ、ちょっと!」

 ロフィエは呼びかけるが、クリプスは振り返ることもなく行ってしまった。


「なによ……」

 と、不満そうなロフィエ。


「出会いは運命じゃなかったの……?」

 クリプスが消えた方向を見たが、姿は見えない。

 どこへ行ったかも分からない。


「また、一人になっちゃったじゃない……」

 うつむくロフィエ。


「どうして、素直になれないのかしら……」

 ロフィエは寂しさのあまり、本音が漏れ出てしまった。

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