商店スキルで快適異世界スローライフ 〜俺の商店スキルが最高すぎるんだが。発注したらなんでもタダで届くってチートすぎないか? 試しに核爆弾を頼んだら届いちゃったんですが。

コレゼン

短編

「なんだよスキルが商店って。佐伯、お前、そんなものをわざわざ選んで転生してきたのかよぉ!」


 細川のその一言により、クラスメイトたちの嘲笑があちこちで沸き起こる。

 

(今のうちに好きに言ってろ)


 俺、佐伯祐介ゆうすけは心のなかで思う。

 異世界転生において別に戦闘スキルだけが最善で最優というわけじゃないんだ。

 こいつらは既存の漫画やアニメ、小説の影響で頭が凝り固まってる。

 時間はかかったが、スキル選択は俺なりに熟慮に熟慮を重ねた結果だった。


 時間にして数時間前のことだった。

 修学旅行中のバスが事故にあい、俺たちは集団で死亡した。

 バスは高い崖から落ちてみんな即死だった。元の世界ではきっと今頃、すごいニュースになっていることだろう。

 その事故は本来予定にない事故とかで、俺たちはそれぞれが自由なスキル選択をしての転生のチャンスが与えられた。

 ただ容姿とかはそのままなので、どちらかといえば転生というよりかは、スキルを与えられての転移に近い。


「残念だが、選んだものはしょうがない。我々もできれば戦力になるスキルが欲しかったがね」


 訓練教官のザモスが言う。


 俺たち集団転生の魂がたまたま異世界召喚をしていた召喚術によってある国に集められ、今はそれぞれが得たスキルの紹介をしている最中だった。


「佐伯君といったね。君は残念ながら爵位を叙せられるのは難しいだろう。ただみんなも安心して欲しい。今度の戦争に勝てれば最低でも最低限の生活は国から保証される。戦争が終わったから用済みでポイ捨てとはならない」


 異世界召喚をした召喚国のヤミール王国はこれから近隣諸国と戦争を行うらしかった。

 その戦力として特殊なスキルを得やすい異世界人を得る為、異世界召喚を行ったのだ。

 俺たちの戦争への参加は半ば強制で、戦争で戦果を上げたものは貴族の爵位と裕福な生活の保証とがされている。


「ザモスさん、佐伯が貴族になれないのは妥当ですよ。こいつ元の世界じゃ超落ちこぼれだったんですから!」

「元の世界のことは関係ないだろ」


 落ちこぼれは事実だった。

 細川は事あるごとに俺を馬鹿にしてくる。

 こいつは異世界に来てもこれなのか。

 いい加減うんざりする。


「ああ? じゃあお前は転生してきて、頭も運動神経もよくなったのかよ? ゴミみたいな成績と運動神経しかなったお前はスキルで一発逆転狙うしかなかったんだよ、馬鹿が。大方いいスキルは判断の早いみんなに持っていかれて、ゴミみたいなスキルしか残ってなかったんだろ?」

「俺は商店スキルを選んだんだ。多くのスキルの中から厳選してな」

「商店スキルを選んだだと? 信じられねえ馬鹿だな。まあ戦闘にはゴミスキルでも、戦争の後に商人にはなれるだろうよ。頑張って儲けろよ。馬鹿なお前には無理だと思うけど笑」

「言ってろよ、商店スキルの優秀さも知らずにな」

「じゃあ、商店スキルの能力とやらを見せてみろよ」

「別にいいけど」


 俺は商店の店舗を出現させる。

 王城の敷地にある訓練場に突如としてそれは現れた。


「あっひゃっひゃっひゃ!! なんだよ、それは何の役に立つんだよ!」


 別のクラスメイトからも声が上がる。

 

「ええ、いいじゃん前面ガラス張りだし、異世界では店舗としては珍しいからうけるかもよ。だけど、こんなスキルのどこが優秀なのかはわからないけどね」


「…………」


 俺は特に反論しなかった。

 こんな表面しか見ずに馬鹿にしてくる奴らに、実際どこが優秀なのか説明するのもアホらしい。

 

 俺はクラスメイトたちの嘲笑の中、無言で店舗の中に入り、ガチャリと中から鍵をかけた。

 中に入るとクラスメイトたちの嘲笑はほとんど聞こえない。

 防音性能はかなり良いようだった。

 これは快適に過ごせそうだ。


 店舗の中には机と椅子とモニターとPC、後トイレに簡素なキッチンがあるだけだった。

 事前に聞いてた通りだ。

 俺は早速、椅子に座り、PCを起動して発注画面を開く。

 店の外では何やらクラスメイトたちが言っているようだったが、無視して作業続行する。

 

 ガンという音が途中で聞こえる。

 おそらくドアを蹴るなりなんなりしたのだろう。

 だが、心配はいらない。

 スキルを与えてくれた天使によると、この店は物理攻撃、魔法攻撃ともに無敵なのだ。

 いかなる攻撃によっても破壊されることはないとのことだった。

 俺は安心して作業を続ける。


 


〜細川視点〜


「あれれれれ――――? 佐伯君、ショックで引きこもっちゃったかなぁ? おい、出てこいよ佐伯! あっこいつ鍵かけてやがる」


 細川はドアを開こうとするがドアがガチャガチャするだけで開かない。


「おい、開けろや佐伯!」


 ドアを足で蹴り上あげる。

 すると逆に蹴った足が傷んだ。

 何の素材でできているのか、すごく硬い。


「ちっ」


 舌打ちを一つしてガラスウィンドウから中の様子を伺う。

 するとそこには何やらパソコンに向き合ってる佐伯の姿があった。


「えっ異世界でパソコン使えるの?」

「やってる振りじゃない? 電気もないんだからパソコンなんて使えるわけないし」


 クラスメイトたちの話していることに細川も同意だった。

 どうやら佐伯は現実逃避をして、ひきこもったらしい。

 まあしばらくしたら出てくるだろう。

 その時にまた盛大にからかってやるとするか。


「皆さん、それでは訓練をはじめますので集まってください!」


 訓練官のその声に従い、佐伯もクラスメイトたち共に集まった。




〜佐伯視点〜


「何、頼もっかなー」


 発注するエメゾンの画面はもう表示されている。

 商品が一覧表示されているが、金額欄はすべて取り消し線が引かれて、0に修正されていた。

 どんな商品でもタダで発注できるらしかった。どんな商品でもだ。

 隠されていたこのスキルを発見した時は興奮したものだ。


 まずは家電は最低限、エアコン、冷蔵庫、洗濯機は必要になる。

 それぞれ検索して適当なものを発注していく。

 次は布団にベット、それに炊飯器も欲しい。生活用品と食料品も次々とポチっていく。

 異世界は今、夏なのかかなり暑い。

 後は夏に必要なもの……。


「そうだアレも欲しいな」


 ポチり、カゴに追加する。

 本来だったら数十万に相当する買い物をしているはずだが、支払金額は0表示のままだ。

 逆にちょっとこわいが、ポチるのは楽しい作業だ。

 いつもなら抑制をかけるが、今は抑制を掛ける必要がない。

 なんでも欲しいものを手に入れられる。

 かといって不要なものはなるべく発注しないようには気をつけるけどね。


 俺はしたたる汗を拭いながら、夢中で発注作業をつづけていった。



 

 気づくと陽は落ち、外を確認すると今日の訓練も終わったようだった。

 そこで腹の虫が鳴り、異世界に来てから何も食べていないことに気づく。

 流石にお腹が空いたので外に出る。


「おい、引きこもりの佐伯がやっと出てきたぞう!」


 俺を目ざとく見つけた細川が馬鹿にするように言う。

 細川は無視して他のクラスメイトに声をかける。


「みんな夕食は?」

「王国が出してくれるって話しだけど……」

「じゃあ一緒に食べいこうよ」

「う、うん、いいけど」

「おい! 無視すんじゃねえよ!」


 俺は細川を振り返る。

 傍らには郷田もいるようだった。


「ごめん、先行ってて」


 夕食に誘ったクラスメイトを先に行かせた。


「なんだよ、うるせえな」

「てめえ、訓練さぼってんじゃねえよ!」

「色々忙しかったんだよ。明日は真面目にやるから」


 もちろん、そんなつもりはない。

 明日は今日頼んだ荷物が届くはずだから、たくさんの開封の儀が俺を待っている。


「郷田君なんか今日一日で足払い習得したんだぜ?」

「おい、細川。商店スキル持ちにそんなこと言ってやるな。可哀想だろ。ぎゃはははははは」


 細川と郷田は二人して大きな声で笑う。

 細川が魔術師系の上級魔術士、郷田が剣術系の確か剣聖のスキルを得ていたはずだ。

 元世界では脳筋で暴力的な郷田を細川がうまく利用しており、二人してよく俺を馬鹿にしていたものだ。

 うんざりしながら、俺は言う。


「そうか、よかったな。じゃあな」

「明日は郷田君に鍛えてもらえよ、佐伯」

「おう、存分に鍛えてやるぞ! まあ俺も訓練しないといけないから、お前なんかの相手どこまでできるか分からんけどな」


 体育の授業の時にマットを用意して、そこでプロレス技を練習だといって無理やりかけられた記憶が蘇る。

 どうせろくなもんじゃない。俺は二人の言葉を無視して、食事会場へと足を運んだ。




「なんか味薄いね」

「うん、まあ食べられないこともないけど」

 

 クラスメイトたちからチラホラと、食事に対する控えめな不満の声が上がる。

 

 食事は硬いパンとスープ。それに硬い干し肉のみだった。

 干し肉から塩気は感じるが、それ以外からはほとんど味がしない。

 本当に栄養補給の為だけの食事といった感じがした。


 一種のバイキング形式になっていて量は少なくない。

 だが、みんな訓練でお腹が空いているはずだが、量を食べているものは皆無だった。

 大食いで知られるような郷田ですらあまり量を食べてない。


「まだありますから、追加で欲しい方はどんどん言ってください!」


 給士の女性は善意で声掛けをする。しかし、その声に応じるクラスメイトは一人もいなかった。


 


「ゔゔゔ……あづい……」


 寝室は男女は流石に分けられたが、それ以外は5人部屋としてベットが用意させてそこで寝ることになった。

 

 季節は夏なんだろう、夜でもそこまで気温が下がるわけでもないのでかなり寝苦しい。

 俺以外にもなんども寝返りするものもいて、かなりの人数が寝付けていないようだった。

 寝る時にこんな暑さ、元世界だったら必ずクーラーをかける。

 クーラー嫌いの人間でも扇風機くらいはかけるだろう。

 だが、ここにはそんなものはなかった。

 

 異世界生活に憧れたこともあったけど、過ごしやすいかどうかという、こんな落とし穴もあるのか。

 現代の文明の利器のありがたさを感じる。

 その日は暑さに悶々としながら、中々寝付けずに終わった。



 

「それでは皆さん本日も訓練よろしくお願いします!」


 周りのクラスメイトたちは目の下にくまを作っているものも多い。

 寝苦しさにより中々寝付けなかったのだろう。

 俺も昨日はあまり寝れなかった。

 

 だがそんなことは関係無しに訓練が進む。

 俺は最初はみんなと一緒に訓練をする振りをした。

 そこで隙を見つけて、また店へと戻る。

 前面ガラス張りのオープンウィンドウになっているので、すぐにバレるが気にしない。

 午前中には荷物が到着するはずだから、訓練なんかしている場合ではないのだ。

 ネットでポチった後の一番の楽しみ、開封の儀が今日は何個も俺を待っているのだ。


 しばらく待機していると、早速宅配業者さんが訪れた。


「すみませーん!」

「はーい」


 俺は数箱の荷物を受け取りサインをする。


 よしよし、それでは開封の儀だ。

 この時のために訓練武器としてナイフをせしめてきていた。

 ナイフで開封の儀をはじめる。


 ナイフで荷箱を切り、開封していく。

 開封した箱から次々と商品を取り出す。

 商品は食料品や衣料品、生活用品などだった。

 まだ棚が届いていないのでそれらを乱雑に机の上に並べていく。

 

 ふと、あの宅配業者の人は一体どこからやってきているのかと疑問に思う。

 元の世界と同じような服装で台車を転がせていたからだ。

 まあその辺りの細かいことは、きっと考えたら負けなのだろう。


 その後も荷物は次々と届き、開封の儀と整理に忙しく追われた。




〜細川視点〜


「はあはあ」


 剣術の訓練を終えた細川はその汗を地面に滴らせる。


「全くやってらんないよなあ。こんな体を使ったしんどい訓練。こんなの脳筋の郷田みたいな奴だけにやらしてとけばいいのに」

「俺がどうかしたのか、細川ぁ」


 細川は郷田の声にビクリとする。

 気づかなかったが近くに郷田がいたようだった。


「いや、剣術を郷田君みたいにうまくできないなあ。悔しいなあっていってたんだよ」

「そうかそうか、まあお前は魔術師が本業なんだ。そんなにうまくいかねえもの、しょうがねえだろう」

「郷田君あれ……」


 細川は自ら見た方向を指差す。

 指し示した方向には、佐伯が出現させた店舗に何やら荷物を運び込む運送業者の姿があった。

 今日は何度か宅配業者が荷物を届けているのを目にしていたが、今度はかなり大きなものを運び入れてるようだった。


「なんだありゃ? 佐伯の野郎、今日もさぼって何してやがる」

「なんかあれ、大きさと形状から冷蔵庫のように見えるね」

「はは、そんなわけねえだろ細川。ここは電気も通ってねえ異世界だぜ」

「そ、そうだよね」

「次の訓練に移ります!」


 訓練官から号令がかかる。休憩は終わったようだった。

 うんざりしながら細川はまた訓練に移る。




〜佐伯視点〜


 今日の荷物の搬入とセッティングは大方終わった。

 冷蔵庫も入り、洗濯機も入ってセッティング済だ。

 どうやって電力を得ているのか、この店舗にはコンセントもあった。

 どこまでのワット数や電圧をサポートしているのか分からないが今のところ、ブレーカーが落ちたりすることはない。

 それに念願のエアコンも入った。クーラーが効いて快適に過ごせている。電気代もかからないのだろう。

 これでもう、いくらでも商品として食料品を発注できるし、一生引き込もることも可能だ。

 まあ流石に一生引きこもるということはないけどね。


 そこで通知音と共にレベルアップのアナウンスがされる。


『商店スキルはレベル2になりました。新たに宅配ボックス機能が使えるようになりました』


「へー、商店スキルのレベルアップなんてあるんだ」


 確認すると確かに宅配ボックスが追加されていた。

 ついでかチャイムも追加されて外と会話ができるようになっている。

 これでドアを開けなくても荷物を受取ることはできる。

 ただオープンウィンドウのこの店舗で居留守を使うのは今のところ、難しそうだけど。


 ピーという炊飯器でお米がたけた音がする。

 今度はポットでお湯を沸かす。

 俺は早速食事の用意をする。


 今日の昼食は白米に納豆、卵かけご飯に味噌汁。それにキムチだった。

 食料品はとりあえずで最低限度のものしか、まだ頼んでいない。

 だがこのシンプルな献立の組み合わせがベストなのだ。

 卵かけご飯の上に納豆を乗せて、かきこむ。うまい。

 味噌汁もインスタントだが、いい感じだ。

 昨日と今日の味気ない食事から、一気にまともな食事へと変わった。


 俺はそこで何人かのクラスメイトたちの視線がこちらに寄せられているのに気づく。

 別に見せびらかしてる訳じゃないが、オープンウィンドウなので、どうしても見られてしまう。

 気にせず俺は食事を進める。


 あー、うまかった。

 食器を洗った後にこの暑さだからと発注しておいた例のものを用意する。

 食後のデザートだ。


 そのデザートを食していると、郷田と細川がガラスを叩いているのを目にする。

 なんだよいい所なのに。


 


〜細川視点〜


「はあはあ、あちぃーー。くそ、水飲んじゃいけないってなんだよそれ。異世界は昭和かよ」


 訓練官から水分を補給することを禁じられていた。

 理由を効くとそれで精神も肉体も鍛えられるからとのことだった。

 脱水症状について抗議すると、そうなった時は状態異常回復魔法をかけるだけだと一蹴される。

 お陰で喉はからからだった。今もし地面に水たまりがあったら、そこからでも水を吸いたいくらいの気持ちだ。


「ちょっと見てよあれ」

「ほんとだ、佐伯君、なんかご飯食べてない?」

「ご飯と……お味噌汁飲んでる?」

「後、漬物みたいなの食べてるね。一体どこから手に入れたんだろ?」


 細川も佐伯の方を見る。

 確かに言われているようにご飯と白米、それに漬物を食しているようだった。

 異世界に来て、味気ない食事しかしていない。

 味噌汁の味とかも恋しかった。


「あの野郎……」


 後で詰めて、俺にも食事用意させてやる。


「次!」


 訓練官から号令がかかる。

 細川はクラスメイトと剣を持って対峙した。




「おい、細川あれを見ろよ」

「はあはあ……」


 膝に手をつき呼吸を整えている時に郷田から声がかかる。

 喉が乾きすぎて唾も出なくなっていた。

 細川は佐伯がいる方向を見る。


「あ、あいつ……嘘だろ……」

「だよな、間違いないよな、あの野郎。いくぞ細川!」

「うん!」


 郷田について佐伯の元へ向かう。


「おい、佐伯、てめぇ何食ってやがる!」

「俺たちが喉を乾かせて死ぬ思いをしてるのに、ふざけるなよ!」

「なんだよ、うるさいな」


 佐伯は声が通るよう店の天窓を少し開けた。


「お前何食べてやがんだよ!」

「何って」


 佐伯はそれを手に取り、口に運ぶ。


「かき氷だよ。あー冷た」

「おい! 今すぐ、店を開けて俺にもそれを寄越せ!」

「そうだそうだ! 一人でそんなものを食べてるんじゃない! 俺達にも食べさせろ!」


 佐伯は細川たちの言葉を無視して、かき氷を食べ続ける。

 途中、声を遮断するためか、天窓を閉じられた。

 

「ふざけんじゃねえ!」

「てめえころすぞ!」


 細川と郷田はわめきながら、目を血走らせてガラスに張り付いていた。


 食べてたい、かき氷が死ぬほど食べたい。

 かき氷を食べて限界まで干からびた喉を潤したい。

 火照った頭と体を冷やしたい。


 時折、頭がキーンとしたのか、佐伯のかき氷を食べる手が止まる。

 遂に、かき氷をすべて平らげた佐伯は、笑顔で空になったグラスを二人に見せる。


 殺す。その時、細川の胸に明確な殺意が芽生える。

 そんな二人を無視して佐伯はガラスを洗いにキッチンに向かった。


「あの野郎、殺してやる」

「そうだね郷田君」


 こんなに腹がたったのは久しぶりだった。

 ここまでの怒りを誘発するとは、我ながら食い物の恨みとはこわい。


「なんだこの音?」


 そう言われてみればブーンという音が聞こえる。

 音がなる方へ言ってみるとそこには、あるはずもない室外機があった。


「え、これって室外機? じゃあ……」


 店舗の中を再度確認するとそこにはエアコンのように見えるものがあった。


「まさか、あれエアコンか?」

「そんな訳、異世界にはエアコンなんてないし、電気も通ってないはずだし」

「でもさっきあの野郎、この暑さで長袖で汗一つかいてやがらなかったよな」

「それはかき氷食べてたからじゃ……」


 だとしたら室外機はどうやって動作しているのかという話しにもなる。

 まさか佐伯は自分たちが炎天下に訓練させられている中、エアコンの快適空間で過ごしているのか?

 佐伯に対するさらなる憎悪が湧いてくる。

 

 そこで、細川は一つの考えが浮かぶ。

 その考えを細川は郷田に耳打ちをする。


「郷田君、この後、槍の訓練があるから、その時――――をして――佐伯に目にもの見せてやろうよ」

「細川それはいい考えだな。じゃあ、俺に任せとけ!」


 二人は復讐心を胸に一旦その場は離れた。




「それでは槍の投擲の訓練をはじめます。味方には当てないようにきをつけてください。それでは開始!」


 訓練官のその声を合図にクラスメイトたちの手から次々と槍が放たれる。


「おおおりゃあああーーーーーッ!!!!」


 ひときわ大きな掛け声と共に一つの槍が郷田の手から放たれた。

 その槍は佐伯の店舗の方角へと一直線に向かっていく。


「よし、直撃だ!」

「郷田君やったよ!」


 放たれた槍はオープンウィンドウのガラスに直撃した。

 間違いないガラスは割れているだろう。

 これで奴を店舗から引きずり出せる。

 どうしてくれよう。

 あんなことやこんなことを様々な加虐案が浮かぶ中、店舗に到着してその目を疑う。


「そんな……こんなことって」


 確かに直撃したはずのガラスは無傷だった。確認してみたが、傷一つついてない。

 逆に槍の先端が破損してしまっていた。


「どうした、君たち訓練の持ち場を離れて」


 そこに訓練官のザモスが訪れる。


「い、いや、ちょっと変な方向へ槍を投げちゃったんで……」

「変な方向へ? 気をつけなさい、これは遊びの道具じゃないんだ。投擲も直撃すれば今の君たちなら一撃であの世いきだ。あれ? 槍の先端が……」


 ザモスが槍の破損に気づきそれを拾う。


「君たち……」

「わざとじゃないんです! 槍がこのガラスに当たったら壊れて」

「そんな訳ないだろう! 強力な盾で防がれたとしてもこんな壊れ方はしない! わざとか? それとも何かふざけてやったのか?」

「わざとなんかじゃないです!」

「ほんとです。槍はこのガラスに当たっただけなんです」

「……本日の君たちの夕食は抜きにする。それに今回の件は貴族への推薦にも影響すると考えておいてくれたまえ。君たちが手にしているのは、王国から支給された貴重な武器だ。物によっては一ヶ月分くらいの給料が飛ぶようなものもある。今回の槍のようにね」

「……すみません」

「すみませんでした」


 何を言っても信じてもらえないだろう事を悟った、郷田と細川は素直に謝る。

 ザモスは「全く……」とプンプンしながらその場を去っていった。

 二人は落ち込む。その時――


「おい、ざまぁーー」


 ガラスの向こうでニヤニヤとしている佐伯の姿があった。


「てめぇ、何笑ってやがる!」

「何が面白えんだよ!」

「可哀想に夕食抜きだってなあ。ああー可哀想になぁーーー。お腹空いちゃうーーー」


 ニヤニヤと小学生のように変顔をしながら佐伯は言う。

 単純な煽りだが、その様子に血管が切れそうになる。


「おい、てめぇ、そこから出てきた時、覚えてろよ!!」

「そうだ、戦闘スキルなしが、剣士と魔術師に逆らったらどうなるか思い知らせてやるからな!!」

「おおーこわ。それじゃ、その日を楽しみに待ってるぞ。じゃあな!」


 バタンと佐伯は天窓を占めて、奥に引っ込んでいく。


「おい、細川、訓練中の事故ってありだよな」


 額に血管を浮かび上がらせた郷田が述べる。


「もちろん、僕もそれを思いついた所だったよ」


 二人は佐伯への復讐の気持ちを強く新たにした。



 

〜天使視点〜


「ばっかもーーーん!!!!」


 天界に神様の怒声が響き渡る。


「すみません」


 一人の天使が神様の前でうなだれている。


「あれほど、スキル提供には気をつけろと言ったじゃろうがぁ! よりにもよってとんでもないスキルを転生者に授けおって! 世界のバランスが崩れるじゃろうがぁ! なんであんなスキルを授けたぁ!!」


 スキルはランダムに生成されており、その数は膨大で天界でも管理しきれていなかった。

 だからこそ、スキル選定の時に世界の理りを壊すようなスキルは授けないようにと厳命されていたのだった。

 

「あの子、なかなか々スキルを決めてくれなかったから……珍しいスキルだとは思ったんですけど、そこまで確認せずに……」

「珍しいスキルだと思ったんなら確認せい! 確認を!」

「デートだったんです! その日は! はじめてのデートの日だったんです!! だからあのスキルじゃないといくらでも時間をかけるってあの子が言って、待ちきれなくて……」


 神様は天使の独白を聞くと、顔を真っ赤にさせてゆでダコのようになる。


「減俸三ヶ月。ボーナスも今期は無しじゃあ!!」

「ボーナスまで! 神も仏もないわ! 鬼、悪魔ぁ!!」

「うるさい! 貴様、あの子がもし、とんでもないものを発注したらどうするつもりじゃ? 最悪、天界にも影響があるかもしれないのじゃぞ?」

「そんなことになるなら力を剥奪すれば……」

「それはできんのじゃ。これは全宇宙も含めたこの世界の理り。神のわしでも干渉できん」


 神はため息を一つ吐く。

 今はスキルを授けた青年が、その力をとんでもないことに使わないようにと祈ることしかできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

商店スキルで快適異世界スローライフ 〜俺の商店スキルが最高すぎるんだが。発注したらなんでもタダで届くってチートすぎないか? 試しに核爆弾を頼んだら届いちゃったんですが。 コレゼン @korezen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ