遅咲きのサワン 〜ソロアイドルと2つのコサージュ〜
SHOW。
プロローグ 遅咲きのソロアイドル
——少女のように
彼女にはアイドルになる前から『サワン』という愛称があって、呼ばれているのは彼女の名前に由来するものだけど、もしかしたらそんなナチュラル表情も理由の一つなのかもしれない。
彼女はステージ上でアイドルとして、透明度の高い歌声を響かせ、聴く人の鼓膜を心地良く震わせながら、指の先から心の臓まで、たおやかで、滑らかな……観衆の視線を一身に受けるソロのダンスを披露する。
緑色と白色がベースでサワークリームがモチーフの、季節が冬のため露出度を極力抑えた丈の長いワンピースを、左胸に飾られた
バックミュージックにはどこか哀愁が漂うのに、アイドルらしくポップな、オリジナルのサウンドが流れ続ける。
歌って踊る中、観客の視点は変わらず彼女にのみ注がれていて、彼女がステージを広く使って移動すれば、観衆の視線もそちらへと流される。
そんな風に歌も踊りもレベルが高く洗練され、なんてことのない所作から大和撫子のような奥ゆかしさがある。成人女性の平均よりやや高い身長と、ビジュアルの美麗さから来る彼女の柔らかな雰囲気は、現実から浮き上がった可愛らしい偶像を作る。これがハリボテじゃなくて、全て彼女の自然体が織り成す圧巻の世界観。魅力を結集し、凝縮までした流麗さ。惚れない方がおかしいくらいの美しさだ。
ステージでの彼女の立ち振る舞いはまさに、正統派アイドルそのもの。グループアイドルが主流のこの時代に逆行する、かつての古き良きアイドル像を想起させながら、現在流行りの歌唱方法、ダンスパフォーマンスをしっかり吸収し反映している。彼女だけの唯一性もちゃんとある。
とても26歳になるまで、一度もアイドルとして、芸能の世界のステージに立ったことがないとは到底思えないくらいのポテンシャルを、彼女は惜しげなく発揮してみせる。
時は2010年代の後半。
変わらずグループアイドルが全盛の時代。
この広々としたステージ上には、ただ一人。
かつての憧れと後悔を追い掛ける少女の面影がそこにある。
20代の折り返しからキャリアをスタートさせた、遅咲きのソロアイドルである彼女。そんな彼女がステージのどこに居ても関係ない。彼女の居る場所こそが正真正銘、アイドルとしてのセンターとなる。
彼女の名前は——
これは少なくとも、高校時代からトップクラスのアイドルになれる素養があったのに、アイドルとしてステージに立つまで約10年もの月日を要してしまった彼女の、始まりのエンターテインメント——
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